PandoraPartyProject

SS詳細

雪色のあなた

登場人物一覧

黄泉津瑞神(p3n000198)
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者

 ふんわりとした毛並みを揺らして彼女は歩いてやってくる。幼い姿をして居たのは神力を少し節約しているからなのだという。
 尾は丁寧に櫛が通されており、ふかふかだった。毛並みが良いのは彼女の事を慈しむ黄龍が丁寧に丁寧に、整えているからなのだとメイメイは知っている。
 雪色の神霊、この黄泉津において最も力の強い『神様』。それが黄泉津瑞神である。そんな彼女と出掛ける約束をしたのは瑞神が「買い物がしたい」と言い出したからだ。
 ――時を遡れば、メイメイが御所に遊びに来ていたときのことである。唐突に賀澄に呼び出された。八扇の役人が「帝がお呼びです」と困った顔をしたことを覚えている。
 謁見をしに来たわけではない事もあるのだが、通されたのは瑞神が私室として利用している広間だった。役人達を始め貴族達が奉納する品の置き場に困った様子で御所の広間の一室を瑞神の物置にして居るのだそうだ。
「メイメイさま。良く来てくれました。賀澄に頼んで呼び出してしまいましたがよろしかったですか?」
「はい。大丈夫です。どうか、なさいましたか?」
 ぱちくりと瞬くメイメイに「メイメイさま、相談があるのです」と瑞神は尾をゆらゆらとさせながら言った。
 曰く、奉納された品の中に可愛らしいリボンがあったのだそうだ。手触りの良いシルクだ。それを彼女は大層気に入った。だが、瑞神はそのリボンに似合いの服を持っては居なかった。
 元々豊穣から出る事の無いかの所は和装しか知らない。洋装も持ち込まれたものを着用して楽しむのみだ。だが、風の便りで聞いたそうである。
 海洋との交易によって『洋装の店』が高天京にも出来たのだ、と。文明開化の足音が聞こえるかのようである。現実世界の豊穣郷もR.O.Oと同じように和洋折衷になるのか、それとも――と思いながらも瑞神が此程喜ぶのであればその辺かよりも先に彼女の期待に応えたいというのが信仰者、いいや、お友達の気持ちである。
「では、瑞さまは、お洋服を買いに?」
「はい。洋装は知りません。賀澄に頼ればあの男は思い出話ばかりを致します。晴明など以ての外です」
「……晴さまは、以ての外、ですか?」
「はい。似合いの品を選べと言った途端に困った顔をします。あれは人に何かを与える事を得意としておりませんから。獄人にはよくあることです」
 肩を竦めた瑞神にメイメイは「ああ……」と呟いた。豊穣郷の獄人達は迫害されていた。特に前中務卿の息子であり獄人であった晴明と云うのはそれなりに否定されて育ってきたきらいがある。つまり、彼は否定されることを前提に生きてきたために「何でも良いから何か選んで欲しい」と言われると困るのだろう。
「身に覚えがあるでしょう」
「……はい」
 好ましい人だと、愛を謳えどもそれを本来の意味でとってくれないのも『そういう』事だ。彼はそもそもに置いて誰かに愛されることはないという前提で生きて来たのだ。
 メイメイの考えも、恋い願う事も瑞神には知られているのだが――まあまあ、厄介な相手を好きになったと神様にまで言われる次第ではあった。
「と、云う事で、メイメイさましかいません」
「よろしいのでしょうか……」
「はい。よろしいのです。わたしは、可愛らしい洋装に身を包み、リボンをつけたいのです。おめかしをさせてくださいませんか」
 小さな姿をした瑞神のお強請りにメイメイは「はい」と呟いた。それを断る事なんて迚もじゃないが出来なかったのだ。
 そして、時刻は戻る。
 ふわふわとした毛並みを揺らし、可愛らしい外出用の着物を着てやってきた瑞神は「あまり瑞とはお呼びにならないように」と言った。
