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銀月の肖像~さよならを数えて~
登場人物一覧
名前:武器商人
特徴:詳細不明
設定:私の銀の月
迎えに行くと、リリコはあわててハンドタオルで顔を拭った。顔には涙の跡があり、まぶたは腫れぼったくなっていた。
「どうしたんだいリリコ、おまえが泣きじゃくるなんて、何があったんだい?」
「……なんにもないわ。なんにもよ」
少女はちょっとだけ無理をした笑みを見せた。
「……私、あなたのおかげで、すこしだけ笑えるようになった。ありがとう」
「いいんだよ、リリコ。おまえは愛されるべき存在なのだから」
たっぷりと愛を、愛をそそがれて、すこしずつ、少女はほころんでいく。柔らかな芽が固い殻からのぞくように、少女はすこしずつ大人になっていく。それをいとしく思いながら、武器商人は膝の上にリリコを座らせた。
「我(アタシ)のかわいいお気に入り。今年のシャイネンナハトはどう過ごすつもりだい? よければ我(アタシ)もお相伴にあずからせてほしいね」
「……あなたがいてくれるのなら、私はどこだって天国よ。あなたは私の銀の月。いつも煌々と輝いて、私を照らしてくれる。あなたの周りにはいくつもの星が輝いていて、私はその美しさに心奪われてしまうの」
武器商人は、ここ数年でずいぶん変わった。人間らしい行動を、以前よりも好むようになった。根っこは変わらないのかも知れない。だが、愛されたがゆえの姿と振る舞いは、たしかにリリコのよく知る人間のものであって、リリコはすなおに武器商人の変化を喜んでいる。
破滅が近づいていると物見鳥は呼ばわる。この世の終わりが近付いていると。だからこそ武器商人は、この少女へ小さな贈り物をしたい。ささやかで愛らしい、日常の香りがするものを贈りたい。
「……私の銀の月。もしも願いが叶うのならば、私ずっとあなたのそばにいたいわ。でもきっとそれは過ぎた贅沢というものね。だけど……」
陶器のような少女は、そっと武器商人の袖を握った。
「……白いドレスを着てみたいわ」
「そうかい」
「……それでね、お姫様みたいに、抱き上げてほしいわ」
「おまえが望むなら喜んで」
「とっても大好きよ、私の銀の月」
リリコがまぶたを閉じた。まるで憑き物が落ちたかのような穏やかな表情だった。
「……私きっと、すこし無茶をしてきたんだわ。大好きな人へは、もっともっと大好きって言うべきだったわ」
だって終わりが近いのだもの。
「……だけどあなたなら、そんなもの打ち砕いてくれる」
そこに私がいなくとも。