PandoraPartyProject

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ひだまり、君と歩む

登場人物一覧

ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

「それじゃ、気をつけていってくるんだぞ」
 ドッグランでリードを外したベネディクトは落ち着き払った声音で相棒へと言った。
 ふんわりとした毛並みは太陽の光を精一杯に吸い込んだのかふんわりと膨れ上がる。小さな手脚を懸命に動かす様は落ち着いた主人とは対照的だった。
 軽やかな声音を弾ませて「はい!」と元気いっぱいに返事をしたのであろう小型犬はふすふすと鼻を鳴らしている。
「ポメ太郎と仲良くするのよ」
 こちらはしゃがみ犬と視線を合わせた万葉だった。ミルクティ色の髪を柔らかに揺らし、尖り耳を有する少女はぽってりと大きな体の面白山高原先輩に向き直る。
 がっしりとした体躯とぺちゃりと潰れた顔立ちの面白山高原先輩はドッグランを前にしてもそれ程騒ぎ立てることはない。
 任せてくれと言わんばかりに低く返答した面白山高原先輩はゆっくりと立ち上がった。のしのしと歩いて行く面白山高原先輩は先に待っていたポメ太郎と合流し鼻を突き合わせる。
 挨拶だ。飼い主が見守る中、二匹はドッグランを思い思いに駆け回った。今日はここで終わりでは無いのだから体力は大事にしろと声かける面白山高原先輩にポメ太郎は楽しげに尾を振り回す。
 そう、今日は飼い主達が犬の自由にさせてやろうと決めたのだ。涼しくなってきたのだからお散歩を思う存分に楽しむというのはポメ太郎たっての願いである。
「万葉はこれからどうする?」
「暫く帰って来なさそうだし、先輩には公園から出ちゃダメって言ってあるから見守らなくて大丈夫だと思う。
 あっちのカフェでコーヒーでも飲んでいましょうよ。ドッグランの外に出ても良いと入ってあるから団栗でも拾ってくるかも」
 朗らかに微笑んだ万葉に続いてから「気をつけるように」と再度言い付けたベネディクトはテラスのあるカフェへと入店したのであった。

