PandoraPartyProject

SS詳細

罰であろうか、罪であろうか

登場人物一覧

冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

 再現性大正。豊穣カムイグラに似た服装の者どもが良く歩く都市の裏路地にて、アーマデル・アル・アマルと冬越 弾正は歩いていた。薄暗い中、わずかな血のにおいが、する。互いにある程度負傷していた。ここに跋扈している異形――妖怪とでも言えるのであろう、それなりの大物、人にうらみつらみのあるもの。それを退治した後だ。
「怪我の具合は大丈夫か?」
「なんとか」
 アーマデルの伺いに、弾正は曖昧に答えた。深くはないが浅くもない、あとで治療は必要であろう。それよりも自分の連れ合いが何か気にしているようだから、先導する彼について行こうと考えている。



「アーマデル?」
 立ち止まったおのれの連れ合いに弾正は問いかける。石があった、注意して見なければそのあたりに置かれている置物としか見えなかったであろう。それには良く見ると豊穣の文字でなにごとか書かれている。血のにおいは相変わらずしていて、止血が必要だろうと考えながら覗き込んだ。鎮魂の意の文字が書かれている。そりゃこのあたりで殺された子供のものだよ、さっきあんたらが盛大に大捕物したものだぜ、古風な服装をしたぬらりひょんがそう言う。次いで河童がそれをあんたらが倒したんだ、と裏路地の向こう側にある小川からけらけらと笑いながら言う。アーマデルは膝をつくと、静かに祈りの仕草を見せた。おのれの信ずるもののそれではあるが、それでも、と。
「……一緒にやってもいいか?」
 弾正の言葉に、頷くアーマデル。アーマデルに習って、二人で祈る。静かな時間が過ぎる。その様子に妖怪どもは偽善、自己満足と嗤うが、それでも二人は構わなかった。すでに打ち倒してしまったものに対して真摯に祈る、すると自然と妖怪どもも静かになっていった。つまらないと思ったのか、それともその厳かな空気に近寄れなくなったのか、その双方か。ともあれ野次馬は消えて、二人は祈りを終える。偽善、自己満足だろうと構わなかった、相手がどのように恨みつらみを持っていたか想像することは叶わないが、その持ち主が子供であるということはしのびなく思えた。そんな当たり前の人間としての感性が二人にはあった、だから祈った。それだけの事実が鎮座していて、石は何も答えてくれはしない。相変わらず、血のにおいが、している。



「止血をしよう」
 しばらく歩いて、アーマデルが布を裂いて言う。さすがに隠すには無理のあるにおいだったかと思案しつつ、大人しく太腿を差し出す。適切な止血を受けたあとに弾正もまたおのれの上着を脱いだ。それをアーマデルの腕へ、きつめに縛る。腕から時折ぽつぽつと血の雫が垂れているのを見逃す弾正ではなかった。
「お前もな」
「……恩に着る」
 祈りの前に血を止めなかったのは、先の相手に対する感情か。ごめんなさい、申し訳ない、そう思うことは罰であろうか、脅威であるからして無知のまま倒すのは罪であろうか。
「どうすれば、よかったのだろう」
「俺達は何も知らなかった。たらればを考えるのは無理筋だ」
 そう言いながら、妖怪どもが何も言ってこず、ことが終わった時にここぞとばかりに責めてきたのを多少恨めしく弾正は思った。アーマデルはかぶりをふると、そうだなと簡単に答えた。しかしながら内心では感傷にふける時間は大切だと感じている、喪失は心の内にすぐになくしていいものではない、人として在るのであれば、喪失の虚しさ、悲しさは抱いて然るべきである。そうして向き合い、おのれの心と対峙するのだ。血のにおいは、薄まっていた。



 腹を空かせていたすねこすりに菓子をやれば守るように二人の足元をついてまわる。多少邪魔ではあるが可愛らしくはあったので放置していた。その様子をみてアーマデルはいつ周辺の妖怪が牙を剥くとも限らぬ、と小さなものをみて弾正を守る決意を固めるかたわら、弾正もまた同じようなことを考えている。そのように、似たり寄ったりの二人である。
「……っと」
 太腿の傷が痛まないわけではなく、少し躓いた弾正の手を負傷していない手でアーマデルは取った。その手を繋いだまま、二人は歩く。
「たらればを考えるのは無理筋、とは言ったが」
 ぼんやりと弾正は切り出した。
「それでも考えずにいられないのは、分かる。後悔することもあるし、それを引きずり続けることも。……その時間は……辛いけれども、きっと大切なんだろう」
 同じようなことを考えていた愛しい相手の言葉にこたえるように、手を握る力を少しだけ、柔らかに強めた。
「ああ。何も思わない、感じないよりは、ずっと」
「……そうか」
「そうだ」
 だから、お前の抱えているものも、おのれと一緒に抱えさせて欲しいと――アーマデルは想う。血のにおいは、薄まっていた。



 帰路につく。二人を揶揄する妖怪の声は陽の当たる場所に出ればなくなっている。そう、気づけば陽はのぼりはじめていた。ちらほらと人の往来が見えてくるにつれて、二人は繋いでいる手を名残惜しくはなした。洒落たカフェの文字が見えて、ぐうと二人の腹が鳴る。苦笑して、自分たちのなりを見る、怪我はしているものの、入ってもよかろうと――ひととき、甘い時を過ごそうとした。そのときに、助けて! という悲鳴が聞こえて、どうやらスリに遭ったらしい女が走る男の背に手を伸ばしている。アーマデルと弾正は肩をすくめて、それから駆け出す姿勢をとった。血のにおいは、すっかり消えていた。

  • 罰であろうか、罪であろうか完了
  • NM名tk
  • 種別SS
  • 納品日2024年02月03日
  • ・冬越 弾正(p3p007105
    ・アーマデル・アル・アマル(p3p008599

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