PandoraPartyProject

SS詳細

雪に焔

登場人物一覧

焔心(p3n000304)
九皐会


 びゅうと吹きつけた風が白を渫っていく。塒としていた『料亭』がされた頃から降り出した雪が、黒土を埋め始めていた。黒く焼け焦げた塒も、何れは白に染まることだろう。
 雪は、消えていく。傘を差さなくとも、豪雪でもなければ俺の上に積もることはない。触れる前に勝手に蒸発して消える、儚いものだ。
 以前はどう思っていただろうか。雪が降ってくれた方が寒さが薄れ、冬の雨よりもありがたいと思っていたかも知れない。そんな寒さは、魔種となってから気にならぬものとなった。己の血は常に怒りで滾り、燻り、爆ぜるようになったから、体は常に熱かった。寒さに凍えそうな思いをした過去の気持ちなど既に遠いもので、雪に対してもあれやこれやと考えることもなくなった。
 ただ――悪くは無ェな、とは思う。雪は全てを隠してくれる。

 ――次はどうするか。
 男はそうだなァと考えた。
 豊穣で暴れるのも飽いた。この国を壊してやろうと思っていたが、数年前からこの国以外にもいけるようになった。
(国に固執する理由は無いよなァ)
 大きいと思っていた国は、実は小さかった。国が開けてからというもの、バグ召喚被害者の眉唾のような話は真実となり、自らでも求めれば『外』の情報を得られるようになった。
(国崩しよりも、もっとでっかいのを壊してェよなァ)
 世界を壊そう。その考えは元よりあった。そして、今こそがこの国から出ていく良い頃合いであろう。
 何より、世界を壊せば結果的にこの豊穣という国も瓦解する。いくつもの国とともに滅びを迎えるのだ。
(雪、か)
 ひらひらと降る柔らかな白。鈍色の曇天。
 見上げた男の脳裏にひとつの国が浮かび上がる。
(確か鉄帝とか言った国だったか? 冠位サマが暴れてるンだってなァ)
 神皇帝に就いたらしい冠位憤怒様は、好きに暴れて良いとのお達しらしい。
 好きに暴れたって罪にはならない。荒くれ者共の楽園。そう考えれば、血がぐつぐつと滾るようであった。
(冠位サマの顔も拝んで見てェしなァ。死合いケンカもしてくれそうだ)
 闘争を望むのはきっとお互い様なのだろう憤怒ゆえ。国を掻き乱し、派手に暴れて、楽しく喧嘩。命のやり取りをしている時が一等男を滾らせる。憤怒の焔で命を燃やす瞬間だけが『生』を感じさせてくれた。

 雪降るある日、焔心(p3n000304)は豊穣という国を後にし――以降、その国の地を踏むことは無かった。


PAGETOPPAGEBOTTOM