PandoraPartyProject

SS詳細

故意のから騒ぎ

登場人物一覧

ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
悲劇愛好家
斉賀・京司(p3p004491)
雪花蝶
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号


 生放送形式の「未来食堂 ~キッチン新次元」の撮影は練達テレビの新麹町スタジオで行われる。リハーサルの準備が15時からなので、その前にスタジオ入りしなくてはならない。
 最新の調理家電を使用して新しい料理の次元を探求し、視聴者に未来のキッチン体験を提供するというのが番組のコンセプトで、今回で放送2回目になる。
(「まさか続くとは……」)
 鵜来巣 冥夜(p3p008218)はテレビ局の地下駐車場に黒のワンボックスを滑り込ませながら、ため息を腹に沈めた。
 初回放送はトラブルの連続だった。
 電子レンジの中にタマゴを入れて爆発させるとか。いや、それは可愛い失敗だ。電子レンジあるあるで、さりげなく視聴者に使用上の注意点を説明することができた。
 それよりも、もう1つのやらかしの方が恐ろしい。
 どうやったらハンドミキサーで温泉を彫り当ててしまえるのか。未だに不思議でならない。
 運よくスタジオの地下出入口に一番近いところに空きスペースを見つけ、駐車する。
 エンジンを止めて後部座席に声をかけようとした瞬間、バックミラー越しにクロサイト=F=キャラハン(p3p004306)と目が合った。
 チッ、と小さく舌打ちする。
「どうやら無事テレビ局に辿りつけたようですね。よかった」
「まるでこの車が戦地の真っ只中を走り抜けてきたような口ぶりだな、悲劇野郎」
「そりゃあもう、馬の骨の運転ですから……。何が起こるかわからないので、怖くてずっと目を瞑っていました」
 話し声に気づいてルミエール・ローズブレイド(p3p002902)と斉賀・京司(p3p004491)の二人も起きたので、 冥夜は「ただ寝ていただけだろう」という罵倒を呑み込んだ。
「つきましたよ、ルミエール様。京ちゃん、おはよう。少しは休めたか」
「ちょっとは休めたかな」
 ルミエールが口に手をあてて小さく欠伸する。
「このところ大きな戦いが続いているからね。疲れているだろうけど、二人とも今日の収録、頑張ってね。じゃあ、行くよ。ほら、荷物を持って車から降りる」
 カチッ、カチッと音をたててシートベルトが外される。
  冥夜は急いで車を降りると、ルミエールのためにドアを開けた。
 京司とクロサイトも車を降りる。
「……何も事故が起きなければいいけど」
「そうですね。でも2度あった悲劇は3度目もあると言いますし」
「京ちゃんはともかく、スタジオの床をぶち抜いたお前が言うな。それにまだ一度目だ」
 静かに視線をぶつけあう2人の間に、京司が割って入る。
「ストップ。リハの5分前だ」
 出入口からルミエールが腕を振って3人を呼ぶ。
「何してるの早く! 遅刻しちゃうよ」


