PandoraPartyProject

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秋と紅葉と猫さんりんご

登場人物一覧

祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫


 秋、とある日曜。練達・再現性東京の祝音領地『ねこの市』の某所。
 木々が色づき落葉を散らし、人も見かける昼の広い公園で。
 祝音・猫乃見・来探は独り、買い物袋を横に置いてベンチに腰掛け……ただぼんやりしていた。

 今の祝音は憂鬱の真っただ中。
 守りたい人を守れず、掴み続けたかった手は敵のせいで振り払われ……自分の力が無意味なら自分の生命を賭ける以外にできる事はないのではないか、それすら無意味だったら……そんな思考の負のスパイラルに呑まれている状態であった。

 他の人と一緒の時なら、楽しめるけれど。
 独りでいる時は、落ちた紅葉を直視する事もできない……ある紅葉狩りの時に一緒したのに、後に守れず死にかけている大切な仲間を想起してしまうから。
 ただ、時間が過ぎるのを待つようにぼんやりする事しかできなかった。

(せめて、気を紛らわせないと……)
 そう思って、横に置いた買い物袋の中から食べれる物をごそごそ探し……ある物に目が行く。
「……りんご?」
 そういえば、ぼんやりしながら目につく物や気が向く物を適当に買い物かごに放り込んでいたような……セルフレジがある店も多い気もするが、今日に限っては店員さんのいるレジで会計してもらったんだと思い出した。

 おもむろにしゃく、と一口かじる。
 柔らかな皮と甘くてしゃりしゃりする、美味しく質の良いりんご。
 帰ってから切って食べればよかったかなと思ってから……もう1つ、想起する。
 混沌に召喚されるより前の……『祝音』になる前の自分の、おぼろげな記憶。

 かつての『僕』は今よりずっと体が弱くて。体調を崩して、病院にいる事もあった。
 そんな時……見舞いに来てくれたお姉ちゃん達が、りんごを切ってくれた事がある。

 皮の一部が残されて、猫の耳と尻尾のように見える……食べるのがもったいない位に可愛い、猫さんりんご。
 可愛いね、と言えば、お姉ちゃん達も笑ってくれて。

 思い出抱えて、りんごをしゃくしゃく。
 秋の公園のベンチで秋の実りを味わえば。
 傍に何かが飛び乗ってきて、ふと見てみれば、茶虎模様の可愛い猫さん。
 りんごは持ったまま、もう片方の手で撫でると、温かくて柔らかい毛並みに癒される。

「……ありがとう、猫さん」
 帰ったら、頑張ってりんごを切ってみよう。
 あの時みたいな猫さんりんごにできたなら……そう思いながら。
 甘いりんごをもう一口、しゃくっとかじってみるのだった。


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