PandoraPartyProject

SS詳細

ライラ・ライラ

登場人物一覧

ショウ(p3n000005)
黒猫の
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲

 バーカウンターで待っていたゲオルグの元に「やあ」と軽やかな声が弾んだ。振り返れば雪が被さった黒を身に纏った男が立っている。
『黒猫』のショウだ。彼は何時ものように猫の耳をも覆い隠したフードを目深に被って居る。その隙間から覗いた眼光がぎらりと光を帯びた。
「ああ、忙しかったんだろう?」
「まあね。ゲオルグこそそうだろう」
 隣に腰掛けてからショウが注文したのはライラだった。ウォッカベースのカクテルを注文した彼に「何か食べるか」とゲオルグはメニューを勧めた。
「ナッツにしようかな。ゲオルグは何を飲んでたんだい?」
「ああ。レッド・バイキングだ」
 アクアビットをベースにしたオン・ザ・ロックのカクテルを傾けていたゲオルグに「へえ、オレも次はそうしようかな」と笑う。
 やや甘口なそれを飲んでいたのは何となく甘味が恋しくなったからだ。ナッツを囓ればその塩味が引き立つ。ゲオルグは静かに息を吐いてから「最近は?」と何気なく問うた。
「まあ、それなりの忙しさは感じているさ。キミ程ではないだろうけれどね。
 多忙を極めていたのだろう。冠位魔種との戦いについても聞いているよ。勿論、下支えはさせて貰ったのだけれど?」
「ああ、助かっているさ。情報屋が居なくてはな。一蓮托生だよ」
 ゲオルグがそう言えば「それは良かったよ」とショウは機嫌良さそうにその尾をゆらりと揺らすのだ。このバーはゲオルグとショウの何方もが好む場所だった。
 猫を愛好するショウが見付けて来たのだが、マスターの飼い猫が悠々自適に過ごしているのだ。その姿を見るだけで心が和む。時折グラスを蹴り飛ばすため、用心する必要はあるのだが、それもそれで良いアトラクションだろう。
「ジークは?」
「ああ、あっちで遊んでいるよ」
 猫と遊び回っているのだというその姿。頬杖を付いてショウは確認してから「可愛らしいね」と笑った。もふもふとした羊のジークは猫たちの遊び道具にもなって居る側面があるのだろう。
 ジーク自身のストレス解消にもなる事からゲオルグはジークが嫌がってなければ手出しをすることはなかった。その様子を眺めることもまた一興だとでも言う様に。
「情報屋もこれから随分と忙しくなるのだろう。益々顔を合せる機会はなくなるだろうか」
「ああ、そうだね。あまり謳わなくなってしまった。寂しいことだね。……まあ、ゲオルグならばまた歌を準備していてくれるのだろうけれど」
 ショウの揶揄う声音に「準備をしたら歌ってくれるのか?」とゲオルグが唇を吊り上げた。アイドルソングには余り馴染みがないとショウは言って居たがゲオルグと関わる中で随分と知った事だろう。ダンスもそれなりに踊れるようになったとも言う。――そうとは言うが年には抗えないと二人揃って思う事もあるのだ。
「ショウ」
「どうかしたのかい?」
 ショウがグラスを傾ける手を止めてぱちりと瞬く様に見た。ゲオルグは「色々と、思う事はあった」と告げる。
「聞いているよ。冠位魔種……例えば、カロンやベルゼーだろう?」
「ああ。それ以外にも魔種には思う事があった。遂行者もそうだ。悲しい別れが多くあるものだな」
「そうだね。けれど、イレギュラーズが居ることでその別れは格段に減ったとオレは思うよ。
 それも歌にして昇華して仕舞えばいいのだけれど、中々飲み込むことは難しいだろうさ。そういうものだといえばそうなのだろうけれど」
 ショウは小さく笑った。ゲオルグはゆるゆると頷いてから「ああ、そういうものだといえば、そうなんだろう」とそう言った。
 そうだ、悲しみは何も全てを飲み干さねばならないという決まりはない。ゲオルグが面したその悲しみも全て向き合いながらゆっくりと進むことだろう。
「ただ、キミが分かり合いたかった誰かも、全ての大元を糺せば救えるのかも知れない。そう思うと少しは気が楽にはならないかい?」
「練達のゲーム風に言えばラスボスを倒せ……って事だろう?」
「ああ、それなら話が分かりやすくて良いな。そういう事さ。ゲオルグならばそうした事にもしっかりと適応できてしまうのだろうけれどね」
 ふ、と小さく笑ったショウは「グラスが空だ」と言った。ボトルで下ろしたブランデーを注ぎ入れてから氷の立てる音をじいと眺める。
「適応なんて出来ないさ」
「そうかい? ……ああ、でも、そうなのかもしれないな。オレはキミが悲しいときに傍には居てやれなかったからね。
 その悲しみの深さまでは測ることが出来ないだろうさ。まあ、話くらいは聞かせて欲しいとは思うから、よければ話していってくれないか?」
 丁度、酒も未だ未だ尽きない。グラスだって注ぎ入れたばっかりだ。そうやって揶揄うような声音を弾ませたショウにゲオルグは緩やかに頷いた。
 さて、先ずは何処から話そうか。
 思う事は山ほどあれど、中々言葉にするのは難しいことだらけ。目を伏せってからゲオルグは「じゃあ――」と語り始めた。


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