 流石に知られている存在である可能性があるからなのだろう。賀澄が世話をして居る女房の子供という設定で行くのだそうだ。
「では、なんとお呼びしましょう?」
「みすずです」
 みずという字から取ったのだろう偽名を口にしてから瑞神はメイメイの手をぎゅうと握り締めた。さっそくですが、と言いたげに尾をゆらゆらとさせる。
 獣憑きの娘として扱って貰うつもりなのだろう神霊は可愛らしい洋装を手にしては「如何でしょうか」と問い続ける。メイメイは「よくお似合いです、よ」「かわいいです」と瑞神のファッションショーに暫くの間付き合い続けた。
「メイメイさま、こういうのはどうでしょう?」
「はい。……あれ?」
 ぱちくりと瞬いた。其処に立っていたのはふわふわとした白髪の少年だ。僅かに年齢があがったのだろうか。10歳程度の犬耳の少年が洋装に身を包んでいる。
「それは、ええと……?」
「御所を抜け出すための服です。男の子おのこの姿であればばれにくいでしょう。似合いますか?」
「はい、とても」
「では、此の儘お出かけをしましょう。お洋服は御所に届けていただきますが、これは着用して、行きたい場所があるのです」
「どちらへ……?」
 メイメイはこの一連のやりとりで瑞神の目的が分かって仕舞った。本当に行きたいのはこの次なのだろう。その為には準備が必要だった。
 つまり、皆を撒くのだ。霞帝が用意した護衛などから離れたい目的がある。瑞神はにまりと笑ってから言った。
「賀澄の誕生日を祝う品を買いに参ります。護衛がいては賀澄にばれてしまいますからね」
「は。帝さまの」
「はい。あの子の誕生日にわたしも何か贈り物をしてやりたかったのです。今までは御所から出ることが出来ませんでしたから」
 うきうきとした様子の瑞神にメイメイは小さく笑った。何かを取り寄せて「賀澄への贈り物です」と言ってきたのだろう瑞神のはじめての御遣いが開始されたのだ。
 それはそれは大いなる一歩なのだろう。何を送りたいのかと聞けば「白い襟巻きです」と瑞神は言った。己の毛並みのようにふかふかな品が欲しいのだという。
 もしも、それが豊穣にないのであれば晴明あたりを再現性東京に派遣するつもりなのだと自信満々に言った。困った顔をしだしたら助けてやろうと心に決めてからメイメイは「じゃあ、雑貨屋を回ってみましょう、か」と瑞神に提案した。
「はい。メイメイさまのほうが、高天京には詳しくなってしまいましたね。何方から行きましょうか」
「いえ、……ふふ、でも、そうかもしれませんね。ご案内、しますね」
 嬉しそうな瑞神と逸れないように手を繋げば、その小さな掌がぎゅうと握り返してくれる。慌てて探す護衛達はメイメイが白髪の少年と手を繋いで居ることを見て見ぬ振りをした。
 誰なのかの見当が付いてしまったのだろうが、そうしただけの理由がある筈だと遠巻きから見守るだけにしたようだ。
「メイメイさま、こちらの団子が食べたいのです」
「では、みたらし団子で、いいですか?」
「美味しかったならば賀澄に買って帰りましょう」
 楽しげな瑞神に「みすずさま」と呼び掛ければ「はい」と普通の子供の様に笑う。この笑みも平穏でなければ見ることが出来ないものなのだとメイメイは感じながら『贈り物探し』へと向かったのであった。

 ――これは後ほどの話ではあるのだが、少年の姿をした黄泉津瑞神の事を把握していたのだろう御所の面々は困り切った顔をして居た。
 特に中務省のメンバーなどは「迷惑を掛けた」とメイメイに頭を下げたほどである。瑞神が「男の子のわたしとおでかけしてくれるのですよ」と自慢げに晴明に告げて居る様子を見て庚が指を差して笑っていたのは、また別の話なのだ。


PAGETOPPAGEBOTTOM