PandoraPartyProject

SS詳細

贅沢の使い方

登場人物一覧

アルビレオ・エトワール(p3x000282)
星と陽の理解者
ロード(p3x000788)
ホシガリ

 その日、ロードはログインしたものの少々暇を持て余していた。
 エネミー探しに行ってもいいがいまいち気が乗らない、かといってやることもない、そんな感じだ。
 街中で人を眺めていればあちらこちらで白白白。黒い人は別の黒い人と連れ立ってどこかへ行くのだろう。
白や黒というのはロードのアクセスファンタズムだ。その人がNPCかどうか判別できるもの。これのせいで少々他人が見えにくいのが困った勝手に発動するアクセスファンタズムである。
 やることを求めてもう少し、屋根の上まで高度を上げればぼんやりと屋根に座って空を見上げている人の姿が目に入った。アクセスファンタズムのせいで黒いが、背中に妖精のような羽が見える。
「黒か……」
 思わず呟くと、存在に気づいたのか彼と目が合った。緑の瞳が丸くなって不思議そうな顔をする。
「ねえ、そこの妖精さん。暇?」
「暇だけど、どうして?」
 当然の問いかけに一瞬迷って、そういえばあちこちで噂になっている森があったことを不意に思い出した。そこにしよう。
「あっちに面白そうな場所があったから行こうぜ」
「確かに僕は半分妖精だけど、知らない場所で誰かを導くのは保証しないよ?」
 くすっと笑ってから、彼は浮かび上がって言った。
「それでもよければぜひ。僕はアルビレオ。アルビレオ・エトワールっていうんだ」

「カニー!」
「カニカニカー」
「カーニー!」
「蟹って『カニ』って鳴くんだっけ?」
「鳴かないだろうなぁ」
 やってきた噂の森。最初こそ何事もなく穏やかな散歩になると思われていたが、数分も経たない間に二人は小さな蟹の群れに追われていた。『カニー』と鳴く蟹である。ギャグに聞こえるがギャグではない。
 森のはずなのにどこからともなく湧いてきて、小さなハサミで足を挟んできてとても痛い。
 最初は振り払っていたものの、段々と量が増え、振り払うのも難しくなり、逃げるしかねぇ! と逃げ出す羽目になっていた。
 何が嫌といえばHPが削れるというよりもフィールドギミック的なもののようで、飛行してようが木から飛び降りてきた蟹がぶつかりながら挟んできて、集中力が途切れる点であろうか。
 ロードが刀で思いっきり振りぬいても真っ二つになった蟹がそれぞれ小さな蟹に再生する。
「嫌すぎるなこのシステム!」
「かにー!」
 ついでに鳴き声も半音上がる。どうでもいい機能まで実装されていた。そりゃこんな妙な生き物が多数出てくる森なんて噂にならないわけがないな、と思うのは若干の現実逃避。
「えっと……こっちだよ」
 手に浮かべた光を見てアルビレオがロードを引っ張る。ふわりと浮かぶ白みを帯びた光はアルビレオのアクセスファンタズム。方角によって色の変わる不思議な光を、簡単に触れられそうな星のような光を、自身のアクセスファンタズムを通さずに偶然見えたその光を、ロードはとても綺麗だと思った。
 ようやく森を抜けきると、蟹から解放されて二人は顔を見合わせて笑った。
「あはははは、酷い森だったね」
「本当にな。ギミックのセンスが謎だったよな」
 『カニー』と鳴く蟹が蔓延る森なんで考えたやつのセンスがわからない。せめて海なら理解の余地も……あったかもしれないのにだ。
「わかるよ。あんなところでレアエネミーが湧くのなら巨大化した蟹だったりして」
「あの森で戦うのはちょっと勘弁かもな」
 レアエネミーは気になるが、と悩むロードにそういえばとアルビレオが言った。
「どうして僕を誘ったの?」
 面白そうな場所なら一人で行ってもよかったのに。
 確かにそれは当然の疑問で、少し考えをまとめてからロードは言う。
「暇って結構贅沢じゃね?」
「贅沢?」
「そう、何もしなくていい。何をしたって良いってのは贅沢だろ?」
 で、さ。と続ける。
「その贅沢を誰かと共有できてるってすごくねぇか?」
 それが今からできることだとしても。ログアウトしたら現実に戻ったら向き合わなければならない出来事があったとしても。
 数刻前まで暇をして時間を使っていたのは確かで。何をしてもいい時間をお互いに共有する。それは確かに贅沢で、それこそ奇跡みたいなものなのかもしれない。
「確かに、そんなこと考えたこともなかったな。ロード君は大人みたいなこと言うんだね」
 変な蟹の出る森だったけれど、ロードとアルビレオの二人で体験することができたのは暇という名の贅沢を共有することを選んだからなのだ。
 暇とは贅沢で、その贅沢を共有することもまた、贅沢なのだろう。

「良かったらまた遊ぼうか」
 次いつログインするかわからないけど、といいながらアルビレオは小指を見せる。
「おう、約束だ」
 結ばれた指。約束。
 案外とその正体は近いところにあったりするのだが、きっと知る必要もないだろう。

おまけSS『意外としつこいカニ』

「ところでさ」
 帰り道、ふとアルビレオがロードの持ってる刀を指した。
「なんかついてきてない?」
「え?」
 指の先を辿ると刀の柄の部分に蟹が三匹、私達は刀飾りです、と言わんばかりに連なってくっついていた。
 引っ張っても謎に力強くて取れそうにない。というかハサミを千切ってしまうとまた謎の再生能力で蟹が増えるのではないかと思うと迂闊に傷つけられるものでもない。
 それからしばらく、ロードの刀には蟹がくっついていた。
 刀を振って大きく揺れるとたまに『カニー』と鳴いていた。
 そして数日と時間が空いて、気が付くとデスポーンのタイミングが来たのか消えていた。
 変に鬱陶しい蟹であったとさ。


PAGETOPPAGEBOTTOM