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ちょっぴり危険な森林散歩
登場人物一覧
エルシアです。今日は森の奥にある泉に水汲みに行くことになりました。
今回は、久しぶりに契約妖精のみなさんと一緒です。
「ってかー、今日まじバリ天気よくね? 眩しすぎて日焼け止め欲しいんだけど?」
アイゲイロスさんは明るく前向きな方です。
弱気になってしまう私をいつも楽しく励ましてくれたりしてくれます。
「そうさね。まさに水汲み日和、ってところだね」
プテレアーさんは義理堅い、お姉さんのような妖精さんです。
いつも冷静で周りへの警戒を怠らない、ガードマンのような方です。
「エルちゃん、その桶重くないかい? しんどかったらアタシに言うんだよ」
「ありがとうございます、モレアーさん」
モレアーさんは貫禄のある、お母さんのような懐の広さを持っています。
さらに細やかなところまで気遣いの届く方です。
「久しぶりね、あなたたちと一緒に時を過ごすのは」
クラネイアーさんは、女性らしい口調で話す上品な方です。
たまーに、突拍子もないことをしてしまったりもしますが。
「カリュアー、おさんぽとっても大好きなの。なにが起きるか楽しみなの」
カリュアーさんはこの五人の中では一番幼く感じる方です。
でも、一番純朴で素直なのは彼女のような気がします。
「さて、水汲みへ行くわけだけど、どういう道で行くつもりだい?」
「そうですね、いつもの道でも良いのですが、たまには開拓の意味で別の道を行くのも一興かと」
「え? それめっちゃおもろいじゃん、攻めに攻めるねー」
「いえ、ただ猛獣に出会ったときに別ルートを知っていれば便利ではないかと思いまして」
「なるほど。それも一理あるわね」
「あの繊細なエルシアも、少しは考えるようになったわけだ」
「色々とありましたから……。もしもの場合を考えておきたくて」
実際、この付近には一般人では手の付けられない猛獣との遭遇率がそこそこある。
おそらく、いつも通っている道は最も安全だと言われている経路です。
しかし、逆に猛獣にとってもいい場所であるので、狙ってきてもおかしくありません。
ですから、私は新しく通れるような道を探してみたい。
そんな風に、以前から思っていたのです。
「だいじょうぶ、何かあってもエルシアはつよいから」
「ありがとう、カリュアーさん」
最悪、遭遇してしまっても猛獣への対策は勉強してきたつもりです。
まずは音の鳴るものをしっかりと持ち歩くこと。
もしも遭遇してしまったら目を合わせたまま、少しずつ後退していけば回避はできると。
そう書物には書いてありました。
「だけど、アタシは心配だよ。私たちでは戦力にはなれないし、エルちゃんが怪我なんかしないか」
「モレアーさん、心配しないでください。戦闘になるようなことにはしませんから」
「……そうかい? アタシたちも全力で協力はするからね」
「はい、ありがとうございます」
モレアーさんは心配そうにしていましたが、他の四人は賛成してくれた様子でした。
音の鳴る大きな鈴も持ってきましたし、少なくとも遭遇率を高くはしていない……はずです。
「いやー、やっぱ森まじ最高! マイナスイオンメガハンパねーって感じ!」
「ここ最近はエルシアと一緒にいる機会も少なかったからな、尚更だろう」
「本当に最高ね! 鳥たちの美しい鳴き声も相まって……あぁ、なんて良い日なのかしら!」
「カリュアー、ほのぼのとした空気の方が大好きなの。きっと今日はいい日なの」
契約妖精さんたちはそれぞれに森の散歩を楽しんでいるようです。
私自身も、平和なこの森の空気に癒やされています。
「みんなが楽しそうで何よりだわ。まるでピクニックに来ているみたいね?」
「ピクニックなん、まじウケる! お弁当持ってきたらまじそれじゃん?」
「ピクニックなら賑やかだし、猛獣も寄ってこないんじゃないかしら?」
「え、何それ。まじ名案じゃん?」
「モレアーの杞憂も晴れそうな提案だな」
「ア、アタシはエルちゃんが心配なだけだよ」
「それを杞憂と言うんだ、素直に認めな」
「ぐ、ぐぅ……」
プテレアーさんの核心を突く発言に、反論できないモレアーさん。
こういう時、プテレアーさんのストレートな発言は強いなと思います。
「たしかにみんなで楽しくしていれば、警戒して寄ってこないかもしれません」
「猛獣とはいえ、無謀に突っ込んでくるほどの愚か者でもないだろうしな」
「でも猪突猛進な部類もいるわよ?」
「この森で出没が噂されている猛獣は、そういうのではなかったはずだよ」
