PandoraPartyProject

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一揃えのぬくもり

登場人物一覧

アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
恋華
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者


 ――聞いていただきたいお願いがあります。
 そんな手紙が届いたら、メイメイ・ルー(p3p004460) の答えなんてひとつしかない。
「『お願いですか? 喜んで。でしたら今度……』と」
 サラサラとペン先を走らせて文字を書き、便箋を折って封筒に入れ、封をする。
 今度と記した会う日は、送った手紙が届く数日後。ポータルが使えないアラーイス・アル・ニール (p3n000321)に会うため、メイメイは空中神殿を介してラサへと跳んだ。

 夏には太陽が眩しいくらいに輝くラサも、冬ともなれば寒々しい。
 今日の天気は曇天。重たい雲で太陽は隠されてはいるが、それを残念とはちっとも思わない。最近は太陽が無い日は『アラーイスを気兼ねなく外へと誘える日』という認識が強く、メイメイはラサへと訪れる度に空を一度見上げるようになった。
「アラーイスさま、こんにちは」
「メイメイ様、いらっしゃいませ」
 笑顔で挨拶を交わし合い、今日も寒いですね、風邪には気をつけてとありきたりの言葉を続かせて。
 アラーイスが淹れたチャイで指先を温め始めた頃合いで、メイメイは「それでお願いと言うのは?」と首を傾げて問うてみた。
「その、大変心苦しいのですが……」
「はい」
 困ったように一度視線を逸らされ、メイメイは『何でも受け止めます!』の頼もしいと自分で思っている表情で大きく頷いてみせる。アラーイスは無理なお願いはしないはずだから、どんなお願いでも応えてみせる気でいた。
「『ノヴァームベル・バザール』で選んで頂いた外套が着られなくなってしまいまして……」
 メイメイはアッと息を呑む。
 そうだと思い出すのはの失血で顔を青白くさせたアラーイスの姿。
 アラーイスはメイメイが選んだ外套を嬉しいとその場からずっと着ていて、そして着替えていなかったからそのまま――メイメイが選んだ外套は赤く染まってしまったのだ。
「ですので、もう一度選んでいただきたい……というお願いなのですが」
「勿論、です!」
「め、メイメイ様」
 すぐにテーブルに置かれていたアラーイスの手をギュッと握れば、彼女は驚いたようだ。
「あっ、ごめんなさい。嬉しいお願いでしたので、つい。
 これくらいのことで心苦しくなんて思わないでください、アラーイスさま。わたしはアラーイスさまが気にかけてくれたことがとても嬉しいのです、よ」
 もう一度選んで欲しいということは、メイメイが選んだことがアラーイスにとって嬉しかったことであり、そしてそれが失われたのが悲しかったこと。それがわかるから、嬉しくなってしまうのだ。
「どちらへお買い物にいきましょうか?」
 ノヴァームベル・バザールは終わってしまっているし、シャイネンナハトのマーケットも終わってしまっている。それなら矢張りサンド・バザール? と首を傾げたメイメイに、アラーイスは良い店を知っていますとホッとしたような表情で微笑んだ。

「毛織物の質がとても良いのですよ。デザインもとても素敵で……。メイメイ様の分も、気に入ったものがありましたら教えて下さいね? ここは全てわたくしが持ち払います」
 メイメイがめぇと鳴いたが、ここは譲らないとアラーイスが眉を上げる。
 けれどもそんな姿が『これまでと同じいつも通り』に思えて、メイメイはくすくすと笑って眉を下げた。
 本当にあの日は沢山心が揺れ動いて、大変だった。必死に言葉と手とを伸ばして、抱きしめ、アラーイスが留まることを選択してくれたことが嬉しい。今こうして過ごす時が変わらずあることに安堵を覚えたのだ。
 どれにしましょうか、と選ぶ大役役得を得たメイメイが先導し、これはどうでしょう、こっちは、ううんこっちも似合いますね……と、頭を悩ませるあなたと過ごす楽しい時間
「大変です、アラーイスさま」
「どうなさいました?」
「アラーイスさまが何を着ても可愛くて、選びきれないかも知れません……!」
「あら」
 ノヴァームベル・バザールは屋台だったが、ここは店舗。つまりはそれだけ選択の幅が広いのだ。
(メイメイ様が似合うと思ってくださったもの、全部でも良いとは思うのですが……)
 別に『一着を選んで』とは言っていない。
 けれども悩み抜いた一着はきっととびきり特別で。
 でも、どうせなら――。 
「メイメイ様」
「はい、アラーイスさま」
 どうしましたと首を傾げてみれば、アラーイスは何事かを少し悩んでいる様子だ。
 悩みながら言葉を探す姿は『あの日』を思い出して少し心臓が跳ねるが、今日は何方かと言うと恥じらっているようにも見え、メイメイは微笑ましく思う心が顔に出ないように穏やかな気持ちで言葉を待った。
「あの……」
「はい」
「我が儘を言っても嫌いになりません?」
「はい、大好きですよ」
「わたくしも……大好き、ですわ。……なので、その……お揃いにしたくて……成長されたメイメイ様とわたくしでは似合うものが違ってくるので難しいというのは重々承知ではあるのですがそれでもわたくしはお揃いが良くて」
 紡ぐアラーイスの言葉が速い。
 今までは『親しい演技』という認識があった彼女には、素の状態での友人関係に慣れていない。
「アラーイスさま」
「……はい」
「わたしも、アラーイスさまとお揃いがいい、です」
「メイメイ様」
 そっと両手を握れば、アラーイスが見上げてきた。
「いっしょに、ふたりに似合うお揃いを、探しましょう」
 ゆっくりと告げるとこくんと頷きが返ってきて、メイメイとアラーイスはふたりで毛織物たちの鮮やかな色彩の海を漂った。
「アラーイスさま、何か希望はありますか?」
「そうですわね……」
 悩みながら視線を彷徨わせたアラーイスの視線が何かに止まり「あ」と声が上がった。
「メイメイ様、そのお色が良いです」
「その……あ、これですか?」
 アラーイスが指差すのは、メイメイの鞄に揺れている桃色のスノードームストラップ。お揃いの形状の色違いのものをシャイネンナハトに贈りあったもので、アラーイスの今日の鞄にも同じ形状の紫色が揺れている。
「それの逆で、わたくしが桃色、メイメイ様が紫……にしたいです」
 どうでしょうと問う視線へ良いですねと微笑めば、メイメイ様は? と返される。
「わたしは……あっ、お花を付けて頂くのはどうでしょう?」
 店内には『各種ご要望承ります』と記された紙が張られていた。『お時間を少々頂きます』がと記されたそれには、ワッペン等のワンポイントからモチーフ編みの立体毛糸や立体刺繍のお花等を縫い付け、世界にひとつだけの商品とすることも可能であると書かれている。縫い付けなくとも良い、コサージュ等も店内で扱われているようだ。
「良いと思いますわ、メイメイ様! メイメイ様のは大人びて見えるようにワンポイントか……少なめで。わたくしはメイメイ様より少し多めにすると、元の外套が大人びたデザインでも合う気が致します」
 パッと顔を明るくしたアラーイスとまた、これはどうでしょうとふたりで選び合う。そうして巡り会えた一着はふたりの気に入りの一着となり、冬の日のお出かけの度にふたりは一揃えとなるのだろう。
「また一緒にお買い物をしてください、メイメイ様」
「はい、アラーイスさま」
 冬でも春でも夏でも、ずぅっと!
 このぬくもりを手放さないと決めたのだから、揃いの花を咲かせ続けよう。


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