PandoraPartyProject

SS詳細

実りある我がリッツ・パーク

登場人物一覧

ソルベ・ジェラート・コンテュール(p3n000075)
貴族派筆頭
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

「ソルベ様!」
 明るい声音でやってきた赤い鳥さんことカイト・シャルラハを屋敷で迎え入れたのはコンテュール卿こと、ソルベ・ジェレラート・コンテュールその人だった。
 相変わらずの極彩色をその身に纏ったソルベは「ああ、秋らしい姿でよくいらっしゃいましたね」と微笑む。
「お、秋っぽい……ですか?」
「ええ、ええ、カイトさんは紅葉のようで素晴らしいです。卿の護衛に選んだのも貴方の羽根が素晴らしいが故」
「確かに、紅葉の中だと隠密性能がありそうだよな――ですね!」
 一応『敬語』を勉強してきたというカイトにソルベは特に何も言うことはしなかった。
 そもそも彼はイレギュラーズであり、ソルベにとっては恩人だ。確かにカイトの父親からすれば「貴族派筆頭になんて口調だ!」と叱り付けたくなるだろう。
 そう『一応』は上司だ。指揮系統を見ればソルベはカイトからみてそれを有していない。貴族である以上は守護するべき存在で国家レベルで見れば上司とも言えるのだろうが、イレギュラーズと言う立場であるならばそれ程に気を配らねばならない相手とは言い切れない。
 その辺りはさて置いて――
「今日は市場への視察を行なう予定です。リッツパークは交易の拠点でもあります。豊穣郷より運び込まれた品も珍しいものが揃っていますから。
 色々と見に行くのは如何でしょう? 視察の護衛をしてくれるのであれば、少しばかりお駄賃を差し上げますよ」
「やった」
 カイトはにんまりと笑った。勿論ソルベはいたって真面目だ。年下の青年を甘やかしている自覚もある。素直な彼が愛らしいのである。
 ソルベをまじまじと見てからカイトは「ソルベ様、普段通りの服装で視察に行くんですか?」と問うた。
「ああ、そうですね。カヌレ、カヌレはいますか?」
「どうしましたの?」
 ひょこりと顔を見せたカヌレへとソルベは「良ければ視察に行く洋服を選んで頂いても?」と問うた。そうした分野が得意――というよりも大切な兄を着飾りたいのがカヌレの本心なのだろう。
「ええ、お任せ下さいませ」と微笑むカヌレはついでと言わんばかりにカイトもウォークインクローゼットへと『ぶち込んだ』。
「えっ、カヌレ様!?」
「あら、カイトさんも着替えていらっしゃって。紅葉色がよろしいの?」
 にこにことしているカヌレにそそくさと着替えを促され、カイトが着用したのはタータンチェックのスーツであった。秋色を身に纏うカイトの傍ではトーンオントーンのスーツを着用してドヤ顔のソルベが立っている。
「さて、アクセサリーなどはマーケットで確認しても良いですね。参りましょうか」
 コンテュール兄妹に『おもちゃ』にされている気がしながらもカイトはソルベと共に視察へと繰り出した。
 マーケットでは彼の言う通りアクセサリーを販売している店舗も目に付いた。それだけではない。食材も多く販売されているのだ。
「おや、フルーツがなかなかの量ありますね。キノコも豊富だ。こちらは……南瓜にも種類があると識りませんでした」
「おう」
「カイトさん、何れを見ていらっしゃいますか?」
 カイトはぱちりと瞬いてから「あ、ああ」と頷いた。その視線の先には――そう、林檎が存在している。余りにも美味しそうな赤い林檎だ。
 秋の実りを前にして「味見しないのも、悪いよなあ」と思わず呟いたカイトには罪はない。
 カイトはそろそろと手を伸ばして「これ、一つ」と店主に声を掛けた。しゃりしゃりとした林檎を囓り「美味い!」と嬉しそうな声を上げる。
 次に茸や芋を焼いたものにポタージュスープなど様々な商品を買い食いしていく。真面目な視察中のソルベは驚いた様子で振り返った。
「そんなにも食べれるのですか?」
「え? おう」
「美味しいでしょう」
「うんうん。これ、凄い良い味だ。ソルベ様も食べてみないか?」
「私はカイトさんにお任せしますから」
 明るく微笑んだソルベにカイトは「あっ、じゃあ、これって公費で出たり……」と問うた。ソルベの良い笑顔は「無理ですね」と告げて居る。
「ですが、少しは私がお小遣いとして差し上げましょう! ええ、何せ、私はコンテュールですからね!」
 自信満々なソルベにカイトはやったーと声を上げた。どうせなら美味しい茸を囓ってみたい。ただ、それが何らかの効能のある可笑しな茸である可能性も見越さねばならないのだ。
 ソルベが外で口にしたいのはそうした理由があるからなのだろう。ならば思い切り味見をするのは護衛であるカイトの役目だと楽しみながら栗を囓った。
「楽しいですね?」
「楽しいですね。うん、美味しいですね!」
 慣れない敬語でも、彼は全てをおおらかに受け入れてくれる。この穏やかな海の国で棲まう彼を護る事も使命なのだと改めて――美味しい物をくれるし、優しいし、いい人なのは良く分かるから――実感してからカイトは「焼き芋を買おう」とソルベの手を引いて次の店舗へと向かったのだった。


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