PandoraPartyProject

SS詳細

忘却と約束

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸


「……あぶなかったぁ」
 ランドウェラ=ロード=ロウスは額に手を当て、己の失態を悔いるように声をあげた。
 纏わりついていた眠気を拭い去るように白手袋の甲でごしごしと瞼を何度も擦る。
 強敵と出逢ったわけではない。いつもの日課としてR.O.Oに潜ったは良いが、とんでもない眠気に負けて戻ってきてしまったのだ。
 正式なログアウトの手順を踏んだかは不明だが、現実に戻ってきているということは何とかなったのだろう。
 気だるさが残る身体を起こし、はたと左右で色の違う瞳を瞬いた。
「そういえば僕、誰かと約束しなかったっけ?」
 サァ、と眠気で白くなっていた肌がいっそう蒼褪める。
 ログアウトする直前のことだ。声をかけられたランドウェラは誰かと約束を交わしたのだ。
 安請け合いのように返事をしたことは覚えているのだが、その肝心の会話と約束の中身を綺麗さっぱりと忘れてしまっている。
 ということは、ランドウェラはR.O.O内で誰かと約束した直後にログアウトした可能性が高い。いくら眠かったからと言っても、それは相手に失礼だろうと頭を抱える。
「うあーー……」
 しかも肝心の誰と、どんな約束をしたのかを思い出せないだなんて。呻いてみたものの、まるで最初から無かったかのように、そこだけ情報が抜け落ちている。
 ログアウトした直後に誰かと約束する夢をみていただけなのではないかとも考えたが、約束したときの柔らかくて温かい感情の名残りが、ランドウェラのなかに燻っていた。
「よし。もう一回ログインしよう。向こうに行けば思い出すかも。もっといいのは、約束した相手がまだそこに居てくれることだけど……」
 望みは薄いかもしれない。
 約束を反故にしている罪悪感で眠気はすっかり飛んで行ってしまった。
「見つからなければいつも通り、レアエネミー探しに切り替えよう」
 サクラメントはどこかな、と視線を巡らせてランドウェラは無色の世界に首を傾げた。見守られている気配がするのだが、朧げな視界のなかには白も黒も、赤すら無い。
「それじゃあ、いってきます」
 見えない誰かにむかってランドウェラは声をかけた。 
 おかしいなことだとは思わない。
「最後にログアウトしたのは、どこだったっけ」
 雨の音にも囁き声にも聞こえるその幽かな気配はいつでもランドウェラの近くに在って、R.O.Oに潜っている際も無防備な身体を害そうとはしなかったのだから。

おまけSS『子守唄をさがして』

「ここじゃ、ない」
 多分だけどとランドウェラは続けた。
 錬達の街のなかはごちゃごちゃとした人で溢れかえっていて、普段なら活気があって楽しいと喜ぶところだが今は探し人が見つからないと肩を落とすだけだ。
「それにしても今日は目の調子が悪いのかなぁ。レアエネミーとも会えないし」
 こつこつと両脚で歩く。腕を走る鈍い痛みや欠けた視野。何より命彩が発動しない。再解の虚は無理なく発動できるというのに。
 そこまで考えてランドウェラはふと立ち止まる。何か引っかかる、例えば矛盾していることを自分が考えた気がして。
「あ、うん。ごめん。急に立ち止まったらあぶないよね」
 誰ともなしに謝って再び歩きだす。
 自分は何をかんがえていたのだったか。
「レアエネミーってどこに集まりやすいのかな。森? 川? 海は無いよね」
 ランドウェラの独り言に反応するように耳元のイヤリングが蒼色に揺れた。


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