PandoraPartyProject

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ほかほか色の日々

登場人物一覧

祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
祝音・猫乃見・来探の関係者
→ イラスト

「ねえ、祝音」
 紅葉のように鮮やかな髪を結わえた火鈴が駆け寄ってくる。希望ヶ浜学園の制服に少し大きめのセーターを着用していた彼女の眸がきらりと輝いた。
「どうかした? みゃー」
「みゃーん、ふふふ、あのね、あのね、お芋掘りをしましょうよ!」
 突拍子もない彼女の事場にぱちくりと瞬いてから、祝音は頷いた。いつだって火鈴は驚きを与えてくれる。
 夜妖<ヨル>である彼女にとって、人間社会はまだまだ分からないことばかりだ。不安だからと祝音と共に過ごすことを望んだ彼女はどこかで『芋掘り』の知識を得たのだろう。
「確かに、秋はお芋が美味しいね。火鈴さんはどこかで知ったの?」
「そう。あのね、クラスの……えっと……早田さんっていう女の子が言って居たのよ。
 祝音の二つ前の席に座ってる茶色い髪の毛の子! 栗みたいな色で可愛いねって声を掛けたら食いしん坊って笑われてしまって」
 祝音はまたもぱちりと瞬いた。外の世界に怯えるばかりだった彼女はクラスメイトとの交流も出来るようになったのか。
 それが何よりも喜ばしく感じられたのだ。希望ヶ浜学園の制服に身を包んでいる友人は本当に幸せそうに微笑むのだ。
「祝音と学校に通えるようになって、沢山のことを知れて本当に嬉しい!」
 頬を赤らめ、楽しげに笑う火鈴に祝音は「よかった」と微笑んだ。子猫のようで可愛らしい彼女は悪事とは全く以て関連のない存在だ。
 夜妖ではあるが彼女自身は迷い猫のような娘である。そんな彼女が友人が出来て、それらを介して新しいことにチャレンジしようとするのだから祝音もばんざいと喜ばずにはいられまい。
「ええと……お芋掘り?」
「ええ! お芋掘りよ。りん、大きいのが食べたいわ。ほかほかに焼くと美味しいって聞いたの」
 芋掘りをするのは希望ヶ浜の中にある体験農場らしい。向かえば貸し出し品である程度の品が揃う為、手ぶらで構わないとも聞いている。
 制服では汚れると動きやすい格好をしてから祝音と待ち合わせた火鈴は心を躍らせていた。
「ねえ、祝音。お芋ってね、うんしょ、うんしょって引っ張るらしいわよ」
「うん。とっても力が必要かな? みゃー」
「みゃー、どうかしら」
 首を傾げてから火鈴は「それでもがんばらないと!」とやる気を漲らせた。曰く、ほかほかのお芋を焼いて二人で食べるのが楽しみなのだそうだ。
 祝音よりも年上である筈なのにもっと年下に見えてしまう子猫はウキウキした様子で「ほら、祝音、ここがお芋の畑よ!」と走って行く。
 長靴では余り上手く走れないだろうか。足を縺れさせながらもやっとのことで彼女はサツマイモのの元へと辿り着いた。
「これをね、ひっぱるのよ」
 実演する火鈴を手伝いながらうんしょ、どっこいしょ。芋をずるずると何とか掘り当てる二人は勢い余って泥を被った。
 ぱちりと顔を見合わせて笑い合う。楽しげな火鈴は「もうちょっと掘りましょうよ、お腹いっぱいにならなきゃ! 持って帰れるし!」とまたも芋に手を掛ける。
「火鈴さん、気をつけてね。みゃー」
「うん。うんしょ、うんっ――みゃーー!?」
 またも勢い余って後ろに転げてから火鈴は「お芋に負けたわ!」と明るく笑い始める。髪から泥をはたき落としてから祝音はくすくすと笑った。
「じゃあ、このお芋を焼いて貰おうか?」
「そうしましょう!」
 うきうきと籠に芋を数個入れてから歩き出す。淀みなく歩く火鈴は「祝音、こっちよ」と手を繋いでから満足げに頷いた。
 背丈は彼女の方が高いけれど、まるで妹のような彼女と過ごすのは心地良い時間だ。芋と手渡してから祝音は「楽しみだね」と火鈴へと微笑んだ。
「まだかな?」
「もうすぐだよ」
「まだかなあ」
「もうすぐ」
 二人でそわそわと待っているだけでも楽しい。火鈴は「どうやって食べる?」だとか「バターを付けると美味しいらしいのよ」だとか、そうした事ばかりを話して居る。
 バターを付けるのもクラスメイトから学んだらしい。そんな嬉しそうな彼女を見ていて「学校、楽しいね」と祝音は微笑んだ。
「ええ、ええ、学校はね、制服って言う皆と一緒のお洋服が着れるでしょう? だから、りんは夜妖だけど皆と一緒って思えて嬉しいの」
「うんうん。火鈴さんが嬉しいならよかった」
「えへへ、祝音が一緒に居てくれるからクラスの子とお友達になれたのよ。お芋を掘ったよってお写真を撮って皆に見せて上げよう?
 あ、おじさん、あのね、お写真を撮って欲しいの!」
 頬には泥が付いたまま。ほかほかと出来たての芋を差し出してくれた農園の男性にaPhoneを渡してから火鈴は「乾杯の写真なのよ!」と祝音の手をぐいぐいと引く。
 満面の笑みを浮かべる火鈴と、芋を片手に「あついあつい」と慌てる祝音が映し出されて――火鈴は本当に嬉しそうに微笑んだ。
「秋の実りは美味しいって言うものね。ね、ね、祝音! 次は何処に行こうかしら? わたし、一緒でとっても楽しいのよ」


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