PandoraPartyProject

SS詳細

真新しくて些細で、それでいて掛け替えのない宝物

登場人物一覧

アウラスカルト(p3n000256)
金嶺竜
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

 秋の花が咲く小高い丘へ登り、白樺の林をゆっくりと歩く。
 時折吹き抜ける澄んだ木枯らしは、冬が間近に近付いているのを感じさせた。
 つい先日まで、刺すほど苛烈だと思えた陽光は、昼前だというのに淡く。
 渡り鳥達の忙しない鳴き声と枝々を渡る様は、さながら軽快なミュージカルのようだった。

 ジェックの眼前では、豊かな金髪がひょこひょこと揺れている。
 それもまたどこか愉快げに見え、ミュージカルのヒロインが踊っているようにも思える。
「こっちか?」
「うん」
「いつごろだ?」
「もうすぐだよ、あと十分ぐらいかな」
 アウラスカルトは一分と経たぬ間に都度都度振り返り、行き先を尋ねてくる。
 長きを生きる竜も、こうしていると、まるで小さな子供のようだった。
 人の子との大きな違いは、この場合健脚なことだろう。
「その辺、落ち葉が積もってるから、滑らないように気をつけて」
「分かった」
 怪我なんてしないだろうけど、服を汚してしまうのはしのびない。
 ジェックもまた、ふかふかの葉を慎重に踏んで進む。
「我が背に乗れば、それこそだろうに」
「それもいいけど、こうやって歩くのがいいんだよ」
「そういうものか」
「うん、そういうもの」
 そんな答えを聞いたアウラスカルトは、ふんすと鼻を鳴らし、決意をこめたように再び歩き出す。
 妙な意気込みだが、なんだか微笑ましい。
「もしかして、もどかしかったりする?」
「なぜ?」
 ふと、先程アウラスカルトが述べたように、飛ばないことに不満があるのではないかと思えたからだ。
「そんなことはないが」
 けれど振り返り、心底不思議そうに首を傾げた姿を見て安心した。
「そっか、なら良かった」
 散歩――というよりもピクニックか。
 遊びなのだから、楽しめなければ意味がない。
 ともあれアウラスカルトは、木を渡るリスを眺め、彩り豊かな葉を摘まみ、度々顔を覗かせる鹿に驚きながら、山道を歩いている。
「鹿は初めて見る?」
「初めてだが、驚いた。角が似ている」
「本当だね」
 初めて目にするものに夢中になっている様子は、連れてきた手前、冥利に尽きるが。
 ここはまだ目的地ではない。
 あとほんの、目と鼻の先だけれど。

「着いたよ」
「――っ!」
 眩い光がにわかに差し込み、目が眩む。
 手のひらで陽光を遮れば、赤く透けて見えるような気さえした。
「こういうのは、どうかな?」
 断崖に立ち、眼下に広がる景色を眺める。
「色が、多いな」
「そうだね」
 アウラスカルトの素朴な物言いに、ジェックはくすりと微笑んだ。
 見下ろした渓谷には渓流がせせらぎ、周囲の一面を紅葉が彩っていた。
 燦々と降り注ぐ陽光を浴び、赤や黄色に色づいている。
「という訳で、お弁当にしない?」
「!」
 紅葉をじっと眺めていたアウラスカルトの尻尾が、ぴくりと跳ねる。
「それは何だ?」
「プルドポークとチーズとコールスローを、パンでサンドイッチにしようか」
「そっちは芋か?」
「うん、焼き芋にしようと思って」
 拓けた岩場に落ち葉を運び、小枝を組んだ。
「燃やすのか、火を吹けばいいか?」
「じゃあお願いしようかな。お手柔らかにね」
「案ずるな、任せろ」
 しゃがみ込んだアウラスカルトが軽く息を吹くと、火種が少しずつ燃え始める。
「すごいね」
 器用なものだと感心する。
 表情の薄いアウラスカルトだが、その横顔は、どこか得意げだ。

 燃え始めたたき火でパンを炙り、チーズを溶かすついでに、ポークも温める。
 それらを挟んで――
「いただきます」
 口の中でほぐれるお肉と、とろとろのチーズ。それから香ばしいパン。
 コールスローのアクセントがいい感じだ。
 後ろでかさかさと音がしたから振り返れば、アウラスカルトの尾が左右に振れていた。
 改めて顔をみれば、夢中でかぶりついている。
 そんなアウラスカルトが、ふと動きを止めたものだから、水筒を差し出した。
「こっちはお水。ミルクティーもあるけど」
「ん」
 竜もがっつくと、喉を詰まらせることがあるらしい。
 いやさすがにアウラスカルトぐらいのものだろうか。

 熾火になった辺りで、くるんだ芋を中へ放る。
「結構時間がかかるから、風もないし、焼けるまで綺麗な落ち葉でも探そうか」
「葉を拾うのか?」
「うん、たとえばこんなのとか」
「蝶の翅のようだ」
「綺麗でしょ」
 アウラスカルトはこくりと頷いた。
 それからかがみ込み、ああでもない、こうでもないと、葉を選り分けている。
 素直な様子が微笑ましい。

「見よ、これを宝とせん」
 しばしの後、ようやく見つけ出した一枚は、星のような黄色の葉だった。
「楓だね。お母さんに見せる?」
「――っ!?」
 ジェックの一言に、アウラスカルトははっとした表情をした。
「魔力の気配すらさせず、汝は心を読むのか」
「そんな訳ないって。そりゃ分かるよ、友達なんだから」
「そうか、そうだな」

 ほくほくの焼き芋を食べて。
 帰る頃には、お土産はずいぶん沢山になっていた。

おまけSS

「母よ、これを見よ」
「綺麗な落ち葉ですね」
「すごかろう、これを我が最も新しい宝物とした」
「それをどこで?」
「良くぞ聞いた、ならば教えてやろう」
 その日の想い出を語るアウラスカルトは、ずいぶん誇らしげだったらしい。


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