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SS詳細

或る夕暮れ

登場人物一覧

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
シフォリィ・シリア・アルテロンドの関係者
→ イラスト

●一時の別離
「ありがとう」
「……はい?」
 付き合いの長い相手だからこそ、滅多に見ない聞かない姿や言葉というものはある。
 腐れ縁と説明するには輝かしいし、素直に感謝するには複雑な関係。
「何ですか、やぶからぼうに」
「いや、そんなにおかしなタイミングじゃあ無いだろう?」
「……」
「この辺りの有力氏族も一先ず僕達の話を受け入れてくれた。
 クラウディウスやイミルの人達が――まぁ、それ以外もね――腹の中で何を考えているかまでは読めないけどさ。
『幻想』にしか思えなかった大きな話が、少しは現実味を帯びて来たんだ。
 今言わなくて何時言える話なんだって思わないかい?」
「……まぁ、それはそうかも知れませんけど」
 やや歯切れを悪くしたフィナリィ・ロンドベルは率直過ぎる傍らの男に幾らか鼻白んでいた。
『勇者』と呼ばれた彼――アイオンと傍らにあったフィナリィの間柄は中々難しいものであった。
 曰く『白銀花の巫女』だとか他人に呼ばれる彼女は世間一般ではどうも『聖女』らしき扱いを受けている。
 確かに楚々たる銀色の美貌に、落ち着いた物腰を見せる彼女は外からは『そう』見えたかも知れない。
 しかしながら、実際の彼女はもう少し――否、もっと大分『イイ性格』をしているのだ。
 そんな彼女を見て魔術師スケアクロウは「面白い」とはしゃぎ、若き天才マナセは良く「この猫かぶり!」と頬を膨らめているものだった。
「フィナリィは僕が真面目だとおかしいと思うかい?」
「まあ、珍しいなとは思いますけど」
「それは認める」
「生き方を反省しないといけませんねぇ」
「君もだよ」
 ――ともあれ。
 自他共に認める『そんな』フィナリィはアイオンとの関係を素直に受け入れられるような性質をしていない。
 周りの人間が――或いは当人同士が――『色々』を理解していたとしてもそこはそれ。どうにも面倒臭い態度で、どうにも余計な事を言わずには居られない『聖女』は正真正銘シャイネン・ナハトの方とは異なり、どうしてもアイオンと丁々発止の掛け合いをせずにはいられていない。
「……でも」
「うん?」
「こんな風にしていると、少し思い出してしまいますね」
 河原の土手に並んで座って遠くて近い夕陽を見る。
 何だかんだで人気者のアイオンの周りには何時も多くの人が溢れていたけれど、フィナリィは特に二人きりの時間を気に入っていた。
 それは時間が経つ程に、勇者の名前が大きくなる程に失われていくものだと知っていたけれど。
 それでもまだこんな風に残っている事を確かめられる時間が嬉しかった。
「とっくに忘れてたかと思ってたよ」
「……私の事を一体何だと?」
「フィナリィ・ロンドベルだって思ってる」
 フィナリィは「この野郎」と拳を握る代わりに大きな溜息を吐き出した。
 何の事はない。自分自身、己の面倒臭さは嫌という程自覚してはいるのだが、この男も同じというだけの話であった。
 ……フィナリィがこんな景色を好むのはこれ『原風景出会いのシーン』であるからに他ならない。
 たった今、素直に吐露した乙女の言葉を混ぜっ返した男はハッキリ言えば語るに落ちている。
 

 ――一体何をしているんです?

 ――空を眺めてた。

 ――かれこれ二時間は経っていますけど……?

 ――故郷の友達を思い出すんだ。そいつとこんな風に空を眺めてたから。

 ――ははあ。お友達の事を想って、ですか。それは野暮でしたね。

「そうしたら、翌日も会うんですもの」

 ――一体何を……?

 ――空を眺めてた。

 ――かれこれ二時間は経っていますけど……?
  『故郷のお友達』はそんなに想われて幸せですね。
   ははあ。ひょっとして恋人だとか?

