PandoraPartyProject

SS詳細

果実は口内に広がり、兵士は休息を得る

登場人物一覧

フィーア・プレイアディ(p3p006980)
CS-AZ0410

 無機質な音が規則正しく刻まれる船内。窓から見える外は暗い色の空と星々、それから小惑星ぐらいで、宇宙を移動する者達にとっては何の変哲もない風景だ。
 この船はいわゆる宇宙船だが、旅行船というわけではない。
 輸送艦。それも、生産された兵士を各星に点在している前線基地へ送り込む役目を負っている。銀河戦争をしているこの宇宙ではごく当たり前の事だった。
 一般兵を表す記号「AZ」を冠するクローン兵士達。彼らを送り届ける為だけに、この輸送艦は動いている。
 この輸送艦を動かしているのもクローンであるが、兵士ではなく技術官僚が様々な技術を駆使して操作していた。衛生面でも頼りになる彼らは副官も兼任している。その他の役割はAIが搭載されているロボットや上級士官が担っている。
 フィーア・プレイアディ (p3p006980)は、大きな窓から外を見つめていた。支給された苺の箱から一つ摘まんでは口に運ぶ、という事を繰り返す。彼女もまた一般兵だが、輸送任務を命じられ、今回この輸送艦へ配属された。
 彼女の細身な体のラインに沿って展開されているボディスーツは一般的な物であり、日常で使われている代物だ。これを着ている事から、今は任務の合間の休息である事が伺える。
 口を開けてもう一つ。噛み砕けば、口内で弾ける果汁。少し酸味のある甘味が広がってくるのが、彼女は好きだった。ゆっくり噛みしめていると、後ろから声がかかった。
「それが気に入ったようで何よりだ」
 男性の声に振り向けば、そこにはこの船の艦長でもあり、上級士官でもある、彼女の上司が居た。
 クローン兵士と違い、生身の人間であるのは上級士官のみ。純粋なる人間は一般兵や技術官僚よりも上である。
 慌てて苺を飲み込み、直立不動の姿勢を取るが、彼は「楽にしていい」と告げる。
 男はフィーアの隣に立ち、彼女が見ていた景色を共に見る。
「今回の任務、君にとっては大変つまらないだろうな」
「いいえ、そんな事はありません。前線基地への輸送は大事な任務です。勝利を掴む為には必要不可欠な事と認識しています」
「なるほど。そう捉えてくれていたか。ありがたい事だ」
 ふっ……と、上官の口元が緩む。
 その横顔を盗み見ながら、フィーアは苺を一つ口へ運ぶ。
 実はこの苺、この上官より賜った物だ。高価で貴重な天然物の果実を彼女に与える等、およそ上官らしくない行動をするこの男を、フィーアは不思議に思ったものだ。今ではそれがこの男なのだとわかるようになってきたが。
 変わらず窓の外を見ながら、上官が尋ねる。
「君の部隊名は何だったかな」
「プレイアディです、上官」
「ああ、そうだった、そうだった。では、君はその部隊名の意味を知っているかね?」
 唐突な質問に、彼女はしばし逡巡した後、「いいえ」と首を横に振った。
 それを見て、上官は目を細めて笑う。馬鹿にした様子ではなく、見守るような微笑みだ。
「夜空にひときわ光り輝く、という意味だ」
 教えてもらった言葉を、フィーアは口の中で反芻する。何故そのようにつけたのか理由を問うが、「上が決めた事だからね」という返答だった。
「もっとも、君達がそのようになってくれれば我が帝国軍の希望にもなる。人は、希望なくしては生きていけないものだ」
「希望ですか……? ……尽力いたします」
 上官命令と取った彼女の返答に、男は今度は苦笑いを浮かべる。
 何故そんな顔をするのかわからないが、問いかける事はなんとなく憚られた。
 代わりに、フィーアは手元の箱を上司に差し出した。
「お一つ、いかがですか?」
「……では、いただこう」
 彼女の好意を受け取り、一つだけ口に運ぶ上官。
 それからしばらく、二人で外を眺めながら取り留めのない話をしていく。
 予定地までの時間はさほど長くない。
 戦争の地に着けば、この日常も終わる。
 束の間の休息に身を委ねる兵士の身を、苺は今も潤していくのだった。

  • 果実は口内に広がり、兵士は休息を得る完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別SS
  • 納品日2019年06月12日
  • ・フィーア・プレイアディ(p3p006980

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