PandoraPartyProject

SS詳細

解いた糸の綴り方

登場人物一覧

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
アーマデル・アル・アマルの関係者
→ イラスト

名前:『冬夜のすえ
性別:男性
年齢:外見20前後
一人称:俺
二人称:お前、呼び捨て
口調:だな、だろ、~か?
特徴:
灰と空色の中間のような瞳(目隠しは時と場合や気分による)
褐色肌に癖の強い白短髪(※生前と反転)
設定:
「アーマデルを置いて逝きたくない」という生前の強すぎる妄執から、彼岸へ渡り損ねた故郷での師兄ナージー・ターリク。その未練の欠片がアーマデルの使役霊として形を取ったもの。
『英霊残響:妄執』の力の源泉。
分霊のような存在であるため、「ナージー・ターリク」の名は失われている。
「アーマデルに傷を付けること」を報酬として望む。
その刃が鳴る音は冬の雨の如く重く、冷たく。何故か甘い。
かかっていた洗脳の大半が解けたことで、アーマデルは彼を『師兄』として認識。けじめとして直接刃を交え、打ち勝ったことで、生前よりは歩み寄りが可能になった。
(参考:https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5410)
妄執の源となったあらゆる諦念と絶望、愛憎や劣等感が消えることはなく、アーマデルの魂がいつか旅立つ時には残る未練ごと呑み込むだろう。
――それまでは。

「しょうもないことで呼び出すな。指示は具体的にしろ。何度も言わせ……聞けよおい」
「お前の心配なんぞ欠片もしてない。してたまるか。せいぜい老いさらばえて苦しめ」
「(ゲーミングカジキマグロとゲーミングハイペリオンに目を覆う)」

