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指切り
登場人物一覧
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「
雪になりきれない中途半端な霙が、雨樋を伝ってポタポタと音をたてていた。
魔種となってから寒さに強くなったこの身に如月の寒さは堪えぬが、炭がパチパチと爆ぜる火鉢の傍で寝転がるひとときというものが嫌いではない男は、火鉢の前を陣取って。「あ゛ァ?」と出た低い声にも
「いらねェ……ってなんだ、文だけじゃあねェのか」
折って結ばれた文と小さな小箱を置いた手下は「頭がいらなくとも勝手に捨てられませんぜ」と苦笑しながら離れたいく。男に断り無く文を読むわけにもいかぬし、勝手に必要か不要かを決める訳にもいかない。大層気分屋のこの上役に『前回捨てろと言っていたから』と捨て、斬り捨てられた者も少なくはない。
面倒くさそうに伸びた爪の先で箱を結ぶ紐を摘んでほどけば、懐紙に包まれた何かが鎮座していて。
箱をひっくり返せば懐紙からは――ころんと
蓋が開かぬように結ばれた赤い紐は臍の緒でも意味していたのか。
雑に考えるが、知ったことではない。
――愛しとるんよ。
――ねえ、わっちの旦那になって。
気まぐれに抱いた女たちは、みな同じようなことを言う。
見請けされたい一心なのか、本心からなのか。そんなことはどうでもいいし、興味もない。
「
男はつまみあげたそれをポイと投げ捨てた。
燃え尽きた灰燼にも似た曇天と
『愛』とやらの行き着いた先に、男の口角が上がった。
「ははァ」
「頭、どうしたんですか? 何か良いことでも?」
「少しなァ」
怪訝そうな顔をする手下に「宴会でもするかァ」と新しい酒と肴を持って来いと命じれば、「寒いので熱燗にしやしょう」と同伴に預かれる手下が笑顔となった。
――恋だ約束だなんだとこんなもので、腹を満たせるのは犬くらいだ。
チラチラと降る霙はいずれ雪になり、いくつもの約束を消すのだろう。
- 指切り完了
- GM名壱花
- 種別SS/IF
- 納品日2024年03月07日
- テーマ『それは愛しく、あたたかな』
・焔心(p3n000304)
※ 耀 澄恋からの提案