PandoraPartyProject

SS詳細

さきがけ

登場人物一覧

珱・琉珂(p3n000246)
里長
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん

「寝てたわよ」
 ぬくもりは、成程ワイバーンのものだったのか。フリアノンで飼われているリトルワイバーンの鈴鳴がきゅるりと鳴いた声をヴィルメイズは聞いていた。
 その傍に座っていたのは琉珂だ。「おや、里長様」と戯けた様子で答えたヴィルメイズに琉珂はぱちくりと瞬いてから肩を竦めて笑う。
「たまたま通りかかったら転た寝していたんだもの。寒いかなあって鈴鳴を連れて来たの。
 もうすぐ雪が降るわ。フリアノンの中も冷え込むのだから、あんまり寝ちゃダメよ? 何か探してる気がしたけど」
 琉珂はテーブルの上に並んでいた家系図をまじまじと眺めて居た。フリアノンでは交易がまだそれ程出なかった頃には本は高価な物であり、石版なども使われていた。
 それらを眺めて居たヴィルメイズは「鳥渡気になることがありまして、里長様が何か知っていれば幸いではあるのですけれど、あ、お礼は、美しいこの笑顔です」と饒舌に告げた。
 何時もの通りのヴィルメイズであることを確認し――其れ処か、どこか安心したような顔をしたのはきっと気のせいではないのだろう――琉珂は「なあに?」と問う。
 フリアノンでは最も旧い家系とされた里長の血筋の娘は家系図を指先で辿りながら首を傾げる。
「前にもお聞きしたのですが、『閻家』についてです。いやあ、ちょっと知った顔がありましてね。
 そのルーツや様々な伝承なども調べておきたいなあと思ったのです。やはり美しさには知識が必要為れますから。聡明な頭脳を持ってこそ美しさは光るのです」
「ヴィルメイズの聡明な脳味噌に何か新しい知識を蓄えたいって事よね?」
「ええ、里長様。よく分かっていらっしゃる!」
「うふふ。……んー、そうね。余り分からないの。フリアノンなら分かるけれど、ウェスタだから私でも……。
 けれど、そうえね。ヴィルメイズに何か不安なことがあれば解決はしてあげるつもりなのよ。これはホント、だって友達だし」
「里長様」
「美しいトークがないと鳥渡物足りないしね」
 笑った琉珂にヴィルメイズは「有り難いお話ですよ!」と眸を煌めかせた。そろそろ琉珂が『ヴィルメイズ=美しいトークのオトモダチ』になっている頃合いだが、それは良いことなのだろう。
「それって調べていた理由は夢にも理由がある?」
「と、言いますと?」
「ヴィルメイズさんって寝言凄くない? 私ビックリしちゃったの。何か言ってたし。
 それでね、何かに困って魘されてるなら力になりたいなあって思って。まあ、原因解明はしたいじゃない」
 友達だしとつか加えた琉珂にヴィルメイズは「ううん」と呟いてから悩んだ。確かに最近の夢には知らぬ顔が見える。それが語りかけてくるのだ。
 曖昧な夢の淵ではそれさえどこまでが『正しい情報』であるか分からない。夢とは起きれば忘れるからこそ夢なのだ。
 ぼんやりと、何者かが語りかけている姿が徐々に徐々に輪郭を帯びて思い出されてくる。さて、何と言っていたか――
「分かりませんねえ」
「分かんないかあ。仕方ないわねえ。分からない物を分かるって大変だし」
「いや、里長様、深いことを仰る! けれど、理解した方が良いとは思っては居るのですよ、私も。
 知識には貪欲であるべきですが、理解しておかねば大変な事になり得る可能性にも行き着いては居るのです。途方もない予感ではありますが」
「そうね。屹度そうだわ。分からないことを分かると言うのも大事だし。……手伝うから言って頂戴ね」
「有り難うございます。じゃあ、早速……この文字を読み解いて貰えますか?」
 随分な悪筆だった。適当に書き記したのであろう。急ぎで書き留めた可能性もある。琉珂が「うげ」と呟いたが『分からない物を分かる』というのは琉珂が冒険に出る際に掲げる『未知を既知とする』という目標にも似通っている。
 此処で諦められないのがフリアノンの里長だ。「分からないが過ぎる」と思わずぼやいた琉珂がテーブルに額をごりごりと押し付けてから息を吐いた。
「ねえ、ヴィルメイズさん。家系図の方が良いわ」
「おやおや、里長様白旗ですか~~? おや~~? 良いんですか~~?」
「……むーん、怒っちゃうぞ」
「ああ、それはいけません!」
 笑ったヴィルメイズに琉珂は「ほら、この先……魁……。字が消えてる人が居る。閻に『魁』なんて人居たのねえ」とつんつんと家系図を指差した。
「ははあ。家系図から消えているとは謎ですねえ。もしや美しすぎて消されたのでは!?」
「ええ、ヴィルメイズさんみたいな感じの人って事?」
 可笑しそうに笑ってから琉珂は「本当にどうしてでしょうね」と呟いた。

 夢を見て居たその人に声を掛けたときに言ったのだ。

 ――珱の娘よ。

 一度たりとも彼はその様に呼び掛けたりはしなかった。屹度、誰かがその肉体を傀儡としようとしているのだと、そう認識した。
「力になるから」
「……はい?」
 分からなくたって良いの。これは、私の決意だから。


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