「京司さん、クロサイトさん、入られます」
 アシスタントの声がスタジオに響く。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
 2人は会釈しながらスタジオに入った。まばらに拍手や返事が聞こえてくる。
 スタジオの中央にキッチン、右手に本日使用する調理家電を並べた台と家電メーカーの社員、左手にMC席がある。キッチンの対面は観客席なのだが、リハーサルの間はパイプ椅子が並べられているだけで誰も座っていない。
 冥夜とルミエールは1カメの後ろでリハーサルの様子を見守る。
 2人が競いあいながら料理する、といってもバトルタイプの料理番組ではない。家電メーカーから提供された調理家電を使ってそれぞれ料理を作り、互いに試食して、視聴者にもその商品で調理してみたいと思ってもらう平和的なものだ。
 2人が同時に調理し、また観客を入れるため、収録は一番大きなスタジオで行われている。体育館ぐらいの大きさだ。
 ルミエールは応援うちわをきゅっと握りしめた。
「2人の料理、楽しみだね。今回もあとで食べられるんでしょ?」
「食べ物を無駄にするわけには行きませんからね。ですよね、ディレクター?」
「もちろんです。好きなだけ食べてください」
 番組ディレクターがにこにこ笑いながら、質問した冥夜を無視し、ルミエールに向かって答えた。
 忙しく動き回るフロアスタッフたちも、ルミエールの傍を通る際には必ず笑顔で挨拶する。
 京司とクロサイトのマネージャーだからというよりも、本人の魅力によるものだろう。
(「ルミエール様は本当にみんなから愛されているな」)
 冥夜はお嬢様の人気ぶりが我がことのように誇らしくて仕方がない。
 リハーサルは順調に進んでいる。
 本番と違って料理はしない。京司とクロサイトは調理の手順を確認し、家電の使い方をメーカーさんからレクチャーされて終わりだ。
 食材や調味料がそろっているか、ちゃんと指定された場所に置かれているかはスタッフが確認する。
 京司とクロサイトが2人のところへやってきた。
 ルミエールが本番中に着用するエプロンを手渡す。
「お疲れ。どう、ちゃんとやれそう?」
「問題ない」、と京司。
「フォルネウスは?」
「私自身に問題はありませんが、いつ何時天変地異がこのスタジオを襲うか予測がつきません」
 もしも、と続けるクロサイトを京司が遮る。
「確率は限りなくゼロに近い。それよりまた収録中に家電が壊れる確率の方が高い」
 前回、使用した家電が壊れたわけではないのだが……。
「あ、忘れてた。私、京司とフォルネウスにお守り買ってきてたんだ。収録中に壊れませんようにって」
 ほら、といって、たすき掛けしたスマホバックから、嬉しそうにピンク色のお守りを2つ取り出した。家電開発者がよく参拝する再現性京都の電電宮神社のものだ。
「お守りの中には電子チップが入っているんだって。うふふ、変わってるよね」
「うれしいな。ありがとう」
 京司はさっそく首にかけると、エプロンの内側に落とした。上からぽんぽんと抑えるようにお守りを叩く。
「私のためにわざわざありがとうございます」
 クロサイトはお守りを受け取りながら、どうだ、うらやましかろうと含みを持たせた視線をマネージャー補助にむける。
 冥夜は頬が引きつるのを感じた。こめかみがドクドクと脈打つ。
 出演者の2人にピンマイクをつけるスタッフが寄ってきたので、話はそこまでになった。
 メガネの奥から、命拾いしたな悲劇野郎とガンを飛ばしていると、後ろから袖を引かれた。
 振り向くとディレクターがちょっと、と手招きしている。
「ルミエール様、すぐ戻ります」
 ディレクターに連れられてスタジオの隅に移動した。
 なぜか家電メーカーの社員たちが顔を揃えている。
「何か?」
「あ~、鵜来巣さん。もしも、もしもですよ。今回もなにかあったらなんですけど、フォローのほど、よろしく頼みますね」
 返事に困っていると、家電メーカーの社員が商品企画書と取扱説明書を差し出してきた。
「よろしくお願いいたします」
 え、これ、事故が起こるの前提の放送?