 ――男だよ!

 ――それで、今日もそのお友達の?

 ――いいや。何となくぼうっとしてただけ。

「まぁ、あの時は心配になりましたね。『この人本当に大丈夫でしょうか?』と。
 アイオンは私が世話焼きの美女だった事に感謝するべきですよ?」
「お節介焼きの自称美女が身近に居るのは否定しないよ」
「この野郎」
 やり取りは戯れであり、お互いに意味が無い事を理解していた。
 然して遠くも無い癖に、歩いてきた距離が『すごい』からもうずっと昔にも感じられる始まりの時間が今この瞬間と交差していた。
 千の言葉で語っても、それ以上でも尽くせない特別な時間は文字通り『特別でも何でもない瞬間ボーイ・ミーツ・ガール』から続いている。
 軽薄な世の中の噂が勇者に語ろうと、聖女という役割に何を求めようとも――混沌の現世で最も重要とされた邂逅も所詮はそんなものに過ぎなかった。
 だけど。
「フィナリィ」
「はい?」
「ありがとう」
「……ですから」
「分かってるよ。でも言いたいんだ」
 口の中でモゴモゴと何かを言いかけたフィナリィを苦笑したアイオンが制した。
「勝手に喋るからせめて聞いてくれ」と前置きをした彼に彼女は何とも言えない顔で頷くばかりだ。
(……勘弁して下さいよ)
 こんな時、アイオンは底抜けに真剣になるのだ。
 何時ものようにおちゃらけてくれていたら良いのに。
『勇者』なんて呼び名が馬鹿げて聞こえる位、アイオンのままでいてくれたら良いのに。
 長い付き合いでもたまにしか覗けない――そして長い付き合いだからこそ、どうしたって接する事になる『別の彼』はフィナリィを何時でもざわつかせた。
 真っ直ぐに自分を見るその視線を彼は決して逸らしてはくれないから、何時でも彼女は負けた気になる。
(……我ながら、厄介な話なんですけど)
 
「夢だったんだ」
「……」
「長い、長い夢。長く見て来た夢。
 故郷で誓って、親友と約束して――飛び出した世界で君達と出会って。
 僕の周りは劇的に変わったけど、一つも変わらなかった夢だったんだ」
「……………」
「『この世界の秘密を解き明かしたい』。
 僕は勇者なんて呼ばれたけど、結局は違うんだよな。
 僕は未知を知りたいだけなんだ。誰も進んだ事が無い――道の無い道を歩いてみたいだけだった」
「例えば」とアイオンは言う。
魔王イルドゼギアも勘違いしてたみたいだけど、結局僕はそんな面白がりなだけなんだ」
「知ってますよ」
 フィナリィは苦笑して頷いた。
 アイオンは無意味に空を眺めていた頃何者でもなかった頃から何一つ変わってはいない。
 多くの人々が自分と言う立場に虚飾を纏う一方で、彼は常に純粋で、彼は常に彼のままだった。
 周りの人間が期待を被せ、そうである事を求め続けただけで――だからフィナリィは彼の事を放ってはおけなかったのだ。
「……世話焼きの美女に感謝する事です」
 フィナリィは先程の台詞をもう一度被せていた。
 彼の望みが叶うように、彼という特異点が勇者のなりを出来るように、陰に日向に尽力を続けてきたのは確かな事実だ。
 
「ありがとうって言ったのに」
「どうせお節介焼きの自称美女ですからね」
 笑ったアイオンにフィナリィはまた可愛くない態度を取った。
 フィナリィとて、ひとかどの力を持つ巫女である自負はある。
 世に在る神官の大半と比較したとしても自身が優秀なる部類である事は知っている。
 だが、『たかが優秀』程度で同道出来る位にアイオンの道は容易くはないのだ。

