PandoraPartyProject

SS詳細

噴水妖精、噴水で死す

登場人物一覧

田中・智子(p3p006780)
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア

“冷たい……寒い……”
 身体に伝わる冷たい水の感覚。体感温度は氷点下を優に下回っているだろう。
 その耐え難い寒さに、田中・智子は腕を抱いて身体を震わせ、飛びそうな意識を必死に繋ぎ止めていた。何故こんなことになっているのか、それは彼女のみぞ知ると言ったところだろうか。
 そんな彼女はイレギュラーズであるが、いくらイレギュラーズとはいえ何の耐性無しにそんな場所に居続ければやがて身体は硬直し、意識も朦朧としてくるだろう。
「今夜はシャイネンナハト……」
 遠くから聞こえてくる声を最期に智子は上も下も分からなくなり、意識も身体も下へ下へと沈んでいってしまう。
 まさか、何故、どうして、誰が予想できただろうか。
 シャイネンナハトの街角の噴水に彼女が沈んでいたなんて。


 その物語は本当にひょんとしたことから始まった。
「今日はまだ誰もいらっしゃらない様子ですね……」
 時に多くのイレギュラーズが集い、時には混沌の大物が足を運ぶと言われる不思議な場所。見た目は何の変哲もない街角だが。いかにもな樽やドラム缶、焚火をしていたと思われる痕跡がしっかりと残っており、どうやら昨晩もここは賑わいを見せていたらしい。
 そんな場所に物部・ねねこが足を運んだのはまだ昼時の話。基本的に暗い時間賑わうそこは、物音ひとつ立たずに静まり返っていた。
「うーん、少しだけ休憩していきましょうか」
 ちょっとした買い出し目的で街に足を運んでいた彼女は、買ったものが詰まった紙袋を前に抱えつつ、どこか座れる場所が無いか探す。
 普段イレギュラーズたちが椅子の代わりにしている樽やドラム缶、ベンチもあったが、その時ねねこが座ったのは放流していない噴水だった。
「他の方が来るのはもう少し後でしょうか……?」
 そのままなんとなく空を見上げて呟いた。お天道様はまだ空高くまで昇っており、時間的に正午辺りであることを示している。日が沈めばこの場所も活気を取り戻すのだろうがそれはまだまだ先のお話。
 少なくともこの時間に街角で他のイレギュラーズに出くわすことは無いと彼女は思っていた……“それ”を見つけるまでは。
“ぷく……ぷくぷく……”
 不意に背後から泡のはじける音が聞こえれば、誰だって気になって目線をそちらに移すだろう。彼女の場合も例外ではなく、何気なく音の方へ目線を移した。
 それが“彼女”の運命の境目になったのかもしれない。
「あら……?」
 暫く放流のしていない藻が張った水面。そこは普段誰も気に留めないが、目を凝らして見ればその先に何かが沈んでいることが分かるだろう。
 この時点でねねこは、その沈んでいるものが何なのか察しがついてしまっていた。
 何故。
「これって……♪」
 それは、彼女のとある一面がときめいてしまったから。
 まるで今まで興味が無かったかのように地面に落とされた紙袋は破れ、中身が散乱閉まっているが、最早彼女の目線がそちらに向くことは無かった。
「今すぐ、私の手で助けてあげないと……」
 真冬の噴水の水は氷が張る程の極寒である。だが、ねねこは構うことなく沈んでいた“それ”を引き上げた。
「ああ、やっぱり……」
 件のとある一面、ネクロフィリアの彼女がうっとりしながら見つめるものは一つしか無い。
「田中さん……」
 死体。引き上げられたのは、長い間噴水の底に沈んで冷たくなった智子であった。
 智子が自らを噴水の妖精と称し、街角の噴水に生息していたことはここを利用するイレギュラーズであれば珍しい話でも無ければ、割と有名な話だ。
 だが、最近見かけることが無いと思えば、彼女は人知れず噴水の底に沈んでいたのだ。
「見つけた私が、検死かいぼうしてあげないと……。田中さんが可哀想だもの」
 まるで酔ったように頬を染めたねねこは、すっかり青くなってしまった智子を愛でるように撫でてあげると、いつも持ち歩いている解剖器具を取り出した。
 そのとき、恐ろしい程に静かな街角の噴水の影にて、1人のネクロフィリアの少女にヨル死体愛好が行われる……筈だった。
「あれ……」
 不意にねねこの表情が冷める。両手に持っていた解剖器具はすぐに地面に置かれ、彼女は冷たくなった智子の胸に手を当てた。
 微かだが心拍がある。
「も、もしかして……その、生きてます?」
 ねねこのギフト、“超検死”は死体に対してしか発動しない。そして、その“超検死”が発動しないということは、まだ智子が生きていると裏付ける証拠となった。
 イレギュラーズの異常な生命力と言うべきだろうか。二ヶ月前に噴水の底に姿を消した智子は、仮死状態のままずっと生きていたのである。
「って、こんなことしてる場合じゃないです! 早く助けないとっ!」
 智子が生きていることに気が付いたねねこの行動は速く、直後にハイヒールグレネードのピンが抜かれるのだった。


「知らない天井です」
 智子が目を覚ましたのは、既に日が暮れた頃の話。
 彼女自身の強い生命力とねねこの介抱の甲斐もあり、すっかり健康状態に戻っていた。
「気が付きましたか! 智子さん、本当によかったです!」
 死体と勘違いして解剖しようとしたことはさておき、ねねこは智子の意識が無事戻ったことを素直に喜んだ。
 一方で、二ヶ月の間噴水の底に沈んでいた智子の記憶は曖昧なものになっていたのだが、ねねこの様子と周りを見て大体何があったか察しがついたらしい。
「私が寝てる間に闇市は更新されましたか?!」
「ふえ……?」
 智子は寝かされていたベッドから勢いよく起きると、ねねこに迫るように問いかける。
「はい、つい最近……」
 ねねこが答える通り、闇市のラインナップは更新されたばかり。イレギュラーズたちは血眼になって武具を漁っている最中だった。
 そのことを知った智子の行動はねねこが言い終わるより早い。
「こうしては居られません! 闇市に行かないと!!」
 軽くお辞儀をして飛び出していく智子の姿を、ねねこはポカンとした表情で見送るのである。
 そして、こう思うのだ。
“爆死した彼女が、今度は本当に……”

  • 噴水妖精、噴水で死す完了
  • NM名牡丹雪
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2020年03月08日 22時05分
  • 登場人物2人

PAGETOPPAGEBOTTOM