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SS詳細

愛刻の時間

登場人物一覧

ギルバート・フォーサイス(p3n000195)
翠迅の騎士
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護

 北の大地ヴィーザルが雪に閉ざされる前に帝都スチールグラードへと足を踏み入れる。
 大戦の傷跡は所々に残されているけれど、人々の活気は戻っているように見えた。
 街路樹として植えられた銀杏が秋の訪れを告げるように黄色く染まっている。
 ギルバート・フォーサイスは妻のジュリエットと共に帝都のジュエリーショップへ赴いていた。
 美しい装飾が施されたドアノブを押して店内へ入れば、柔らかなクロスの上に置かれた指輪やネックレスの煌めきが映り込む。
 ギルバートにとってこういった場所は慣れないもので、少しばかり緊張してしまう。
 元の世界では王女だったというジュリエットはいつもの微笑みを浮かべているから、さして珍しいものでもないのだろう。けれど、何処か嬉しそうではある。

「ご予約のフォーサイス様ですね。こちらへどうぞ」
 腰を折ってギルバート達を迎えた壮年の男性はこの店の店主なのだろう。
 店の奥に見える小さな工房で職人が指輪を手作りしているらしい。
 時折、工房の中を歩く彫金師達の姿が見えた。
 柔らかなソファに案内されたギルバートとジュリエットは、店主が持って来た幾つかの指輪が乗せられたケースの中を見つめる。
「こちらはウェーブラインで美しいひねりのデザインです。また、こちらはクロスラインで、金と白金を合わせてデザインされています。結婚指輪ですからお揃いのデザインは勿論ですが、奥様の指輪にはダイヤなどの石を合わせると指先を華やかにしますね。普段お使いになられるのでしたらシンプルなものも良いですね」
 店主の説明を真剣に聞いた二人は、プラチナのストレートラインの指輪を選ぶ。
 ケースの上に乗せられた指輪をじっと見つめるジュリエットの横顔が綺麗で見蕩れてしまったのを、店主に微笑まれ照れくさそうに頬を掻くギルバート。

「指輪の内側に誓いの言葉などを彫ることが出来ますが、いかがいたしましょうか」
「誓いの言葉……」
 ジュリエットはどんな言葉が良いか考えを巡らせる。
「何があろうとも俺は君の傍に居る。俺の全てを捧げるよジュリエット」
「……ぇ、あ、えっと」
 ギルバートの言葉に考えていた思考が真っ赤に散ってしまった。
 店主の居る前でそのように口にするギルバートに「私もです」と辛うじて答える。

 ――永遠に貴方と共に、私の愛のすべて。

 お互いの指輪に刻む誓いの言葉。
 雪の精霊のように白いジュリエットの頬が桃の果実の如く色づいていた。

 指の大きさを測り、一から作り出すのは幾日か掛かるだろう。
 その間は帝都に滞在するつもりだ。いつもは村人達が見守る中で散歩をするけれど、帝都にくれば誰も自分達を見てはいない。だからだろうか少しだけ羽目を外したくなるのだ。
 ジュリエットと手を繋ぎ石畳の歩道を歩く。
 ヘルムスデリーとは違い、車やスチールトラムも頻繁に行き交っていた。
 ジュリエットに危険が及ばないように己の身を盾とする。

 しばらく歩いた先に広い公園が見えてきた。二人は遊歩道をゆっくりと歩く。
 ひらりと舞い降りてきた小さな紅葉の葉を受け止めたジュリエットはそれをくるりと回した。
「赤ちゃんの手みたいですね」
「そうだね。小さくて可愛い」
 ふと、紅葉を摘まむ指先が止まる。ジュリエットの横顔が朗らかな笑みを浮かべていた。
「……ギルバートさんは子供何人欲しいですか?」
「そうだね。きっと君に似て可愛い子供達だろうから、何人だって嬉しいよ。ふふ、たくさんの子供に囲まれて笑っている君はとても美しいだろうね」
 紅葉を摘まんでいた手を掬い上げたギルバートはそっと口付けを落す。

 愛おしさというものは、止め処なく溢れるものなのだとギルバートは目を細めた。
 ジュリエットが傍に居てくれる幸せに、目眩がしそうなほど満たされている。
 そこへ更に愛の実りである子供達が加われば、どれ程の幸福が訪れるのだろうか。
 想像を超えた幸せが訪れるに違いないだろう。

「子供達の笑顔が今から楽しみだよ」
 手を引いて遊歩道の傍にあるベンチへと誘うギルバート。
 二人並んで座ったベンチからは紅葉がよく見えた。
「でも、もう少し君を独り占めしたいのだが、構わないだろうか?」
 肩を抱いてジュリエットの頬にキスを落す。
 お互い恥ずかしさの中に、最近は安心する気持ちが芽生えてきた。
 こうして二人だけの時間が続けば続くほど、その心地よさは増していくのだろう。
「いつも独り占めしてますよ」
「君に愛を伝えるには足りないぐらいだよ」
 吹いて来た風に身震いをしたジュリエットをギルバートは優しく抱きしめる。
「もうすぐ冬ですね」
「ああ、帰ったらヤギのミルクのシチューを一緒に作ろうか」

 同じ家に帰る幸せは、愛のあたたかさを紡ぐものなのだろう。
 お互い触れた場所から感じる温もりに身を寄せ、胸を満たす幸福に目を細めた。


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