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ドラゴンの年も2月になってしもうたのじゃ
登場人物一覧
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豊饒では来年はドラゴンの年だという。
ベルナルドは画材を手に思案する。
なんでも豊穣に伝わる風習で、一年を司る動物たち12匹がいるのだとか。そして今年はドラゴンの年なのだとか。
ふむ。果たしてドラゴンとは――覇竜にいるようなものだろうか。其れとも豊穣特有の風土で培われた、伝承の動物であろうか。
「――考えていても仕方ねえな」
ベルナルドは立ち上がる。
来年がドラゴンの年ならば、きっと其の準備をしているはず。一年を司る動物なのだから、きっと盛大に飾られるのだろう! ならば、其れは絵描き――いや、全ての芸術家たちにインスピレーションを与えるに違いない!
こうしてベルナルドは画材を片手に豊穣の奥地へと向かった。
とんでもねえものが待っているとも知らずに――
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そうしてベルナルドは海を越え、山を越え、カジキマグロが実る地――いやなんて? 兎に角カジキマグロが実るんだよ!! 確かめたんだよ! 本当なんだよ! 一面がカジキマグロだったんだよ!
――兎に角、色んな場所を乗り越えて、気付けば高天京郊外の地下洞穴にいた。なんて????
「此処が……ドラゴンの年を祝う地か……?」
ベルナルドは信じられないものを見ていた。ドラゴンの年云々とかじゃない。これは豊穣特有の行事か何かか?
カジキマグロの頭をした古武士たちがカラフルに輝くライトセ……ライトカタナを手にし、或いは槍からビームを放ち、戦い合う光景だったのだ……!! いやこれ考えたの誰なん??
「ベルナルド……」
「其の声はアーマデル=アル=アマル! こ、この光景は一体……!?」
「年末だというのにろくに歓迎も出来ずすまないな。というか年末だからこそか……こいつらはいつも以上にあらぶっていてな、色数が多い」
「色数???」
「約1680万色だ」
――多いなあ~~!!!!
予想外の数字にベルナルドは思わず背後に宇宙を背負いそうになった。堪えた。偉いね僕の友人、って何処かの絵描きさんが言った。
「ついてはすまないのだが手伝ってくれないか」
「……何をだ?」
「鎮魂だ」
「鎮魂」
「この拾ったライトカタナを使うと良い。奴らはライトカタナでしか倒せない」
「倒す」
「ああ。俺とお前でタッグを組めば、この程度の霊を鎮めるのは容易い。さあ。さあさあ。」
ずずい、ずい、とアーマデルがライトカタナを差し出して来る。
しかし絵描きのベルナルドにはカタナの心得などない……切腹なら知ってるけど其れ以外知らない……そうだ!
「待てアーマデル、俺に名案がある」
「名案?」
「この景色を――描くんだ! これは年末恒例の行事なんだよな?」
「まあ……そうなるか」
めっちゃうろ覚えみたいな感じで返すやんね。
でもベルナルドは其れをYESと取った。古戦場を見下ろす丘にどっかと座ると、すわとキャンバス、そしてパレットを取り出した! 絵描きの武器はカタナではない――絵筆と其の想像力なのだ!!
「そうだ……約1680万色……! いっそ腕が鳴るぜ、全部俺の筆で再現してやる! アーマデル、俺が援護する! 斬り込め!」
「ベルナルド……! わかった」
こくり、とアーマデルは頷くと、カラフルなライトカタナを持って古武士たちの群れへと斬り込んでいった!
赤が唸る! 青が冴える! 黄色が軌跡を描いて、緑が輝く! 紫がさざめいてあと白黒が色々!!
其れ等をベルナルドの目はしっかりと捉え、絵に描いていく。ただ一つ異なるのは……古武士たちの頭がカジキマグロではなく、人間のそれらしい顔だという事だ。
そしてアーマデルが斬り払うと……なんという事だろう! 古武士の頭が爆発めいて輝き……いや爆発した! 爆発したわ! そして出てきたのはベルナルドが描いた通りの顔ではないか!
「はっ!? わ、わしゃあ一体何を……」
「正気を取り戻したか」
「うおっ其の刀まぶしっ」
「お前もこのライトカタナ……もしくはビーム=ヤリで戦うと良い。其れがきっと、皆の為になる」
所でこの(元カジキマグロ頭の)古武士の霊、アーマデル的には割とぎりぎりな存在なのだが其れは良いのだろうか。良いんだろうな。だってまずヒトに戻さないといけないもんな。
「ドロップアイテムがあれば教えてくれ。カジキマグロなら尚良い」
「わ、わかった……!! うおおおお! ちぇすとぉーー!!」
そう、此処が薩摩よ! とばかりに駆け出していく古武士とアーマデル。
其れを只管に描くベルナルド。
そうして倒した分だけ味方は増え、アーマデル軍は段々と優勢になり……
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「……終わったな」
片手にカジキマグロ(戦利品)を抱えたアーマデルは、鎮魂を終えてベルナルドの元へ戻って来た。
ライトカタナがちかちかしている。もう彼の役目も終わりなのだろう……
「ああ。お陰様で良い絵が描けた」
「ほう? 見ても良いか?」
「勿論。お前さんが主役だからな」
誇らしげなベルナルドがくるりと引っ繰り返したキャンバスには、色とりどりに輝くライトカタナを振るう古武士……じゃねえや、アーマデルが描かれていた。あのカオスと狂乱のなかよくこれだけのものを……理性を持って……
「――良い絵だ」
「年末年始には丁度良い、めでたそうな絵だろ」
「ああ。さて、では鎮魂も終わった事だし……」
「ちょっと待ってくれ。アーマデル、悪いが其のカタナを貸してくれないか?」
ん? と振り返ったアーマデルに、ベルナルドは立ち上がりながら言う。
「俺も振りたくなったんだ……約1680万色ってやつを」
にや、と笑ってみせるベルナルド。
感動のシーンではない。カオスはまだ終わっていないのだ。
「――。ああ!」
だけど其処でキメちゃうのがアーマデル=アル=アマルって男なわけ。
二人の男は輝きを取り戻したライトカタナを持ち、戦士の顔で笑ったのだった。
ところでドラゴンは何処に行ったんですかね。食べちゃったんですかね。マグロが。