 ――『スケアクロウ』の魔術技巧は恐らく混沌で二番目だ。
   彼の上に居るのは恐らくあの混沌の神たるシュペル・M・ウィリーを除いてない。
   フィナリィは彼がしたり顔で語る魔術理論を鼻で笑い、そしてその十分の一も理解出来なかった。

 ――マナセの魔力量はその『スケアクロウ』を称して「僕の二倍」である。
   若き天才の将来は果てしない。その天賦の才は文字通り歴史書に乗るレベルの代物だ。
   山を消し飛ばしてしゅんとした彼女を叱るのは自分の役目だったが、上目遣いで「ごめんなさい」をする天才は目の前の凡人の感情に気付いていなかっただろう。

 ……勇者のパーティ選ばれた連中は多かれ少なかれ皆が皆そうだった。
 全員が全員規格外で常識外れ。まだしも性質が『まとも』なロンにしたって『限定的ながら神託を聞く事が出来るらしい』その才覚はフィナリィの比ではない。
 結果的にアイオンと出会い、彼の夢を『幻想』を手中に収める寸前まで到った今にあっても、フィナリィは常に泥だらけだった。
 素直になれない彼女は常に劣等感――いや、アイオンの傍に居て良い理由にばかり苛まれ続けていたと言える。
 ……だから、素直に頷けないのだ。自信が持てないから。アイオンが間違いなく本気でも、フィナリィはどうしても視線を逸らしてしまう。
「僕達はこれから妖精郷に行く心算だ」
「聞いてます。それで何時出発を?
 ようやくこちらの話が落ち着きましたからね。貴方の事だからきっとすぐにでも――」
「――それで、君にはこっちに残って貰いたいって思ってる」
 アイオンの言葉はフィナリィにとって或る意味で一番聞きたくない言葉だったに違いない。
 咄嗟に息を呑んだ彼女は何も言えず、それから『フィナリィならどんな風に言うべきか』無意識の内に言葉を探し始めていた。
「……フィナリィ?」
「あ、失礼しました。
 まぁ、そうですね。それは要するに頃合って事ですよね」
「いや」
「分かってました。分かってましたとも。誰も彼も滅茶苦茶ばかりですから。
 一応、常識人の私には理解出来ない所がありましたし?
 こうして話が落ち着いた今こそ、いいタイミングというものでしょうからね」
「聞いて、フィナリィ」
「いえいえ、皆まで言わずとも。
『勇者様』に変な気を使わせてしまうとか、いよいよ深刻じゃないですか?」
 ニッコリと笑ったフィナリィは少し怒ったように自分を見るアイオンを受け流した。
 それでいいのだ。『こうなるからこそ』自分は自分に蓋をしておくべきだったのだから。
 何時かは訪れるこの瞬間の為に、彼女は一体幾度のシミュレーションを重ねたか分かりはしない――
「ですから、お気遣いなく。『幻想』の話もまだ幾らでもやる事はあるでしょうし。
 私は私の領分で頑張りますから。アイオンはまた世界でも何でも救ってくればいいですよ!」
 フィナリィはそう言った自分自身が嫌いである。
 皮肉の心算は無いのだが、アイオンはそう受け取らないだろう。
 世間でどれ程に巫女だ聖女だ褒めそやらされたって――結局自分はこの程度でしかないのだと嫌という程思い知った。
 ……どうして、――な人の夢を応援してあげられないのだろう。
 どうして、彼が『幻想』で落ち着いてくれたら、何て考えてしまったのだろう?
 他の誰よりもアイオンがアイオンである事を知っていた筈なのに。
 彼は永遠に夢を追いかける人。縋りつく全てを振り切ってきた事を知っていた筈なのに!
「しかし、駄目ですね。私でも面倒見切れないなんて。アイオンはやっぱり筋金入りですよ」
 真っ赤な夕陽に照らされて、フィナリィは『今日も』先に視線を逸らした。
「……本当に、大変な人ですよ」
 見られないように顔を向こうに向けて、らしく強がってそう言った。
「フィナリィ……」
「分かってますって」
「フィナリィ」
「聞こえません」
 正確には、『聞きたくない』。
「――フィナリィ!」
「――――」
 フィナリィの腕を強い力が掴んだ。
 長く一緒に居ても聞いた事の無いアイオンの怒声に振り返れば、そこには眉を吊り上げた彼の顔があった。
「……」
「……………」
「……何ですか。ずるいですよ、そんな顔して」
「どっちがだよ」
 本当に珍しい位の不機嫌面をしたアイオンは吐き捨てるようにそう言った。
「僕の人生は確かに君の言う通り、或いは思う通りだったんだろう」
「……」
「僕だって馬鹿かも知れないけど不感症じゃあないんだよ。
 僕の親友は――無二の親友は今の君と同じ事を言って僕と道を分かれた。
 それ以外にも『知っての通り』そんな仲間は幾らでも居た」
「……………」
 何とも言えない顔で語るアイオンの顔に浮くのは多少の怒りと寂寥ばかりである。
「――実際問題、君の言う事は当たってる。
 言葉を選ばずに言うのなら、君の『力不足』は確かだろうさ。
 これまでも、これからも。冒険が続くのなら、君は君の悩みを抱え続けるに違いない」
「……………………」
「『持てる者ぼく』が君の気持ちを分かるなんて言うのは最悪の愚弄だろう。
 だから僕は君の気持ちを正しく察する事は出来はしない。
 マナセも、ロンも、ポチトリだってそうだ。
 皆君の事を信頼しているけど、君の気持ちは分かってない。
 君が血を吐くような努力を続けて『その場所』を守っていた事なんて、考え及びもしてないさ」
「アイオンは分かっていると?」
「……僕は君を見ていたから。『スケアクロウ』は分かっていて知らない顔をしていたのだとは思うけど」
 アイオンは幾らか罰が悪くそう言った。
「……知ってて、どうして」
 フィナリィはその問いが愚問である事を理解しながらそう問わずにはいられなかった。
 そう、これは完全なる愚問なのだ。恐らく既に問題はアイオンには無く、ボールはとうの昔に自分の手元にあったから。
「君が、――だから」

