PandoraPartyProject

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お買い物に出かけよう。或いは、喜界湖・ショッピングモール…。

登場人物一覧

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ

●お買い物へ出かけよう
 ある秋の日の朝のこと。
「お買い物の行きたい……なのだわ?」
「はぁ……喜界湖・ショッピングモール。最近出来たばかりの大型ショッピングモールですね」
 華蓮・ナーサリー・瑞稀 (p3p004864)が手にしているのは1枚のチラシ。つい先ほど、朝食を終えたばかりのエリーとサンドリヨンが、少し恥ずかしそうに差し出して来たものだ。   
トール=アシェンプテル (p3p010816)はチラシを覗き込みながら、少しだけ思案する。
 喜界湖・ショッピングモールのことは知っている。錬達郊外に最近出来たばかりの大型ショッピングモールだ。
 喜界湖というこれまた割と最近出来たばかりの湖を囲むように幾つもの店舗が並んでおり、練達のみならず各国から様々な商品を仕入れ、販売している。もちろん、レンタルボートで湖に漕ぎ出すことも可能で、休日になればカップルや親子連れで施設は大層に賑わうらしい。
「エリーが遊びに行きたいって。逸れないように、ボクがちゃんとしてるから」
「わたしたち、もう子供じゃないのだわ。でも、勝手に出かけたら心配をかけちゃうと思って」
 期待と不安の入り混じる視線を華蓮とトールに向けながら、エリーとサンドリヨンはそう言った。よほどにモールへ遊びに出かけたいのだろう。2人は少しそわそわしている。
 感情を抑えきれない辺り、まだまだ子供だ。
 子供らしく、もっと素直に我儘を口にすればいいのに。
 そう思わずにはいられないが、しかし、悲しいかな2人はずっと我儘の1つも口に出来ないような環境に捕らわれていたのだ。であれば、こうして自分の要望を口にしてくれるだけでも、大きな進歩であると言えよう。
 2人はやっと、正しく当たり前の“子供”らしい日々を送り始めたばかりなのである。もっとも、その出自は変えられないし、これまでの“空白”と呼ぶにふさわしい、まったくもって意味のない日々が無くなるわけではないけれど。
「分かったのだわ。でも、暗くなる前に帰って来るのよ?」
「お弁当……はいらないでしょうが、飲み物と帽子とハンカチと……急いで準備しないとですね」
 華蓮とトールの言葉を聞いて、エリーとサンドリヨンは微笑んだ。
 安心したみたいに、嬉しそうに。
 そんな2人の笑顔を見るのが嬉しくて、同時に少し、悲しかった。

●世界はとてもキラキラしている
 喜界湖は人工的に形成された湖だ。
 練達のある科学者が、実験の結果、作り出してしまった大穴に雨水や湧き水が流れ込んだことで生まれた人工の湖。その周辺に実験施設を造るつもりが、何らかの政治的な力が働き、ショッピングモールと化したのがここ、喜界湖・ショッピングモールである。
「わぁ! 見てみなよ、エリー! 服も、食べ物も、玩具もある!」
「人もたくさんいるのだわ! どこもキラキラしているのだわ!」
 正面ゲートを潜った2人は、通路の真ん中に立ち尽くしたまま瞳をキラキラさせていた。
 歓声を抑えきれないでいる2人を、逸れないよう硬く手を繋いだ2人を見て、通行人たちは微笑んでいた。2人は自分たちがそんな風な目で視られていることにも気付かずに、案内板を見ながらどこへ行こうか話し合っている。
 洋服店に、飲食店、お菓子屋、玩具屋、最新の化学技術を体験できる特設展示場。どこに行こうか目移りするし、きっとどこに行っても楽しい。
 だが、最初に向かうべき場所は決まっているのだ。
「服を見に行こう!」
「服を見に行くのだわ!」
 チラシを最初に見た時から、服を見に行くことに決めていたのである。
 着替えは十分に足りている。
 今の2人は、衣食住の何にも不都合を感じていない。
 だが、それはそれとして羨ましかったのだ。自分で服を選んでみたかったのだ。
「でも、お金は足りるのだわ? 私、あまり自分でお買い物をしたことないのだわ」
「うっ……ボクもだ。お小遣いは貰って来たけど、足りるのかな? 服って結構、高いんだよな」
 自分の着ている服の襟を指で摘んで、サンドリヨンは眉をしかめた。どうせ買うなら、適当な服は欲しくない。何しろ初めて、2人は自分で自分の服を選ぶのだ。
 ちゃんと選んで、気に入った服を買いたいでは無いか。
「とりあえず、行こう!」
「えぇ、分からなかったら、店員さんに聞けばいいのだわ!」
 かくしてエリーとサンドリヨンは、初めてのお買い物に挑むことになったのである。