「それなら安心かも、なの」
そうやって相談し合いながら、私たちは奥地にある泉へと向かっていきます。
「この道も……、行けそうですね」
「泉には確実に近づいてるさね。方向も間違っていないし」
「もし迷っても、それ自体パーリナイ! って楽しんじゃえば勝ちっしょ」
「まぁアタシたちも付いてるしね。寂しい思いはさせないさ」
「ありがとうございます」
私は改めて、契約妖精さんたちにお礼を述べます。
彼女たちは不思議そうな顔を浮かべましたが、その後めいっぱい笑ってくれます。
「……水の音がするの。泉ももうすぐなの」
「じゃあ、さっさと水を汲んで帰りましょう!」
「エルちゃん、無理のない量を汲むんだよ」
「はい」
そうして、私たちは無事に泉へと到着しました。
無理のない量で水を汲み、少しだけ身体を清め、帰路に就きます。
「みなさん、忘れ物はありませんか?」
「準備おけまるー! モウマンターイ!」
「カリュアーたちも、準備オッケーなの」
「では帰りま……っ!」
その時、向かい側から大きな猛獣が現れました。
のっそりと鈍重な動きではあるものの、攻撃を食らってはひとたまりもなさそうです。
「ど、どうする⁉」
「どうするもなにも、戦うしかあるまいよ!」
「待ってください。ここで戦うなど、森に良くありません」
「じゃ、じゃあどうするってんだい?」
猛獣といえど、最初から敵意を剥き出しては相手も興奮してしまいます。
「ここは……穏便に済ませましょう」
…………。
猛獣の目を見つめたまま一歩、また一歩と確実に後退していく。
契約妖精さんたちもゆっくりと、同じように行動してくれます。
猛獣はこちらを見つめたまま、動きません。
息を乱さないよう、動きとともに呼吸をします。
吸って、吐いて。吸って、吐いて。
そして距離を保ち、猛獣からの視界から離れた時。
「……一気に逃げます!」
私と契約妖精さんたちは全力で奔りました。
森の出口の方向へ、一目散に。
息が切れそうになっても、必死になって脚を動かしました。
桶の中の水が零れても、お構いなし。
また、みんなで汲みに来ればいいのだから。
「は、はぁ……疲れました」
「いやぁ、スリル満点だったわー。ジェットコースターよりパないわ!」
「そういうアイゲイロスが一番全力疾走してたの」
「そ、そりゃあ? 楽しむなら全力で! 常識っしょ?」
「絶対、一番ビビってたの……」
そう言い合うアイゲイロスさんとカリュアーさんを横目に、モレアーさんとクラネイアーさんは息を切らしていました。
「大丈夫ですか?」
「平気よ、これくらいでへばってちゃ何にもできないんだから」
「エルちゃんは優しい子だね、あとでおいしいものをあげるよ」
「プテレアーさんは、大丈夫そうですね」
契約妖精さんの中で唯一、表情ひとつ変えていなかったのはプテレアーさんでした。
「この程度、どうってことないさ」
「さすが、ですね」
「ところで水は大丈夫だったか? 逃げていたせいで少し零れてしまっただろう」
「はい……。ですが、半分くらい残っていたので問題ありません」
実際、今日の分は大丈夫です。
ですが、明日の分のために、また泉に行かなければなりません。
「やはり森の中も全てが平和、というワケではなさそうだな」
「どうやらさっきの猛獣は迷い子って感じだったねぇ。大きさもそこまで大きくなかったしさ」
「そうなんですか?」
「親子だったらもっと危なかった。子を守る親は一番危険だからさ」
「もう、親元に帰っているといいんだけどねぇ」
そうですね、と私は返事をしました。
「それにしても、このメンツで出かけるのまじ楽しくね⁉ また行こ!」
「それには賛同するわ、ぜひ今度こそピクニックで!」
「おいしいお弁当を作るの!」
「はいはい、今日はもう日も沈んでしまうので、明日にしましょうね」
私がそう言うと、契約妖精さんたちは喜んでくれた。
さっきみたいな怖いこともあるけど、大丈夫。
彼女たちと一緒なら、きっと乗り越えられる。
おまけSS『おまけSS「お弁当の中身」』
明日に向けて、エルシアと契約妖精は準備を始めている。
「さて、お弁当には何を入れましょう?」
「サンドイッチはド定番っしょ」
「あとはプチトマトとか?」
「プチトマトとかまじいらんー!」
「あ、アイゲイロス、野菜嫌いなの!」
「スクランブルエッグはどうだ?」
「いいねぇ、玉子は栄養価が高いからねぇ」
「あとは、ハンバーグとか?」
「それは大アリだわ!」
契約妖精たちと相談し合う、お弁当作り。
明日の中身はどんな彩りになるだろう?