PandoraPartyProject

SS詳細

紅く色付く世界に、微笑みを

登場人物一覧

ギルオス・ホリス(p3n000016)
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶

 秋の実りは世界に映える。
 山道――紅く色付く美しき葉も見えようか。
 正しくに秋の到来。
 暖かな日差しはあれど柔らかな風が頬を撫でれば……肌に突き刺さる様な暑さはない。
 歩きやすい季節だ。二人、隣り合って歩くには。
「随分過ごしやすくなったね――そのおかげかな。仕事もスムーズに進んじゃったよ」
「うん。もう何日か掛かっちゃうかもしれないな、って思ってたのにね」
 ギルオスとハリエットは幻想の山中に来ていた。
 今日も今日とて情報屋としての活動だ。なんでもここ最近、謎に大繁殖した綿菓子洗うアライグマや蠢くモミジの木が発生しているという。不安に思った近場の住民から調査依頼があり赴いたのだが……しかし山と言えば広い。
 故に数日調査にかかる事も前提にキャンプの用意もしていたのだ、が――
 ――あぁ幸か不幸か調査はすぐに終わった。
 なにせ二日目。山の半ばにまで踏み込んだ際にアライグマとモミジの壮絶な闘争を目の当りにしたのだから。縄張り争いだったのだろうか……何はともあれ存在や性質は確認できたが故に一度脱出。あれらに対応するかはまた別途考えるとし、て。

「じゃあ余裕が出来たから、村の人に教えてもらったハイキングルートに行ってみようか」

 ギルオスはハリエットに告げようか。もう少し、観光していこうと。
 アレらは即座に対処すべき危険な存在でも無さそうであるが故に。
 ならば景色を楽しむ一時があっても罰は当たらないだろう――
「ハイキングかぁ。そうだね、景色も空気も綺麗な所だし、行ってみたいな」
「よぅし。そうと決まれば善は急げだ。キャンプ用品は……まぁ必要ないかな。お弁当とか最小限のモノだけ持っていこう。そう距離はないと思うけど、動きやすいのが一番だしね」
「うんうん」
 そんなこんなで村に荷物を預けていく二人。
 整理していればキャンプ用のテントや寝袋がハリエットの手に握られようか。『あっ』と声が零れた彼女の脳裏に溢れるは、昨夜の記憶……
 二人きりで満天の星空の下。焚火をしながら暖を取り。
 そして同じテントの下で眠りを共にしただろうか。
 ……流石に寝袋はそれぞれだけど。
 テントを二個も持っていく余裕はなかったから。
 聞こえてきた寝息の声に、眠れなくなるような熱を感じたのは――さて。
「どうしたのハリエット? 何かあったかい?」
「あ、ううん。なんでもない、よ」
 と。ギルオスの声に現実に戻るハリエット。
 慌てて寝袋などを纏めながら……さぁハイキングへと出かけようか。
 変な存在共が出た場は避け安全なルートを通っていく。
 ギルオスは地図を片手に。ハリエットは弁当の入ったリュックなどを抱えながら。
「えーとこっちかな。安全ではある筈だけど、足元には気を付けてね」
「うん。あ、ギルオスさん見て。鳥もいるよ――
 ほら、枝にとまってる。綺麗な声もしてるね」
「ホントだ。見た事のない鳥だね……季節の変わり目だしどこか遠い所から来たのかな」
 なんて。時折、秋の景色と気配も楽しもうか。


 何故だろう。いつもより彩って世界が見えるのは。
 きょろきょろと、つい視線を辺りに滑らせてしまう程に綺麗だと感じよう。
 頂上にまで至ればハリエットは『わぁ』と吐息を零して――
「お仕事の調査でこの近辺には何度も足を運んだのに……
 こんなに奇麗に紅葉する場所があるなんて、知らなかったな」
「あぁ。それに……仕事をしてるとどうしても『楽しむ』余裕がないんだろうね。
 観察はするけれど、あくまで目的に沿ったものを集中的に見るから」
「ふふっ。偶にはこうして歩くと見れないモノも見れていいねギルオスさん」
「さ。そんな訳でそろそろお昼だ。お弁当も食べておこうか」
 心の余裕があるからだろうかと、思考を巡らせるものだ。
 ゆったりとすれば視野も広がると……
 ともあれ時刻もそろそろ昼。お弁当の箱を開けば――サンドイッチが見えるものだ。
 想い出のサンドイッチ。口に含めば変わらぬ味わいが其処に在る。
 ……あぁ。時間がゆっくりと感じる。
 地面には紅葉の絨毯もあれば、そこに寝っ転がって瞼を閉じて。
 時の過ぎ去りを心に愛しもうか。
 思う存分羽を伸ばして英気を養いて。
「ねぇギルオスさん」
「うん?」
「お互い、もう子供のような好奇心と冒険心は持てないけれど」
 刹那。ハリエットはギルオスを眺めながら――
「今までできなかった経験をたくさんしようよ」
 言の葉を紡ごうか。

「――それは。大人になってからでも遅くない、て思うから。きっと」

 間に合わない、とか。遅すぎる、とか。
 そんな事、この世界には存在しないと信じてるんだ。
 一緒に生きよう。一緒に楽しもう。
「……ありがとう。そうだね。うん、その通りだ」
 過去を拭えなくても。未来は作れるから。
 寝転がりながら互いに手を重ねようか。
 ――時が過ぎていく。
 けれどもう少しこのままでと……願いながら。


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