 ざわ、と吹いた風に邪魔されてアイオンが零した幽かな言葉をフィナリィは聴く事が出来なかった。

「それ以上の理由なんてないし、必要なんてないだろう?」
 聞き逃した、なんて言うのはあまりにあんまりで――フィナリィはだから『予想』して頷いた。
「でも。だったら――連れて行ってくれたっていいじゃないですか」
「君が自分で言った通りだよ。『幻想』という国を作る計画はまだこれからなんだ」
「……」
混沌で一番の場所はてのめいきゅうを踏破する為には絶対に必要な話だけど、まだ始まったばかりの話なんだ」
「……それは、そうかも知れませんけど」
「僕は君が足手まといで置いていくんじゃない。
 僕は君だからこそ、『幻想』の話を任せたいんだよ。
 僕は妖精郷の冒険を最後に、この場所に腰を落ち着ける。
 そうしては僕は僕と大切な仲間達で『果て』を踏破してみせるんだ。
 その場所に君は居る。間違いなく居る」
「――――」
「嫌だって言ったって王様権限で無理矢理引っ張っていくからな?」
 何時も表情としたアイオンの顔が夕陽に照らされてか赤く見えた。
 全く不器用で身勝手な事を言った彼にフィナリィは大きく息を吐き出して――
「――仕方ない人ですねえ」
 ――やはり、ちっとも可愛くない調子でそう言った。
「まさかこの流れで断ったりしないだろうな?」
「どうでしょう?」
 意地悪く惚けたフィナリィは「条件があります」と何時にない華やかな笑みを見せていた。
「条件?」
「はい。とても重要で、きっと『勇者様』には魔王を倒すよりも難しい事ですね」
「……怖い事を言うなあ」
「聞きますか?」
 そんな顔をしたフィナリィが酷い『いたずら』をする事をアイオンは知っていた。
 彼は渋面のまま不精不精「じゃあ言って」と彼女を促す。
 フィナリィは自分を良く分かっている。アイオンも良く分かっている。
 彼はきっとこれから聞く言葉を『意地悪』と受け止めるに違いない。
 でも、そんな事は無いのだ。本当なのだ。
 よしんば嘘だったとしても、女の子のこの望みばかりは全面的に肯定されるべきなのだ!
「帰ってきたらもう一度『ちゃんと』言って下さいね。
 ……流れで黙ってましたけど、実はさっきのやつ。神様の意地悪で良く聞こえなかったんですよね――」