 ――ここからは犬たちによる『犬会話』をお送りする事にしよう。
 若草の香りを腹一杯に吸い込んでから「涼しいですね!」とポメ太郎は尾を揺らす。ドッグランを駆け回ることは楽しいが、草を食んでみるのだって心地良い。
 飲み込んではいけないだとか、これは危険だと教えてくれる面白山高原先輩にポメ太郎は尾を揺らす。
 憧れの先輩と共に出掛ける機会に恵まれたことを喜ぶポメ太郎の尾は感情をよく表している。喜怒哀楽が分かり易く、朗らかなポメ太郎のことを面白山高原先輩も素晴らしい友人の一匹として認識していた。
「ポメ太郎。ご主人達が何処かに行ったようだ」
「先輩、ご主人様達がカフェに行きましたよ!」
「食事をするときには向こうに行こう」
「そうですね! さっき万葉さんがあのカフェは犬用メニューがあるって言ってましたよ」
 じゅるりと涎を垂らしたポメ太郎に面白山高原先輩は「あのカフェのメニューは美味しい」と同意した。
「後で行こうか」
「そうしましょう! 先輩はあのカフェは何がおすすめですか?」
 面白山高原先輩は足を止めてから鼻先をふんふんと鳴らした。万葉はあれで食道楽だ。犬と共に行けるカフェには度々足を運んでくれていた。
 その度に様々なメニューを体験させてくれているが――「オムライスだ」と面白山高原先輩は敢てそう口にした。その表情は何処か誇らしげで、ポメ太郎は「おむ……おむらいす……」と首を傾げる。
「スイーツじゃないんですね!」
「ああ。スイーツを食べるべきだとは思うが、オムライスが一番だった」
 面白山高原先輩は堂々と言った。ランチタイムに食べた犬用オムライスは非常に美味であったという。犬専用と言うだけあって、可愛らしく骨の形に成形されたオムライスは面白山高原先輩のお気に入りなのだ。
 柔らかな毛並みを風に揺らしいる面白山高原先輩はオムライスの味を思い出したように遠い空を眺める。腹がぎゅうと鳴ったのは気のせいではないから。
 華やかな香りの溢れるカフェテラスで様子を眺める主人を見付けてから面白山先輩がゆっくりと尻を持ち上げた。そのまんまるの体を動かした事に気付いてから彼よりも更にふんわりとした毛並みを持っていたポメ太郎が「先輩?」と首を傾げてみる。
 ふんわりとした毛並みが風に煽られて秋の気配を存分に孕んでいた。ふかふかとしたポメ太郎が転ばないように支えてから面白山高原先輩は「腹拵えに行こう」と歩き出す。しゃなり、しゃなりと脚を動かして進む面白山高原先輩に続くポメ太郎は期待したようすでぴょこりと跳ねた。
「先輩、何を食べますか?」
「ご主人は屹度デザートを用意してくれるだろう。何時もメニューを置いてくれるから前脚で叩くと伝わる」
「成程! 先輩が言うなら大丈夫ですね! わあ、何を食べようかなあ」
 嬉しそうな二匹が近付いてくることに気付いた主人達が顔を見合わせている。面白山高原先輩はポメ太郎と距離が開いてしまったことに気付いてから身を屈めた。
「乗ると良い」と告げてから身を丸めた面白山高原先輩の背にポメ太郎は短い手脚でよじ登る。その毛並みから感じるのは秋の朗らかな太陽の香りだ。秋に包み込まれたような気がしてポメ太郎は「あったかいですね」と声を掛けた。
「万葉がブラッシングしてくれている」
「わあ、ご主人様が先輩をブラッシングするからふかふかなんですね! ボクも皆さんにしてもらいます。けど、すぐにぺしょぺしょで」
「ポメ太郎は毛の量が多いから汚れてしまうと足元からぺしょぺしょになるのだろう」
「カットしたほうがいいですかねえ」
 二匹の何気ない日常会話を人間達は聞いていない――けれど、それは何事も無かったように伝わるだろう。艶やかなる朱に染まったドッグランを抜けてから、カフェテラスに辿り着いて二匹は並んで腰を下ろした。
 いらっしゃい、と万葉が嗤う声がしてから面白山高原先輩は「何か食べたい」と返事をした。勿論、「わん」と聞こえている。
「何にする?」と問われた後に。
 メニューをたしたしと前足でアピールをした面白山高原先輩のやりきった顔と言えば、ポメ太郎には輝いて見えた。先輩のアピール力は素晴らしいもの。
 ポメ太郎も真似するように前足でメニューを勢い良く叩いた。ベネディクトが小さく笑う吐息が聞こえる。
 しっかりと伝わったメニューがオーダーされる様子を眺めながら水をぺろりと舐めた。更に顔を埋めた面白山高原先輩のぺちゃりとした鼻先が水塗れになって居ることに気付いてポメ太郎は「びしょびしょですー」と声を上げる。
「ポメ太郎の毛も濡れている。犬生わんせいも大変な事が多い」
「そうですね。もう少し足が長ければなあ」
 尻を降ろして『おすわり』をするポメ太郎のどこか拗ねた言葉に面白山高原先輩は「嘴があれば水が飲みやすいのだろうか」と不思議そうに言った。
「どうでしょう? お水を飲みやすそうな動物を探しにお散歩に行きますか?」
「それも犬生には役に立ちそうだ。食事を終えたら主人達を連れていこう」
「はい!」
 勝手に予定を立てた訳ではなくて。きっと、何を話して何処に行きたいのかも主人達は察してくれる。
 これが犬と人間の絆なのだと面白山高原先輩はやけに清々しい表情で言い切った。
 動物との疎通能力に長けているわけではないだろう万葉でも面白山高原先輩のことならば何だって分かってくれると彼は言う。それが主人との絆――だなんて、格好良く言うものだからポメ太郎は「すごいすごい」ときゃんきゃんと声を上げるのだ。
 ぴょこぴょこと走り回るポメ太郎に「水が零れるぞ」と注意をする面白山高原先輩。ぴたりと足を止めてから嬉しそうに尾を振り回したポメ太郎は「先輩は色んな事を教えてくれますね!」と微笑んでいた。

「……ふふ」
「どうかしたのか?」
 ふとベネディクトはティーカップを手にしていた万葉を見た。楽しげに細められた若草色の眸は二匹の犬を見詰めている。
「なんだか凄くお話ししているようだから。先輩とポメ太郎は本当に仲が良いのね」
 わんわん、わんわん。そうやって互いに吼え合っていると言うよりも会話が成立しているような間合いで二匹の犬たちは声を掛け合って居る。
 食事が来るまでの間に耐えずそうしているのは人間と一緒だとつい面白くなってしまったのだ。
「確かに。この二匹は仲が良いようだから、沢山のことを話して居るのだろうな」
「ええ。また何処かに出掛けてあげてもいいのかもしれないわね。この二人の話題作りにでも」
 先輩先輩と尾を振りながら飛び付くポメ太郎を見るのも楽しいけれど、アレが美味しいコレが美味しいと、教え合うような二匹も新鮮で。
 暫くはそんな不思議な犬に引きを眺めて過ごそう。まだまだ今日は日が暮れるまで時間があるのだから。

  • ひだまり、君と歩む完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別SS
  • 納品日2023年11月19日
  • ・ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160

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