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とりっく・おあ・とりぃと!

登場人物一覧

焔心(p3n000304)
九皐会


 この世界では何故だか知らないが10月31日の夜から11月3日までの3日間、『なりたい姿になれる』。それは此処豊穣でも同じことで、海の向こうの古いお伽噺フェアリーテイルなんぞは知らないが、何故だかその3日間は姿が変わるのだ。
 気付けばそういうものであったのだから、『そういうもの』なのだ。春に花がたくさん咲くように、夏に木々が青葉で枝をたわわせるように、秋に木の葉が赤くなるように、冬に枯れた木の葉が落ちるように――その原理を知らなくとも、そうなのだからそういうものなのだと知っていた。
 ――『なりたい姿』。
 己の幼い頃は何を願ったか。覚えては居ない。
 幾つからか忘れたが、願うこともなくなった。
 たった3日。夢を見たところで現実は変わらず、見た分だけ夢と現実の格差に一層悪くなる。
 故になりたい姿など願わない。ここは掃き溜めで、鶴がいたところで天には届かない。
 『悪戯の度を超える悪さ日常茶飯事』で解けてしまうまやかしなんて興味がない。

 ――万聖節を知っているか。
 そう問うてきた『仲間ゴミ』が異世界の聖人の祭りなのだと言っていた。その前日がハロウィンと呼ばれ、この世界の『なりたい姿になれる日』なのだ、とか。異国では『ふぁんとむないと』とよばれているのだ、とか。
(或れに名はあったのか)
 それが最初の感想で、次に御大層なこったと思った。
 親無し名無しなんて当たり前のこの世界に、フェアリーテイルファントムナイトもあるのかと。随分とまァ、贅沢なことだなァおい。
 だがこの日が、俺たちに無関係な日な訳では無い。
 地獄の釜が溢れたみたいに浮かれた奴らが世に溢れ、刑部連中狗たちは忙しい。
 祭りがあり、騒ぎがあり――だからこそあぶれた俺たちにお鉢が回ってくるんだ。
 稼ぎ時であり、騒ぎ時であり、ぐずぐずと膿んだ泥みたいなモンの発散時だ。

「あァ、知ってるゼ? 『とりっく・おあ・とりぃと死か生か』って言うンだろォ?」

 選択させてやるだなんて、なんて優しいんだ。お偉いお大尽様のようだなァ!
 問うてきた屑にくつくつと笑いながら応えると、酒瓶をひっくり返して飲み干し立ち上がる。
 掴むは得物、望むは誰かの不幸。それでいい。
 不確かなものより、ずっと腹を満たしてくれる。

 さァ稼ぎどきだゼ、野郎ども。
 飢えきった心と腹を恐怖と絶叫甘いもので満たしに行こう。
 それが俺様たちの、秋の実りってモンだろォ?


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