PandoraPartyProject

SS詳細

子守唄と約束

登場人物一覧

ロード(p3x000788)
ホシガリ

layla lala layla...

 ロードは顔の半分を覆う大きなサングラスをずらすと目をこすった。そうでもしなければ今にも瞼がくっついてしまいそうだったからだ。
 眠気のせいで半月に溶けた紫水晶は朧気に曇ったまま、蒼色の海底フィールドを見つめている。
 エネミーの一匹や二匹でも出てくれば少しは目が覚めるのだろう。けれども先ほどからロードの瞳に映るのは大小問わず無害なNPCしろばかり。
 あまりの単調さにイルカのように欠伸をすれば丸い気泡が弾けて消えた。
 思えばログインする前から眠かった気もするが、実際にログインしてからも眠気が継続しているのは不思議だ。
 ――ああ、そうだ。エネミー。エネミー探さないと。
 白柄の長刀を背負い直して、どうしてそこまでしてR.O.Oにログインするのだろうと自問する。
 何か答えを掴めそうな気がしたが眠気に敗北しかけの脳からするりと抜け落ちた。
 ――頭、ぼんやりするなあ。
 でも日課となっている見回りだけはしなくちゃ。
 気持ちだけは白い骨のように硬く残っていてロードを前に動かし続けている。
 エネミーやバグは無い。代わりに穏やかなフィールドミュージックが流れ続けている。
 今日の異変といえばそれくらい。
 ゆら、ゆら。鮮やかな魚と珊瑚。天井にある白い太陽とちらつくホワイトノイズ。子守唄のような歌声に包まれて穏やかに揺蕩いながら進んでいく。
 ――癒し系フィールド、っていうんだっけ。こういうの。
 雨で溺れて死にかけたかと思えば海底でも息が出来る。
 R.O.Oは現実世界ではない。なので不思議な現象も起こるし、現実世界とは異なる事象が起こりうる。
 うん、今日はもうログアウトしよう。
『  』
 そう決めてサクラメントまで戻ろうとした時ロードに語りかける声があった。
「うん、そんなこと? ならいいよ」
 なぁんだ、ビックリしたなぁと。くすくす笑いと舌足らずな声でロードは了承する。それくらいの約束なら構わなかった。
 あたたかくなった胸を押さえてロードは満足そうに頷く。イヤリングが光を反射して耳元で輝いた。
 恐らくロードは交わした約束を忘れてしまうのだろう。何故なら此処は電脳世界であって現実ではない。
 けれど、それでも。
 見えない誰かの声を大切に抱えてロードはこの世界を後にする。


lala layla layla...

おまけSS『彼が海底にいた理由』

「きっと、普段通りの場所を調べるだけじゃダメだと思うんだ。エネミーさがし」
 普段から空中に浮いているロードが地面に足をつけることは珍しい。己のアバターの小柄さを隠すためでもあるが、せっかくの電脳世界なのだから普段の現実とは思いきり違う経験をしてみたい。と思った要因もほんの少しだけある。
 それでもきっちり砂浜に足をつけ、遠く遥かなる水平線を眺めながら決意に燃えた表情で告げる姿をみれば、誰だってエネミーさがしへの情熱が冗談ではないと分かるはずだ。
「森や街だけじゃなくて、空とか海とか神殿とか火山とか地下遺跡とか、普段は行かない場所もチェックする必要が、あるとおもう。あるかどうかは分からないけど」
 多分、あるはずと小さな声でつけたした。
 バグやエネミーを見落とさないためにはどうすれば良いか。毎日ログインして見回りをするのは勿論の事、バグの狭間、異変が無いかどうか。自分の足で歩き回ってチェックする。
 ロードは自分の出した答えに頷いた。
「問題は、そう――」
 広大なこの世界の、どこから手を付けたものかなぁって。


PAGETOPPAGEBOTTOM