PandoraPartyProject

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雪だるま、二つ並んで

登場人物一覧

祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
祝音・猫乃見・来探の関係者
→ イラスト

 暖かい炬燵で蕩けるようにして過ごしている祝音は窓辺に張付いている火鈴の背を眺めた。
 掌をべたりと窓に貼り付けた彼女は鼻先まで引っ付けていたのだろう、少し赤らんだ顔で「祝音、祝音、雪!」と声を弾ませて振り返った。
「雪? わあ、寒くなったしね。みゃー」
「ええ。これなら積もるのかもしれないわね。積もったら雪だるまを作りましょうよ。あのね、猫の耳を付けるのよ!」
 嬉しそうに笑う火鈴に祝音はうんうんと頷いた。火鈴が使用している学生寮には『澄原 火鈴』と書かれた学生鞄などが散乱している。
 そうした物を見れば、彼女がふと口にした『祝音と同じ名前を名乗って、家族みたいに過ごしたい』という言葉が頭に過るのだ。
 それは祝音にとっても嬉しい申し出だった。彼女の事は家族のように思っている。同じ制服を着て、二人で一緒に通学するのも楽しいのだ。
 何時か本当の家族に彼女の事を紹介してやりたい。そうすれば、『独りぼっちの夜妖』である火鈴にも沢山の家族が出来るのだ。
 その機会は屹度クリスマスで良いだろう。楽しいクリスマスに姉達を招き、火鈴を「新しい家族」だと紹介すれば良い。
「祝音?」
「火鈴さんがよければ、お姉ちゃん達を紹介したいんだ。どうかな? みゃー」
「わあ、本当? お姉ちゃん達にお友達って紹介してくれるの?」
 ぱちくりと瞬く火鈴に「新しい家族だよって、言うのどうかなあ」と祝音は問うた。姉か妹か、そうやって悩む火鈴は満更でも無さそうだ。
「ねえ、ねえ、そしたら、澄原ってお名前じゃなくていいのかしら?」
「勿論」
 嬉しそうに脚を揺らす火鈴に祝音も嬉しくなる。それまでに沢山の準備をしよう。パーティーの用意をする前に、雪だるまを作って並べておこう。
 それから、パーティーの招待状を作るのだ。画用紙に「クリスマスパーティー」と書いて猫の絵を沢山書いて姉に渡しに行こう。
 屹度、姉達は不思議そうな顔をするだろうけれどその後はにっこりと笑ってくれる筈だ。
「火鈴さんは何か食べたいモノはある?」
「ショートケーキ!」
「じゃあ、苺のケーキにしようかな」
「あ、でも、クリスマスみたいな樹みたいなあれ!」
「……ケーキ?」
「ケーキ!」
 ほら、とチラシを持ってやって来た火鈴が指差していたのはブッシュドノエルだった。確かに『クリスマスみたいな樹』だ。ぱちりと瞬いてから祝音は思わず笑う。
「うん、じゃあ、これも買おう。みゃー」
「みゃー!」
 嬉しそうに微笑んだ火鈴は「素敵なパーティーにしましょうね」と尾を揺らしている。燃えるような毛並みを持った夜妖の『家族』は本当に嬉しそうに笑うのだ。
「じゃあ、雪が降ってきたら雪だるまを作りに行こう。お姉ちゃん達に見せようね。みゃー」
「ええ。猫の耳もしっかりつけましょうね! 二人を並べているんだってお姉ちゃん達に自慢しなくっちゃ」
 火鈴は「その日のお洋服も買いに行きましょう、祝音」とお小遣いの入った財布を握り締めている。そんな彼女に祝音は「大忙しだね」と笑った。
 祝音にとって火鈴は平和そのものだ。大忙しで世界を飛び回ることが多いけれど、それでも、平穏の陽だまりのように彼女は練達で待っている。
 危ない事をしないというのは保護をしてくれた澄原病院との約束なのだそうだ。危険地帯に行かず、普通の学生のように過ごす事が彼女にとっての幸せでもある。
「ねえ、祝音はゆっくりしたい?」
「どうして?」
「だって、沢山忙しそうだもの。怪我をしたりもするでしょう。わたし、夜妖だからいざとなれば祝音のために頑張れると思うけど……」
「でも、戦うのは嫌いだよね?」
「そう。きらいなの。でも、祝音が怪我する方が嫌いよ。だから、気をつけてね」
 尾をゆらゆらとさせながら火鈴は静かに言った。「だって、家族だもん」と付け加えた後に火鈴の頬が赤く染まる。
 本当に嬉しそうに彼女はそう言うのだ。夜妖として孤独だった彼女にとって、祝音は『大切な家族』だ。それを口に出来る事がどれ程に嬉しいのだろう。
「うふふ、うふふ。祝音。ゆっくりしていたいならおこたで猫たちとぬくぬくしましょう。大丈夫よ、明日もあるもん」
「でも、火鈴さんは宿題をして居ないと思う。しなくちゃダメだよ? みゃー」
「みゃっ……だ、大丈夫よ。りん、これでも数学は得意だったのよ。国語はちょっとだけ苦手なの。
 だって、この人の気持ちを答えなさいって、わからないわ。わからないものがおおいもの。だから、……お、教えて……」
「仕方ないなあ」
「あ、お兄ちゃんみたいな顔をした! りんのほうがお姉ちゃんなのよ! ちょっと苦手なことがあるだけ!」
 拗ねた火鈴に祝音はくすくすと笑う。「うん、お姉ちゃんだよ」と笑いかけたならば更に拗ねてみせるのだ。
 そんな様子が楽しくて、祝音はこの平穏がもっともっと続いていけば良いのになあと何時までも楽しそうにはししている火鈴の横顔を見てそう思った。


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