PandoraPartyProject

SS詳細

二人の秘密基地

登場人物一覧

ストイシャ(p3n000335)
レグルス
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点

 かまくらをつくろう、といったのはLilyの方からだった。
 復興進むヘスペリデスにある、ストイシャの家。ゆっくりと雪のちらつくそこへやってきたLilyは、にこにこの笑顔でそういったのだ。
「かまくら」
 むむ、とストイシャが唸った。
「……って、なぁに」
「……なるほど」
 と、Lilyが唸る。ストイシャは、かまくらというものを知らないらしい。当然ながら、雪を掘って作った休憩スペースなわけだが、
「そう、ですよね。
 ドラゴンは、雪で遊ばない、ですよね……」
「う、うん。まぁ、私は、あんまり」
 苦笑する。
「で、でも、気にならないわけじゃ、なくて……!」
 わたわたとフォローするストイシャに、Lilyは少しだけ申し訳ない気持ちを覚えつつ、
「わかっている、のです。
 ええと、かまくらというのは――」
 と、説明をしてみるのものの、Lilyだって、かまくらというものを実際に見たことはない。本の知識で知っているくらいで、作ったこともないものだった。
 それでも、精一杯に説明してみれば、ストイシャの興味を引いたものらしい。真っ青な瞳に、どこか興味深げな色が載っているのがわかる。
「それで、どう、つくるの……?」
 尋ねるのへ、Lilyはうなづいた。
「まず――」

 外に出てみれば、なるほど、すっかりと雪は積もっていて、充分に遊べるような景色が広がっていた。
「リリー、さむくない?」
 ストイシャが言う。
「わ、私は、平気なんだけど……ニンゲンは、寒いかも」
「あったかくしてるので、大丈夫なのです」
 ふわふわの手袋を見せながら、Lilyは言う。
「さっそく、雪を集めるのです」
 と、Lilyは雪玉を作って、それをころころと雪の上で転がし始めた。ストイシャが興味深げにそれを見つめるのへ、Lilyはくすぐったく思いながら作業を続ける。何度かころころと転がしていくと、雪玉は周りの雪を集めて徐々に大きくなっていく。それはやがて、Lilyが両手を使って押しながら進む必要があるくらいに、大きくなっていった。
「は、ぁ……」
 感心したようにストイシャが言う。
「すごいね……!」
「ふふ、こうやって、集めていくのです。
 ストイシャさんも、やりましょう!」
 そういうのへ、ストイシャも一緒になって、雪玉をころころとし始めた。Lilyは徐々に息があがっていくのを実感していて、ほうほうと、真っ白な吐息が空に上がっていく。が、ストイシャは、そこのあたりは流石にドラゴンなのだろう、あまり疲れた様子を見せてはいない。
 むむ、これは負けていられないな、と、気合を入れてLilyは雪玉をころころと転がし始めた。とはいえ、さすがに体力の限界は訪れる。それくらいになったころには、たくさんの雪玉が出来上がっていて、それを小山のように集めて均している状態だった。
「あとは、ここに人が入れるくらいの穴を掘るのです」
「なるほど」
 ストイシャがほほ笑んだ。
「リリー、休んでて。私、掘るから」
「私も、頑張るのですよ……?」
 そういうのへ、ストイシャはかぶりを振った。
「こ、こういうのは、得意。ドラゴンだし。ふひひ」
 と、言うと、ストイシャはこともなさげに、ざくざくとその手で雪を掘り始めた。部分的に竜化した手が容易に固めた雪を掘っていく。さすがはドラゴンだなぁ、と頼もしく思いつつ、Lilyは、
「じゃあ、その間に、中で使うものの準備をしてくるのです」
 と、ストイシャに告げた。

 夕方くらいになって、雲間から赤い夕陽が見えるころに、かまくらは完成していた。中は、二人が入って充分なくらいの広さで、そこに、地面に引くシートと、毛布、それからちょっとしたテーブルを置いてしまえば、ゆっくりと休めるスペースが出来上がったものだった。
「……あったかい」
 と、ストイシャが驚いたように言う。
「雪なのに。不思議」
「ふふ、ですよね」
 Lilyも楽しげに笑う。Lilyが用意したお茶と、パンをかじりながら、程よく疲れた体を休ませる。毛布にくるまって肩を寄せ合わせれば、子心地よいぬくもりが、Lilyの眠気を誘った。
「ふ……ふぁ……」
 あくびをしてみると、ストイシャが笑う。
「ね、眠い? 寝ててもいいよ」
 優しく、ストイシャがLilyの頭をなでてくれた。二人の背丈はだいたい同じくらいのようだったが、ストイシャは、少しお姉さんぶりたいらしかった。
「ふみゅ……」
 あくびとともに、温かいまどろみの中に、Lilyは落ちていく。ストイシャは、そんなLilyをほほえましく思いながら、
「……溶けちゃうの、もったいないな……」
 と、二人で作った秘密基地の温かさを楽しみながら、そうつぶやいた。
 それからもう少しだけたつと、夕焼けと夜の合わさった紫の空が、二人の眠りをやさしく見つめていた。二人は肩を寄せ合いながら、今日限りの秘密基地で、のんびりとした時間を過ごすのだ。


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