おまけSS『綴り合う縁の糸の果て』

●いつか終わる刃の音
 ――雨は嫌だ。
 まず、視界が良くない。聴覚も阻害される。
 霊体には関係のないことだが、生身の肉体からは体温も奪われていく。体温が下がれば体が動かなくなる。
 満足に動けない状態で、危機的状況に置かれれば――『死』は、目に見える距離にまで迫ってくる。
『くそ、こんな時に限ってイシュミルの奴……』
 医療技官ならもう少し気の利いた処置ができるのだろうが、自分では応急手当が限度だ。そして今は、その医療技官と連絡がつかない。何とか自力で帰り着くしかない。
 しかし、時間もかけられない。今も『死』が迫る命が、すぐそこにある。敵に急襲され血を流し続けるアーマデルだ。
「寒い……」
『拠点までまだあるぞ。生憎、俺にはお前の相方みたいな運搬能力は無い。死んだら置いてくからな』
「俺が死んでも……残るんだな……」
『……先には消えない妄執だからな』
 強く止血しても、ローブを重ねて被せても、血は止まらないし寒さの震えも止まらない。この傷は呪いか毒の類いか。せめて正しく七翼の系譜だったならこんなことには。
 ――こんな、縁には。
「『冬夜の裔』……少し、休みたい……」
『賭けてもいいが、今寝たら永遠に起きれないぞ』
「体が、重くて」
『知ってる。全体重かかってるからな』
 いいから起きろと、肩に回している彼の腕を強く引き直す。反応は鈍い。
 わかっている。彼を襲っているのは睡魔による眠気ではなくて、体の機能が止まりつつあるがゆえのそれだ。
 どうして、今回一翼は助けない。以前のように、簡単に『死』を払わない?
「目を、開けられない……感覚が、よく……」
『甘ったれるな。そんな奴に殺された覚えはない』
「師兄も……あの時、寒かったのか……?」
『どうだか』
 今日と似たような雨で、死につつあったかつての自分。全く寒くなかったわけではないが、寒さを遥かに上回る絶望があった。感情も涙も理解できないまま、ただ自分の死に様を見下ろしていたアーマデルの姿が魂に焼き付いて離れない。
 そのアーマデルが、今は。
「あの日、俺は……自分にも、感情があるのだと……悲しいと感じる心が、あるのだと知って……」
『昔話をする体力があるなら温存してろ』
「だが……恐らく、俺の心は……もっと前から、存在はしていて……」
『聞いてるのか』
「俺の……妄執は……」
 問い掛けへの反応がない。恐らく聴覚がもう死んでいる。それでも、喋り続ける意識はある。
『……こんな所で死ねると思ってるのか』
「師兄……そこに、いるのか……」
 恐らく視覚が死んだ。触覚も。触れている体温はとうに生者の温度ではない。
 自分達は迷っているわけではない。ただ距離があるだけで、このまま進めば問題なく拠点に到達はできる。満足な治療を受けさせることも可能だろう。
 ただ。
『………』
 歩みを止める。冷たい雨が容赦なく打ち付けた。
 アーマデルの足はとうに動いておらず、肩に回している手を離せばそのまま落ちるだろう。引き摺られていただけの肉体は、いとも容易く『死体』へと変わるに違いない。
『……とどめが欲しいか』
「暗い……何も、見えない……」
『…………』
 死んだ聴覚では、会話が成立するはずもない。
 全く腹立たしい。とどめを刺せば彼は楽になって、契約主を失った自分は消える。彼が先に命を失うのだから、自分の妄執が残る理由もないのだ。
『何が嬉しくて、死んだ後までお前と心中しないといけないんだ。こんな、眠るような終わりが許されるかよ』
 納得がいかない。いっそ屍人へ変わるのを待つか。死体となった後も死ねず、地上を惨めに彷徨い続ける様は実に無様で滑稽だろう。様を見るがいい。
 恐らく、自分はその様を見る前に消えてしまうのだろうが。
『……巫山戯やがって』
 引き摺っていた体を地へ下ろす。ナックルナイフを逆手に持ち、か細い息に動く喉へ立てた。これは慈悲ではない。屍人と言えど、やはり自分が先に消えることになるのは耐えられないからだ。
 次の生があるとしたら、魂レベルで関わらないように生きたい――そう思っても、ここで自分が引導を渡してしまえばそれが強い『糸』となるのだろう。
 結局、どこまで生きても、どんな生き方をしても、彼からの『糸』に抗えない。それがアーマデルの『妄執』だとしたら、あまりにも強すぎる。
『俺よりも、お前の方が『妄執』を上手くやるだろうさ。……期待して逝け、アーマデル』

 冬の雨の如く重く、冷たく。どこか甘い声に委ね、導かれるように。アーマデルの喉が最期に跳ねた――。

●果てなき縁の糸を繰る
「――という夢を見たんだが。あれはあんたの願望か?」
『どうでもいいだろう……』
 あの雨は夢だったらしい。霊になってまで夢を見るとは聞いたことがない。おまけにアーマデルと共有されているとか何の拷問なのか。契約とはそこまで便利な代物だっただろうか。
『それを聞くためだけに呼び出したなら、俺はもう戻るぞ』
「待て。俺の口から言わせてほしい」
 姿を消そうとして止められる。心底聞きたくないが、契約主の言葉なら断れない。
「……夢で殺してくれたこと。感謝する」
『……現実では、あんな状況にならないようにすることだな』
「当然だ。今回の夢は、あんたからの忠告として受け取っておく。弾正を置いていくことにもなるからな」
 至って真面目な顔でそう言うところが、また気に入らない。そんな目的のためにあの夢を見たわけではないし、そもそも共有されることが想定外だ。
『……好きにすればいい』
 全身を炎に包んで、姿を消す。
 殺されては自身に未練が残り、殺しても感謝されるだけで向こうに未練が残らないとは、いよいよこの『妄執』はどこにも行けないのではないか。

 この身が心置きなく消えられる日は、当分来ないようで――先が思いやられた。

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