PandoraPartyProject

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毒味役と相成りまして

登場人物一覧

メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと

 ――星月夜ほしづくよ、少しばかり御遣いを頼みたいのです。

 穏やかに告げた主に「お任せなのじゃ!」と神遣の狐は胸を張った。燦々たる太陽は雪の気配も感じさせず、朗らかな陽射しを届けてくれる。
 御所の庭先に咲く花も思う存分にその光を蓄えたか楽しげに揺らぐのだ。風の寒々しさを凌ぐように身に纏った厚手の外套は主人が相棒と揃いにしつらえてくれたものである。
 星月夜は主を敬愛している。それはこの国の名を冠する神霊であるからというだけではない。ただ、有り様が好ましく感じられていたのだ。
 柔らかな白は雪色でふんわりとした毛並みを有している。その眸は穏やかなる天を思わせ、細められれば微笑みと共に慈愛が揺らぐのだ。愛おしき主による御遣いは普段は巫山戯た態度をとる星月夜にとっても責任重大だ。まあ、これが中務卿からのものであれば鳥渡巫山戯て胃を痛めてやるのだが、それはそれ。
 今宵は雪が降ると供える大店に「ご機嫌よう」と顔を出した星月夜に「月夜様」と店主は呼び掛けた。神霊の一角である事をよく知っているのだろう。
「よいぞ、店主。瑞様の遣いでやってきたからの。わしにおかしなど出さなくて良いのじゃ。本当じゃぞ?」
 ちらりと見詰める星月夜に店主は「分かっておりますよ」と笑ってから茶を出しだした。寒々しさは凌げやしない熱い茶はそんなときにはぴったりだ。星月夜の耳がぴこりと揺らぐ。
「ふうむ」
 そう呟いてから茶に手を伸ばそうとした星月夜へ店主は「月夜様、実はお願いがありまして」と手揉みをして問い掛けた。星月夜の耳がぴこりと動く。それはそれは嬉しそうな仕草である事に店主だけではなく店員達は皆気付き、穏やかな微笑みを浮かべていた――その事実を知らないのは当人だけなのだ。
「新しい菓子を作りまして。味見をしていただきたいのです」
「味見? わしはなあ、神遣じゃからなあ。味見をしても良い立場ではないからのう。
 やはり主の~、為で~、なくてはならぬからな~? うーん、どうしようかのう」
「ああ、いいえ、瑞様に献上したいので毒味をして頂く事は」
「ふうむ、それなら仕方あるまいな。うむうむ、わしの口に合わぬ物を瑞神には差し出せぬ故な!
 いやあ、仕方ないのじゃ! わしが好ましくないものを瑞様に悪戯に差し出す事などできないからのう! うむ、食べてやろう!」
 ――本当は途轍もなく食べたかったのだ。きんつばを。
 ごくりと唾を飲み干した星月夜をあの手この手で餌付けする店主はやり手だ。星月夜が「美味しい」と騒げばその声が霞帝の耳にまで届き、彼が喜びながら中務卿を遣いに出す。
 だからこそ、食品店はこの神遣達がやってくることを楽しみに待っているのだ。彼が気に入れば御所からも贔屓にして貰い、役員達の耳にも届くことを知っているのである。
「うむ、うまいのう! 店主は天才じゃな! うむうむ。素晴らしい出来映えじゃあ。
 ふむ、店主、あの、あの娘が運んで居るまあるいあれは何じゃ?」
「栗まんじゅうでございます。好評をいただいている品を新しく改良させていただきました」
「アレもうまそうじゃのう。賀澄が好きじゃったと思うのじゃが~~。お小遣いで買えるかのう?」
 中務卿から僅かにも足されたのであろう小銭をそっと差し出す星月夜は幼い子供の様だった。黄泉津瑞神の保護者を気取っているが、どちらかと言えばこの小さな神遣の方が随分と子供の様に思えるのは態度の所為なのだろう。
「宜しければこちらも毒味なさいますか?」
「! ほほう、仕方ないのう。うむ、ならこのお小遣いで買えるだけを包んでくれ」
 瑞神の御遣いの品と、それから賀澄へのお土産。それけをなんて何て優しいのだろうと自画自賛をする星月夜に店主は笑みを浮かべた。
 正直、彼のお小遣い程度では買えぬ品ではあったのだが、その辺りは菓子の箱にこっそりと請求書を混じらせれば後ほど中務省から支払いが来るのだ。
 苦労人ではあるのだろうが、毎日を忙しなく神霊の世話に追い立てられる中務省は以前よりも明るくなったように思えた。役人達が活気づくのはこの国の憂いが取払われることでもある。その一端が瑞神の再誕とこの神遣達であることが彼等は何よりも嬉しいのだ。
「星月夜さま、お味は如何ですか?」
「うむ。悪くないのじゃ。して、これは美味いのう。わし、これなら10個くらい食べれそうじゃなあ。
 賀澄に言ってみるか。皆での茶会でわしらの菓子はコレにしてくれと頼んでおくのも悪くはなさそうじゃ」
 嬉しそうに尾を揺らす星月夜に店主は忘れないように遣いの品をきっちりと持たせ「お気を付けてお帰りください、今宵は雪が降りますから」としっかりと言い含んだ。
 雪が降るならば、早く帰らねばならない。星月夜は「おぬしらも気をつけるんじゃぞ」と何時もの如く堂々とした態度で告げてから手をぶんぶんと振って帰って行くのであった。


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