PandoraPartyProject

SS詳細

膝の上のぬくもり

登場人物一覧

燈堂 廻(p3n000160)
掃除屋
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者

 雪がちらつく空を見上げ、メイメイは白い息を吐いた。
 小さな足跡が続く先に見えるのはROOのログイン装置がある研究所だった。
 テアドールの管轄として区分されている所だから、身の安全は確保されるだろう。
 メイメイはこの日、聖夜の夢に見た光景に導かれるように研究所へやってきたのだ。
 廻に繋がる手がかりを求め、メイメイはネクストへ飛び込んだ。

「廻さまが居るとしたら、ヒイズルでしょうか……」
 ROOには練達に相当する国が存在しない。燈堂家もヒイズルに配置されていた。
 メイメイは燈堂家へと赴き、暁月と結弦へと挨拶をする。
 廻とは違い、引っ込み思案な結弦は暁月の影に隠れるようにメイメイと距離を取った。
 彼は他人が怖いのだと噂で聞いた事がある。
「残念だけど、廻はここに来てないよ」
「そう、ですか……」
 暁月の答えにメイメイは感謝を述べた。

 ふと、視線を中庭に上げると、猫耳を生やした幼い廻の姿が見える。
 あれは廻が使っていたアバターではないだろうか。
 メイメイは慌てて中庭へと飛び出す。パタパタと掛けてくるメイメイに廻は顔を上げた。
「廻さま!?」
「……?」
 きょとんとした表情でメイメイを見上げる猫廻。
 メイメイはそっと猫廻を抱き上げ、縁側へと戻ってくる。
「暁月さま、この子は……」
「ああ、最近たまに来るんだよ。猫又が結弦の姿を真似てるんだろうね。優しい子だから抱っこしていても大丈夫だよ」
 メイメイには猫廻が彼のアバターに見えた。けれど、情報はプレイヤーのものではない。
 子猫の戯れというユニーククエストが開始される。

「なぅ、ぁ……?」
 メイメイから渡されたクッキーを猫廻は天にかざして首を傾げていた。
「廻さま、それはお菓子、ですよ」
 言いながらメイメイは膝の上に乗せた猫廻の口元にクッキーを持って行く。
 反射的にぱくりとクッキーを口に含んだ猫廻はその美味しさに目を輝かせた。
「ん、ん!」
「えへへ、美味しいですねえ」
「ん、ぃち」
 拙い言葉と満面の笑みを零す猫廻。メイメイの膝の上に乗る姿は年の離れた姉弟のようだった。
「うー、うー?」
 新しいクッキーを受け取った猫廻はそれをメイメイの頬に押しつける。
 一緒に食べたいという行動なのだろう。ちょっと位置がずれているのは、身体の構造がまだよく分かっていないのかもしれない。
「ありがとうございます。一緒にたべましょうね」
 クッキーを半分に割ったメイメイは一つを猫廻へ、もう一つを自分の口に入れる。
 割れたクッキーにびっくりした猫廻は、自分の口の中に広がる甘さと、メイメイが一緒に食べていることが同時に押し寄せて固まってしまう。
「一緒に美味しい、ですよ」
「ん、むぐ……ん、ん!」
 ようやく一緒に食べていることを認識した猫廻はふわりと嬉しそうな表情を見せた。
 朗らかな時間、幸せな思い出。
 メイメイには膝の上に乗せた猫廻がNPCには思えなかった。
 そこに廻が居るような錯覚がメイメイを包み込む。
 しばらく緩やかな時間を過ごしたあと、猫廻は何かを見つけた子供のように走り去っていった。
 メイメイはゆらゆらと揺れる尻尾を見えなくなるまで見つめていた。

 廻と別れた直後『クエストクリア』の文字と共にアイテムが送られてくる。
 やはり先程の廻はNPCだったのだろうか。
 メイメイは送られてきたアイテムを開く。そこには動画再生プログラムが乗せられていた。
 恐る恐るそれを覗き込むメイメイ。

 映像には白い無機質な部屋が映り込んでいた。
 部屋の真ん中にはROOのログイン装置が置かれているのが見える。その周りには数人、白衣を着た研究者の姿が見えた。その中の一人、特徴的なパンダフードにメイメイは目を見開く。
 ログイン装置のカバーが開き、廻が背を支えられ上半身を起こした。
「おはよう。体調はどうだい? 痛いところはあるかな?」
「いえ……」
 ぼうっとしている廻にカメラが焦点を合わせる。
「では、名前を言えるかな?」
「名前……え、っと。あれ、名前。僕の名前……結弦? 廻?」
 不安げに傍に立って居る白衣の女へ顔を上げる廻。
「うーん、まだ半端に残ってるか。しかも交ざってる。もっと強く削ぎ落とさないといけないかもね。これじゃあまだ神の杯に成れない。君達次からはメニューを増やしてくれたまえ。ROOに制限かけて現実と思わせても構わない。徹底的に削ぎ落とすんだ。頼んだよ君達。……真っ白にしてあげなきゃ可哀想だからね」
 白衣の女が部屋を去る音が聞こえ、残された白衣達が再び廻をログイン装置に寝かせる所で映像は終わっていた。
 先程の幼子姿の廻は、本物であったのだろうか。
 もう一度追いかければ分かるかと思いもしたが、この映像が送られて来たということは、おそらく再び会うことは出来ないだろう。

「廻さま……どうか無事でいてください」
 メイメイの切なる願いは、儚い雪のように静かに降り注いでいた。


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