「京司さんとクロサイトさん、裏にスタンバイしました」
 裏方のスタッフから声がかかる。
 この言葉で冥夜の意識は番組の収録に戻った。他の出演者もスタッフも、それぞれに姿勢や表情が変わる。
「ギャラリー入ります」
 急いでルミエールの元に戻り、観客席に用意された指定椅子に座った。
「本番5秒前、4、3……」
 スタッフの手が振り下ろされる。
「――始まりました。今週も私たち二人でお送りいたします」
 MCの2人がカメラに向かって会釈する。
「では、さっそく2人に登場していただきましょう。京司さん、クロサイトさん、どうぞー」
 キャーという若い女性たちの声に負けじと、ルミエールも大声を出して応援うちわを振った。
 もはやマネージャーというよりも2人の熱烈なファンだ。
 料理番組ではなく、アイドルの歌番組と言われても違和感がない。そう言えばスタジオの飾りも、花飾りやキラキラが多いような気がする。
「ルミエール様、お座りください」
 軽いオープニングトークのあと、さっそく提供された調理家電をつかっての料理が始まった。
「今回、お2人にはお餅を使った料理を作っていただきます」
「提供は『一歩先行く技術で家庭に笑顔を』でお馴染みの松芝電器です」
 カメラがキッチンに向けられる。
「よし、じゃあやるか」
「やりましょう!」
 何を作るにしてもまずはメイン素材である餅を作らねばならない。
 ホームベーカリーに餅はねをセットし、リハーサル中に洗ってから約30分間かけて水を切ったもち米を入れる。
 京司もクロサイトもここまでは順調に進めている……ように見える。
 ほぼ2人同時にホームベーカリーのフタを閉めた。
 観客席で収録を見守る冥夜の目に、一瞬、閃光のようなものが走った。
 メガネを外して指で目頭をつまみもむ。
「どうしたの、大丈夫?」
「なんでもありません、ルミエール様」
 たぶん、天井からつるされたライトが何かに反射して光が目に入っただけだろう。
 京司がやや不愛想に言う。
「あとはボタンを押すだけ。全自動だ。餅ができるまでの間、他の材料を準備しよう」
 視聴者サービスは主にクロサイトの担当だ。
 寄ってきたカメラにウィンクして、メニューを発表する。
「私はお餅入り海洋風ココナッツミルクスープとモッフルを作ります。京司君は春菊とツナのお餅炒めとフルーツ大福?」
「そう。それと余裕があったらもう一品、何か作りたい」
 ホームベーカリーから離れて、それぞれ包丁を手にした2人の手元を、360度自在に回転する最新式の移動カメラが映す。
 カタカタカタと何かが細かく揺れる異音が聞こえてきた。


 少しずつ異音は大きくなっていく。
「なんだ?」
「京司の方から聞こえますね」
「いや、そっちから聞こえてくるぞ」
 ついにキッチン台がガタガタと揺れ始めた。京司とクロサイトが料理する台、両方ともだ。
 地震か?
 だが、地面は揺れていない。天井のライトも揺れていない。
 あっ、とルミエールが声をあげた時にはもう、2台のホームベーカリーは床に落ちてぱっくりとフタを開けていた。
「うわっ、早く拾わないと!」
 2台のホームベーカリーがガタガタと狂ったようにスタジオの床を転がり回る。捕まえようとしても、手を伸ばした瞬間、急に跳ね飛んだりするのでうかつに近づけない。
 そうこうしているうちに微振動を続ける2台からお餅がにゅっと顔を出した。
 スネークショウよろしくもちもちした首をもたげ、微妙に頭を揺らして捕獲に出た京司とクロサイトを威嚇する。
 ガタガタガタガタガタ、細かくスタジオの床をホームベーカリーの尻で叩きながら2台は盾に並んだ。
(「くそ、こいつらまさか!?」) 
(「餅ながらやりますね!」)
 男性MCが興奮気味に叫ぶ。
「ご覧ください、見事な餅カノンです!」
 回転をワンテンポずらし、ぬるっぬるっと頭を回す餅。
 おそらく中で回転し続けている餅はねの作用だろう。
 調子に乗った照明スタッフが七色の光を餅に当てると、観客席から歓声が上がった。
 これは負けていられない、お嬢様が見ている。
 クロサイトは奮い立った。
「京司君!」
「お、おう!」
「お嬢様も馬の骨も早くこっちへ!」
 え、なになにと言いつつルミエールが嬉しそうにセットに入っていく。
 無論、冥夜はルミエールの後を追った。なぜ呼ばれたのがわからないまま、クロサイトの後ろに着く。
「いくぞ!!」
 京司の体がグンと沈み、円運動を始めた。後ろのルミエールも応援うちわを広げ持ったまま、つられて同じ動きをする。続いてクロサイト。
(「俺だけやらんわけにはいかんじゃないか!」)
 冥夜も渋々、動きを合わせる。
 ゲーミング餅vsイレギュラーズ。
 新春にらめっこカノン。
 見事なパフォーマンスに観客席から称賛のどよめきが低く広がる。おそらく茶間の視聴者たちもどよめいている。
 だが、なんの問題解決にもなっていない。
 冥夜はクロサイトの後頭部をぺしりと叩くと、「ストップ」と号令を発した。誰が馬の骨だ。
「え~、面白かったのに」
「ルミエールは客席にお戻りください。カメラ、右手にパンして!」
 冥夜は家電紹介コーナーに走った。
 メーカー社員が予めもち米やパン生地をセットしたおいたホームベーカリーの後ろに回り込み、にこやかに笑う。
「それでは本日のお勧め家電、松芝電器がこの春発売する最新ホームベーカリーを、実演しながらご紹介いたしましょう」
 一方キッチン前では、京司とクロサイトがカメラに撮られていないうちにゲーミング餅の首を刈り取って事態を収拾した。

