PandoraPartyProject

SS詳細

君を迎えに

登場人物一覧

ムラデン(p3n000334)
レグルス
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

 なんで竜がニンゲンを迎えに行かなければならないのだろうか。
 正直に言えば、ムラデンはそう思う。
 幼き竜である。傲慢さもあるし、人間でいえば、「まだまだ子供」であるともいえる。
 そういうわけだから、知的生命の機微について、疎いのは仕方あるまい。
 平たく言おう。こいつは『乙女心がよくわかっていない』のである。

 えっ!? 乙女心が分かっていないのに、あんな翻弄するような感じを!?

 と、誰かが驚くかもしれないが、むしろ乙女心が分からず、駆け引きなんかではない、素の彼を見せているからこそああなっているのかもしれない。ある意味で、彼は純粋でまっすぐだ。そして素直ではない。だから自分の本心をなかなか出さないし、出すべき時では出すべきだと躊躇しない。そして、その相手もそれなりに選別している。例えば、今迎えに行っている、水天宮 妙見子などがそうだ。
「いや、でも、連れてけっていったのは僕だからな……」
 紅葉の道を行きながら、水天宮神社の姿見えてくる。そうなれば、よくよく気安い仲になった気がする、妙見子の姿が思いおこされた。
「まぁ、僕のほうが大人だからな……それに、たみこにはうんとおごってもらう予定だし。うん、これは先行投資だ」
 いい加減な言葉を言って自分に言い訳する。これはそう、自分にもちゃんと利のあるということなのだ、と。だってそうじゃないと――なんか楽しみに女の子を誘いに来た、みたいじゃん。ストイシャにでもばれたら、「ふひひ」と不器用に笑うに違いない。面白げに。なんだ、あいつだって、最近ニンゲンたちと楽しくやってくるくせに。
「それも、たみこたちのおかげかな」
 そうつぶやいた。あの戦いには多くのニンゲンが参加していて、その全員が一丸となった結果が今だということは理解している。それでも、手を伸ばせ、といったのは、あの妙見子だったと思い起こされる。
「へんなの」
 なんとも、変な気分であった。悪くはない。いや、竜に手を伸ばせ、とは傲慢な。今度ほっぺたつねるか。
「あ、ムラデン!」
 と、声がかかった。気づいたら、水天宮神社の境内にまでついていて、そこにはしっかりとおめかしをした妙見子の姿があった。それを見て、ムラデンは「げ」と声を上げた。
「お揃いかよ!」
「ふふ、送った服、着てくださったんですね~?」
 によによと笑う妙見子に、ムラデンはぷい、と視線をそらした。二人の服は、色合いや柄など、とてもよくにいていた。
「なんだこれ、仲良しみたいじゃん」
「仲良しじゃなかったんです~?」
「別に嫌いじゃないけど」
 はぁ、とムラデンは嘆息した。
「もっとこう……深く仲良しっぽくない?」
「ふかい、とは?」
 妙見子がそういうのへ、ムラデンはわずかに慌てた様子で、視線をそらした。
「なんでもない。それより、さっさと行こう。ストイシャたちも待たせてるんだろ。
 それに、ちゃんと迎えに来たんだから、うんと奢ってもらうからな」
「ふふ、はいはい」
 さいきん妙見子は生意気だな、と思う。というか、ずいぶんと、気やすくなった気がする。もちろん、一方的にもてあそばれているわけではないのだけれど、それにしたって――。
(対等、か)
 ふと、そんな風に思う。竜とニンゲンが? と考えれば、何とも傲慢な話であるが。友人としてみるならば、よい、のかもしれない。
(結局、僕らは僕らだけで、事態を解決できたわけじゃなかった。そこは認めてるし、たみこは――)
 ふと、隣を見る。妙見子が紅葉に染まる境内を見て、笑っていた。
「貴方と同じ色ですね~」
「同じかな」
 落ちる紅葉を、手にしてみる。確かに、赤い。生命の、赤なのだろうか。そう考えれば褒められているように感じた。
「たみこは」
 と、考えながら言う。
「なんだろう? 海かな。白い時もあるから、雪? 空かもしれない。ずっと上の、星の瞬いている」
「宇宙ですか?」
 そう言って、空を見上げた。青と、太陽の色が、混ざり合ったような色だった。
「……やめた。スケールが壮大すぎる。大体、僕がこの葉っぱで、キミが海だの宇宙だのなんて生意気だ。
 キミもなんか、葉っぱとかにすればいい。花とか、そういうの。そうすれば」
 たぶん、隣にいてもいいのだろうから。
 本当は、全然同じじゃなくて。
 僕より先に、きっとキミは死んで。
 そうじゃなければ、きっと元の世界に帰ってしまうのだけど。
 せめてその間くらいは、友達でいたい。
「は?」
 そう考えて、ムラデンはすごく、いやそうな顔をした。心の内を、表に出したくなかった。だから、無言で、とりあえず、妙見子のほっぺたをつねった。
「ひたたた! なんで!?」
 妙見子が目を丸くするので、
「いや、なんか生意気だったから」
 そう言って、ムラデンはいつものように笑った。
 紅葉が落ちる道を行く。
 いつもの通りに。せめてこの瞬間くらいは、不変でありますように。


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