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Voyage au bout de la nuit

登場人物一覧

ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

 窓の外を見遣れば雪は丁度降り止んだ頃であった。一人きりの部屋で暖炉がぱちりと爆ぜる音がする。
 その温もりを感じさせぬ冷ややかな窓辺に立って、外を見遣れば一面の雪景色が広がっていた。
 寒々しく、穏やかさには程遠い。その景色を見ればギア・バジリカで肩を寄せ合った日々を思い出す。
 ルブラットは温かな湯気を登らせたコーヒーを飲める幸せを噛み締めるようにあの日のことを思い出した。
 鉄帝国の動乱は錆びた鉄の香りがする。蒸気に混じり込んだ廃油が土壌を汚す様を指を咥えて眺めて居るだけの湿っぽい気配ばかりをさせるのだ。
 そんな風に邂逅できるのも『現在いま』があるからだろう。あの頃より一年。絶望の冬フローズ・ヴィトニルより、早くも一年近くの時が過ぎたのだ。
 ギア・バジリカでは難民支援が続けられていた。久方振りに顔を見た彼女も随分と元気そうだった。
 湯浴みも儘ならず脂でぎしぎしとした黒髪も、手入れがなされすらりと風を通すようになって居た。
 枯れた大地で得られるものは未だ少ないのだろうが、あの明るい笑みを見ればこれから先の希望をも感じ安堵できるものである。
 久方振りに出会った彼女曰く、乾燥して肌が荒れる子供が居るとのことだ。その気は方法を教えて欲しいと告げるものだからボディクリームでも用意してやろうと考えて居たのだったか。
 出来うるだけ使いやすく万人受けする調合を行なった方が良いのだろうとそんなことをメモに書き連ねながらルブラットは冷め行く珈琲に口を付けた。
 暖かい。湯を沸かす事は出来たが、豊かな豆の香りを楽しむ事は昨年は出来なかった。今頃彼女達は配給ではなく、自由に売買が出来るようになった市場で購入した紅茶でも楽しんで居るだろうか。
 ローレットの仕事で分け与えられた茶菓子に口を付けて、その甘さが心地良いとルブラットは目を伏せた。
 ああ、そうだ。丁度良い珈琲豆が手に入ったのだ。彼女は新しい物を取りあえず試すチャレンジャーでもある。
 豆を砕いて粉にしてから以て遣ってやるのも良いだろう。丁度シャイネンナハトの時期にもなる。サンタクロース等という異邦人は来ないだろうが、その代りになるのも良いだろうか。
 そんなことを想像してからルブラットはどさりと音を立て屋根から崩れ落ちた雪の気配だけを見詰めていた。
 頬杖を付いて眺めた夜はまだ暫く夢の中でお過ごしと笑いかけるかのようだった。


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