PandoraPartyProject

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手を挙げろ! お菓子警察だ!

登場人物一覧

黄泉津瑞神(p3n000198)
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者

 ファントムナイトがやってきた。神霊であり、地へと根深くその身を寄り添わせる黄泉津瑞神はその影響を余り受けない。
 元々姿を変幻させることが可能な彼女はファントムナイトの魔法に掛かる掛からない以前より獣か白き毛並みの娘になるかの何方かであった。
 そんな瑞神がファントムナイトを心より待ち望むようになったのはとある神使イレギュラーズのおかげである。
 柔らかくふわふわとした毛並みの愛らしい少女、メイメイが手製の衣装を持ってやってきてくれるのだ。
「瑞さま、今回も仮装をいたしません、か?」
「はい。メイメイさまならばきっとお誘いくださると思っておりました。とても楽しみです」
 うきうきとした様子の瑞神を前にしてメイメイは「今回のテーマは」と袋を取り出した。中から出てきたのは探偵を思わせる衣服の数々だ。
「少年探偵団、です」
「……成程、承知しました。メイメイさまもお姿を変えていらしてください」
「……はい?」
 確かにメイメイは混沌の魔法の影響を受ける。自らが望めば少年探偵にもすぐに変化できるだろう。
 だが、瑞神は違うはずだ。着替えなくてはなれやしない。女児の姿になってほしいと望んでのことであったが。
 探偵助手の姿に変化してからメイメイは「瑞さま……?」とひょこりと顔を出した。
 先ほどまで瑞神が座っていたクッションには真白の髪の少年がちょこりと座っている。纏う衣から見て瑞神には違いないのだが――
「お、男の子……?」
「私は精神性は女神ですが、姿だけならば少年のものに一時的に変えることができますよ」
 本来意義的には性は存在していないのだと瑞神は微笑んだ。精神は『第一の娘』――つまるところ、母親のように黄泉津を愛する慈愛を宿しているが故に女性の姿をとることがおおいのだそうだが、無性に該当するのだという。
 ちょこんと座っていた少年瑞神が新鮮だとメイメイは喜びながら彼女の慣れない洋装を着付けて遣った。尾をズボンの穴から出してキセルを持たせてやれば『探偵』瑞の出来上がりだ。
「如何でしょう?」
「とても、お似合いです」
 ぱちぱちと手を打ち合わせたメイメイに瑞神は自信ありげであった。喜ばしいと微笑む彼女は犬耳をぺしゃりと押さえ付ける帽子を深く被り直してから「どうしますか?」と問う。
「ええと――」

 時は少しばかり遡る。瑞神がファントムナイトを心より楽しみにしているという事をメイメイは耳にしたのだ。
 御所にやってきて最初に顔を出したのは中務卿のもとである。政務に追われて居る彼は仕事をして居る最中は何時も何処か蒼白い顔をして居る。
 胃を痛めていないかと心配にもなるが気遣うよりも大いなる目的が今日はあったのだ。
「瑞神の仮装?」
「はい。それで……瑞さまと、街を、歩き回れれば、と。
 晴さまのお仕事を、増やしてしまうかもしれません、が……許して下さい、ます、か?」
 テーマは探偵だと告げたメイメイに彼が頭を悩ましたのは最近は知識を蓄えた瑞神がどの様に動くかを想像したからだ。
 屹度彼女はるんるんと菓子を奪いにやってくる。その際には御所内で黄龍達とも合流して盛大な大暴れをする可能性があるのだ。
「ん……」
「いかが、でしょうか」
「余り暴れないように、と忠告だけをメイメイがしてくれるならば」
 頭を悩ませていたのだろうが、全てを却下したならば瑞神の機嫌が大荒れ、最悪黄泉津の天気も大荒れなのだ。
 そうはならぬようにと暴れん坊の瑞神を出来る限り留めておくのが目標である。礼を言ってから、メイメイは晴明と共にプランを考えた。
 御所内をトリックオアトリートと言いながら菓子を集めるプランだ。ある程度御所を練り歩いてからは陰陽頭と合流するならば外に出ても構わないという。
 晴明は今日は時間が空けられそうにない為、庚に白羽の矢が立ったのだろう。(因みに庚は「メイメイ嬢ならば行けば良いのに」とちくちくと言ってきたが其れは別の話である)
「それでは、行って参ります」
 後で此処にも菓子を取りに来るというメイメイに晴明は近くに居た女房に渡せる菓子を手配してくれと頼んでおいたのであった。