 ズコー。
 サンドリヨンがミルクティを飲んでいる。
 太めのストローの中を、黒い球が通過する。ぐにぐにとした甘いそれの名はタピオカ。甘さといい、食感といい、サンドリヨンの好みであった。
「これが……“タピる”って感覚か」
「こんなに美味しいものがあったとは知らなかったのだわ」
「さてはあの2人、ボクたちからジャンクな食べ物を遠ざけてたな」
 エリーやサンドリヨンは、この日までまったく気づいていなかった。華蓮やトールから与えられる食べ物は、例えば午後のおやつに至るまで全て、ちゃんとカロリーや栄養価まで計算されたものばかりであったことに。
「ねぇ、サンドリヨン。あっちのフラペチーノも飲んでみていいかしら?」
「生クリームの山だ……飲むって言うか、食べるって言うか」
「3段重ねのアイスクリームも食べたいのだわ」
「シフォンケーキも気になるよな。雲みたいにふわふわしてるって聞いた。それから、ボク、向こうの玩具も見てみたい」
「わたしはぬいぐるみが欲しいのだわ」
 オープンテラスでタピオカミルクティーを楽しみながら2人は、次に何を買おうか話し合っている。なお、今のところ服屋にまで辿り着いてはいない。
 子供にとって、ショッピングモールと言うのはまるで遊園地のようなものなのだ。どのお店もキラキラと輝いているように見えて、あれも気になる、これも気になると、何を見ても楽しいばかり。
 目的地があったとして、そこに辿り着くのがそもそも難しい。
 そう、子供ばかりの買い物とは、つまりは大冒険なのである。
「でも、我慢しないと駄目なのだわ。サンドリヨンに服を選んであげるって決めたんだもの」
「はっ! そうだった。エリーの服を選びに来たんだったっけ!」
 当初の目的はそうだった。すっかり忘れかけていたけれど。
 サンドリヨンとエリーは顔を見合わせて、手元のタピオカミルクティーへと視線を落とす。残り僅かとなったタピオカミルクティーを惜しむように見ながら、ひと口ずつ大切そうに飲み干した。
 買い物が終わって、それでもまだいくらか時間とお金が残っていたなら、最後にもう1杯だけ飲んで帰ろう。
 言葉にはしなかったけれど、2人の想いは一致していた。

 お互いの服を選び合う。
 今回、2人がショッピングモールを訪れた目的がそれだった。タピったり、玩具を見たり、ぬいぐるみを選んだり……正しくウィンドウショッピングを楽しんだ末に、2人はやっと子供服の売り場へと辿り着いていた。
 色とりどりの服が並ぶ。
 世界には、これほど沢山の服が存在したのかと2人は驚きを隠せない。
「このバッグ、白い羽根が付いてるのだわ! 華蓮ちゃんみたいなのだわ!」
 エリーが手に取ったのは、もこもことした白い翼の飾りがついたバッグであった。キャッチコピーは「翼を授ける」。華蓮の翼に比べれば、悲しいぐらいに小さな羽だが質感はかなり本物に近い。
「服、選びに来たんじゃないのか? あ、これなんてエリーに似合いそうだ」
 サンドリヨンが棚から引っ張り出したのは、フリル満載のドレスである。パステルピンクの上質な生地。これからの季節、寒くなるのを考慮してか少し厚手で、毛足が長い。
 サンドリヨンとエリーは知らないことではあるが、世間ではそれを“甘ロリ”と呼ぶ。
「サンドリヨンにはこれが似合うと思うのだわ」
 対して、エリーが選んだのは黒を基調としたサルエルパンツとシャツである。シャツの上から少しサイケデリックなカラーのパーカーを羽織るのがポイントだ。
 パーカーの背にプリントされた、パンダのイラストはブランドのマスコットキャラクターだろうか。
「少し派手じゃないか?」
「今の服とそんなに変わらないのだわ」
 お互いに選んだ服を勧め合う。
 言葉にすればたったのそれだけ。ともすると、子供が人形を着せ替えて遊んでいるだけのようにも思える些細な行為が、エリーとサンドリヨンにとっては新鮮だった。
 大人の管理下から解放され、自分たちの意思で服を選んで、買い物をする。ただそれだけの行為に2人はすっかり夢中になっていたし、店員たちも微笑ましそうに2人のやり取りを見守っていた。

 あっという間に数時間が過ぎていた。
 時間というものは、誰にだって平等に流れる……と、そのように思われがちだが、実のところはそうじゃない。
 楽しい時間というものはあっという間に過ぎ去るし、退屈だったり辛かったりする時間というのは存外に長く続くのだ。
 エリーやサンドリヨンはそれを知らなかった。研究所で過ごす時間は、とても退屈で、辛くて、長かったからだ。研究所から外に出て以降、あっという間に過ぎる時間の早さに驚いているのだ。
「もう帰らないとな」
 西の空が少し赤くなっている。
 もうしばらくすれば、すっかり日が暮れるだろう。華蓮とトールには「暗くなる前に帰って来なさい」と言われているのだ。あまりのんびりしている時間は無い。それどころか、急いで帰路に着かなくては、暗くなる前に帰れない。
「最後にこれだけ買って帰るのだわ」
 サンドリヨンの手を、エリーが掴んだ。
 エリーが差し出したのは、小さなペンダントである。ペンダントには屑ダイヤが2つ嵌められている。色はそれぞれ薄紅色と白金色。
「お土産なのだわ」
 トールと華蓮は喜んでくれるだろうか。
 2人の笑顔を思い浮かべて、サンドリヨンとエリーは笑った。

  • お買い物に出かけよう。或いは、喜界湖・ショッピングモール…。完了
  • GM名病み月
  • 種別SS
  • 納品日2023年10月29日
  • ・華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864
    ・トール=アシェンプテル(p3p010816

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