●永遠の別離
「……勇者アイオンは妖精郷でも活躍を見せました。
 その後、彼はこのメフ・メフィート辺りに戻り、幻想レガド・イルシオンを建国する訳ですが。
 偉大なる業績には常に犠牲が付き物です。
 幻想の建国までにはまだ多大なる問題があったのです」
「問題……?」
 教師の言葉を生徒の一人が聞き返す。
 銀色の髪をした利発そうな少女である。
 少し生意気そうな青い双眸が彼女の好奇心を良く表している。
「そうです、アルテロンドさん。
 アイオンの呼びかけで一度は纏まったように見えた周辺氏族でしたが、彼等の抱える問題と敵対心はやはり一朝一夕に消し去れるようなものではありませんでした。
 最有力の『クラウディウス』と『イミル』は犬猿の仲で、内在的な利害関係の対立は決して解消してはいなかったのです」
「……?」
「簡単に言うと、クラウディウスはイミルを裏切りました。
 そして『幻想』は建国より前に『建国戦争』を経る事になったという事です。
 酷い内戦だったとされています。フィナリィはこれに対応して、寡兵を纏め罪なき民を、追い詰められつつあったイミルを救援したとされています」
「悪い人達だったんですか?」と問う少女に教師は苦笑いを浮かべるだけだった。
「……きっと誰も悪くなかったんですよ。
 歴史の大転換、大きな変動に歪な暴発が起きる事は常にある事ですから。
 ……敢えて言葉を選ばずに言うのなら、歴史家はアイオンの性急さが招いた事態だとする者も居ます。
 無論、『幻想』の学者はそんな事を言ったりはしませんが。
 ……しかし、実際問題にして失われたものはあった。
 アイオンの仲間として名高い『白銀花の巫女』フィナリィ・ロンドベルは、アイオン達の不在を突いて始まった紛争で命を落としたのです。
『たまたま』幻想に残っていた彼女だけが緒戦の問題を食い止められる立場で、その結果多くは救われましたが彼女は失われたのです」
「可哀想」と零した少女に教師は優しく微笑んだ。
「ええ。何とも痛ましい話です。
 彼女は誰にも愛された、まさに『聖女』のような方だったと。
 そんな方を失った周りはどんなにか嘆いた事でしょう。
 大切な仲間を失ったアイオンもきっと悲嘆にくれたに違いありません。
 ……ですがそうした偉大な方々の存在により、今日のこの国はあるのです。
 私達は過去を忘れずに、守り続けなければなりません。そう、永遠に」

 ――一時のさよならが永遠になった事を誰も知らなかったとしても。
   伝承に語られる勇者王がどんな人間的感情を以って『歴史』に慟哭した事を誰も知らなかったとしてもだ。

「分かりました、先生」
 少女は――シフォリィ・シリア・アルテロンドは希望と貴族の使命感に瞳を燃やして言い切った。
「幻想は私が――私達がずっと守り続けます!
 勇者王アイオン様や、巫女フィナリィ様に恥じぬように――この地が永遠に栄え続けますように!」
 希望の種はきっと、嗚呼。きっと永遠に絶えはしないのだろう。
 そうなる事が分かりながら、それでもアイオンの夢を守ろうと奮闘した『凡人』の想いは奇跡を成し遂げたと言っても良いのだろう。

 ――伝説の軌跡は今尚、この混沌に輝いて遺されているのだから。

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