「……成程。お菓子をもらいに練り歩くのですね。
 黄龍は菓子を食べる側ではなく、渡す側になって頂きましょう」
「珍しい、ですね?」
「あの子は何時も貰ってばかりですから。実りある今日くらいは私にだって、くれたって良いでしょう?」
 どこか拗ねた様子の瑞神にメイメイは小さく笑った。確かに黄龍はするりと他者の懐に入り込んで美味しい蜜を啜っていくタイプだ。
 出来るだけそれを阻止したいというのが瑞神の考えなのだろう。
 ウキウキとした様子で歩き出した瑞神の背を追掛けてメイメイが最初にやってきたのは中務省だった。陰陽頭である庚にも挨拶をしておく目的だ。
「黄泉津瑞神様」
 声を掛ける瑞神に気付いて傅いた女房は何時もよりも幼く、少年のなりをした瑞神を見てからはて、と首を傾げる。
「混沌世界のファントムナイトだということで、わたしも回っております」
「ああ、中務卿から聞き及んでおります。合い言葉を仰って頂けるのだとか」
「ええ。それではとりっくおあとりーとです」
 辿々しくも告げる瑞神に女房達は「どうぞ」と柔らかに微笑んで差し出した。その様子を見ている陰陽寮の面々は瑞神に合い言葉を告げて貰いたい様子でもある。
「めえ……」
 一体どうしたことなのだろうとぱちりと瞬くメイメイへ庚がひょこりと近付いた。
「瑞神から言葉を賜れる機会など早々ありません。何せ、守護神ですからね。
 普段は主上のお傍にあられますし、神使の皆様のことは友人だと思っていらっしゃいますが、我らはその立場ではありません」
「成程……だから、あの様に、うれしそうなのです、ね?」
「ええ。瑞神と交流を持ち、皆様楽しく対話を行なう事を期待して居るのです」
 庚にとっては慣れた相手でも部下達は違うのだと囁く。陰陽頭と話し込むメイメイを振り返ってから瑞神は「庚、メイメイさまをお返しなさい」と膨れ面を見せた。
「おや、ええ。どうぞ、瑞神」
「メイメイさまもお菓子を貰う権利を有しているのです。お話をしていれば、メイメイさまが菓子を貰いそびれるではありませんか。
 庚がたんまりと用意しているのならば話は違います。晴明と庚でしょう。陰陽寮の子らにわたしが菓子をもらいにやってくると話したのは」
 おかげで籠が菓子でたんまりすぎるのだと頬を膨らました瑞神に陰陽寮の者達は慌てた様子で少し身を退いた。
「……庚が預っていてくれるのであれば貰っても構いませんよ。ねえ、メイメイさま」
「あ、はい。お供します」
 そろそろと告げたメイメイに瑞神は満足げに頷いてから庚へと大量の菓子を押し付けた。たどたどしい『とりっく・おあ・とりーと』を告げて楽しげに瑞神は中務省の中を闊歩する。
 まだまだ中務省内では瑞神に菓子を配る時間が続いているのだろう。菓子を受取りながらも其の儘向かう先は霞帝の元だというのだから神霊様々だ。この国の天上ともされる存在に会う為に何の準備も必要としないのだ。
「賀澄は菓子を用意しているでしょうか」
「大丈夫ですよ。中務卿がおりますから」
 ならば安心だと言った様子で瑞神が笑みを浮かべた。きっと晴明のことだ、霞帝の身の回りの準備をして瑞神の来訪を待ってくれているだろう。
 瑞神が仮装をして霞帝のところにまでやってくるのだと先に推測してくれているのだから彼は出来た中務卿帝の補佐だ。
「それでは、皆様、また」
 陰陽寮や中務省の役人達に挨拶をしてから瑞神はてこてこと御所を歩いて行く。途中すれ違う者達にもきちんと合言葉を伝えながら瑞神は「愉快ですね」と微笑んだ。
「皆が嬉しそうに笑うのですから、わたしも嬉しくなります。
 幼子の姿をして歩いているのが珍しいならばこれからも幼子の姿になっても良いくらい」
「少年の姿、ですか?」
「ええ。この方がやんちゃをしても叱られないでしょうから」
 菓子もたんまりだと嬉しそうに言う瑞神にメイメイはくすりと笑った。しかし、もし本当にそうなったら晴明の胃がやられそうではあるのだが。
「では賀澄に会いに行きましょう。その後は外を廻るのです。
 ああ、そういえば……賀澄には新しい言葉を用意しました。庚と相談して決めたのです」
「何と……?」
 ぱちりと瞬くメイメイに瑞神は自信満々に「耳を貸してください」と背を伸ばした。

 ――手を挙げろ! お菓子警察だ!

 またもやぱちくりと瞬いたメイメイに瑞神は「きっと賀澄は手を挙げますよ。とっても、喜んで!」とウキウキとした様子である。
 庚が勉学のために豊穣から出て各地を周遊した際に耳にしたそうだ。霞帝ならばそうしたジョークを好む。
 このために準備していた言葉なのだと瑞神は頬に手を添えてから嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、賀澄はどんなお菓子を用意してくれているでしょうか? ふふ、とっても楽しみですね」
「きっと、瑞さまの、お好きなものです、よ」
「ええ!」
 嬉しそうにるんるんとした足取りで進む瑞神は早速霞帝の坐す居室にまでやってきた。
 今日は誰とも謁見の予定がない為か自室で政務を熟していると聞いている。先に霞帝の様子を伺いに入ったのは庚だ。
 神使であるメイメイと共にファントムナイト気分の黄泉津瑞神が遣ってきているという前情報だけを伝えてくれている。
「ほう、瑞が。うむ」
 晴明から聞いていたのだろう。待っていたと言わんばかりの様子で「瑞」と呼び掛ける霞帝に瑞神は尾を揺らした。
「さあ、メイメイさま、参りますよ」
 うきうきを堪えきれない様子の瑞神がメイメイの手を引いた。用意したセリフを言うタイミングを今か今かと伺って居るのだ。
「賀澄」
 ひょこりと顔を出してから瑞神はこれまでにない様子で微笑んだ。
「ああ、瑞。良く来たな」
「よくお聞きなさい」
 そうして彼女はこう言った――


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