  • 故意のから騒ぎ完了
  • GM名そうすけ
  • 種別SS
  • 納品日2024年01月17日
  • ・ルミエール・ローズブレイド(p3p002902
    ・クロサイト=F=キャラハン(p3p004306
    ・斉賀・京司(p3p004491
    ・鵜来巣 冥夜(p3p008218
    ※ おまけSS『反省会という名の……』付き

おまけSS『反省会という名の……』


「はいオッケーです! お疲れさまでした」
 ディレクターの声がスタジオに響くと同時に、冥夜は一気に体の力を抜いた。
 あのあとも怒涛のトラブルラッシュだった。
(「今日も何とかなった。なんとかした」)
 クロサイトがワッフルメーカーを弾けさせて半分溶けた餅の散弾を……いや、よそう。もう終わったことだ。京司がジュースを作ろうとしてジューサーミキサーを爆発させたことだって、終ってしまえばなんていうことはない。
 エプロンを外した京司とクロサイトがやってきた。
「終った終った」
「さすがに疲れましたね」
 ルミエールがにこやかに笑いながら駆け寄ってくる。
「みんな、お疲れさま〜。プロデューサーさんが、このあと料理を食べながら反省会するよって」
 番組終了後には、必ずキャスターをはじめ番組に関わったほとんどのスタッフが参加して「反省会」を行う。
 あれだけの放送事故を起こしたにもかかわらず、今回も前回同様、穏やかな雰囲気の反省会になるだろう。
 番組スポンサー的にはきっちり商品の魅力を紹介(冥夜が)してもらえて、番組的には笑いで視聴率が取れているからだ。
 もちろん京司とクロサイトが作った料理が美味しいというのもある。
「ん~、これこれ。これが一番の楽しみなんだよね」
 ルミエールが最初に手を伸ばしたのは、クロサイトが作ったお餅入り海洋風ココナッツミルクスープだ。
 小さく丸めたお餅を焼いて、スパイスの香り豊かなココナッツミルクベースのスープにトッピンしてある。スパイシーで甘酸っぱいスープが、香ばしく焼かれたお餅の甘味を引き立てる一品だ。
 プレーンなモッフルを割ってスープに浸して食べるのもいい。
「おいしい~」
「お嬢様、粒あんと栗を乗せて黒蜜をかけたモッフルもありますよ」
「おいおい。デザートはあとだ。それより僕の春菊とツナのお餅炒めものも食べてくれ」
 京司が小皿に取り分けた料理をルミエールの前に置く。
「ごま油の香りがいいね。……ん、これもおいしい! 甘めの味付けがお餅とマッチしてて、ご飯が欲しくなる~」
「そこは私のプレーンモッフルで」
 すかさずアピールするクロサイトに、京介が待ったをかけた。
「モッフルで食べたらお腹が膨れるだろ。フルーツ大福が食べられなくなる」
「そうそう。京ちゃんのフルーツ大福は絶品ですよ。お先に頂いた私が保証いたします」
 冥夜が糸を使ってきれいに2つに切ったフルーツ大福を、お茶を添えてルミエールの前に出した。
「あーもう、幸せ過ぎるぅ。またやりましょう! プロデューサー、次はいつにします?」
 冥夜はくるりと目を回した。
 嘘だろ……。

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