PandoraPartyProject

SS詳細

四牙相食む

登場人物一覧

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
アルヴィ=ド=ラフスの関係者
→ イラスト
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
チェレンチィの関係者
→ イラスト

 結論から言えば、ローレットは『相反する依頼』を斡旋しない。
 これはローレットに所属するものなら必ず遵守すべき『ハイ・ルール』の存在からも明らかだが、片方の失敗が片方の成功であるような、そのような依頼をそもそもローレットは発布することはまずないわけである。ローレットの情報屋は優秀だ。それゆえに、情報の精査は完璧といってもいいほどであり、戦場での同士討ちなどは、まずありえない。
 さて、なぜそのようなことを記したのかといえば、今ここで起きている『同士討ち』は、ローレットの関与するところにはないということだ。ローレットが関与する『依頼』においては、『同士討ちがあり得ないことを保証している』ともいえる(それゆえに、ローレット・イレギュラーズは安心してその依頼に取り組める)わけだが、そうでない場合までを保証はしていない。
 つまり、私闘のようなものであったり、ローレットの関与しない、全く別の組織から私的な依頼を受けた……という場合を、ローレットは関与しない。『そこまで面倒見切れるか』と、口さがなく言えばこういうこととなる。
 この日、アルヴァ=ラドスラフは、義賊としての『私事』に取り組んでいた。目的は、とある盗賊団から金品を奪還することである。
 一方で、チェレンチィはとある筋から、家業の『暗殺』依頼を受けていた。これは、盗賊団の頭目の暗殺依頼である。
 冷静に考えればかち合うことのないはずの二人であり、同時に『戦う理由もない』わけだが、しかし二人は、ローレットから明確な情報的教を受けていたわけではない。二人は『お互いが、この盗賊団のアジトに潜入していることを知らない』のである。
 となれば、どうなるか。
 はっきりといえば、黒服で顔を隠し、こそこそとしているやつなど、情報がなければ敵だと判断するのが当然だろう。それが、お互いの印象であり、お互いの下した判断である。
 この時、先に仕掛けたのはチェレンチィである。
 暗殺者の経験と、勘が、その頭脳の『納得』より先に判断し、体を動かしていた。
 アルヴァの背後に迫るのは、一振りのナイフ。ミーロスチ。コンバットナイフは、その背後から間違いなく、確実に、『黒服』の首筋を狙っていた。
 一説によると――左首筋より垂直にナイフを人体に差し込む。その先には心臓が存在する。つまり、ナイフ戦における絶対致死攻撃である。
 チェレンチィはこれを狙っていた。いうだけなら簡単であるが、それを実現するには様々な要因が味方する必要があり、そしての要因を生かすための『実力』が必要である。
 チェレンチィは、この時すべてを持っていた。
 問題なのは、『黒服』が、アルヴァ=ラドスラフであったことだろう。
 視線を移せば、アルヴァがそれに気づいたのは、微妙な『風』の動きである。
 世界は空気に満ちている。水中で動くのに、水流を発生させない者はいない。であるならば、空気のプールに生きる我々は、動くだけで風の流れを発生させることになる。
 が。そのようなものを敏感に感じられるものはそうはいないだろう。相手の動きの風を読む。誰もが笑うだろう。無理だ、と。
 だが――今この場にいたものは、アルヴァである。航空猟兵を名乗るアルヴァは、その長年の経験から、そういったものに敏感であった。
 無論、偶然もあるだろう。勘の様な、不確定な要因も存在する。が、往々にして、戦場で命を拾うために必要なものは、そういった偶然や勘の様なものを引き寄せて扱えるものである。
 風を感じた。アルヴァは振り向くことなく、身をよじった。耳元に渦巻く、殺意の風から逃れるように。
 振り下ろされる。刃。ちっ、と、アルヴァの体をかすめていく。殺意。
 視線が交差した。
 アルヴァと、チェレンチィ。
『この状況下で、相手はこちらを確認した』
 そのように、お互いは判断した。
 攻撃された驚きもない。避けられたという驚愕もない。
 ただ、そのようにあった、と飲み込み、次の行動に移すだけの実力と度胸を、相手は持ち合わせている。
 そのように、お互いは認識した。
 平たく言えば『相手は相当の実力者である』と認識したわけである。
 アルヴァといえば、この状況下でがむしゃらに攻撃を仕掛けるほどに拙速ではなかった。距離を取る。わずかでいい。ナイフ使いは、接近していることに最大のアドバンテージを得る。多少距離を取るだけで、それを殺せる。無論、相手がその距離を一瞬で踏み込んでくるような奴の可能性もあるわけだが、こちらも『その程度は何ともできる』ほどの早撃ちの技能はもっていた。
「……賊じゃねぇな」
 アルヴァが声を上げる。確認。あるいは、時間稼ぎでもある。落ち着くまでの。
「動きが、ここのアホな賊のそれじゃねぇ。用心棒か?」
「貴方も」
 チェレンチィは応じる。
「同業者ですか?」
「そっちは暗殺者かなんかか?」
 尋ねる。答えはない。沈黙が肯定と受け取っていいだろう。
「殺されちゃ困る」
 アルヴァが言った。素早く頭の中を検索する。ローレットに依頼は出でていなかった。となると、市井の暗殺組織か何かの所属か。個人のそれという可能性もある。
「ローレットの所属かは知らんが、イレギュラーズだな?」
 そういうのへ、チェレンチィはうなづいた。
「そちらも」
「ああ」
 お互い、不必要な情報の提供は避けていた。もし彼らがもう少し考えがなくて、「やぁ、実は僕はローレットの所属なんだ! キミは!?」といったとしたら、この衝突も避けられただろうか――いや、ローレットの関与していない仕事である。となれば、あとは信念のままに衝突するだけか。
「どこから仕事を受けているかは知らんが、その仕事は”失敗“だ」
「いえ」
 チェレンチィはつぶやいた。
「失敗する、訳には……いかないんですよねぇ……!」
 たん、と、地を踏む音がする――同時、アルヴァは思った。『踏み込まれた』! この音の次の刹那には、眼前にチェレンチィが踏み込んでいるはずであった。頭で考えるよりも早く、アルヴァは行動していた。手にしていた狙撃銃を、横腹を見せて押し出した。装丁の金具が、ランプの光を反射して、鈍く輝いた。
 しぃん、と――。
 音が響いた。
 それが、金属と金属のぶつかり合う音であり、片やナイフが鋭く、そしてその持ち主の技量が高いが故に発生する音である、と即座に気づいたのは、この場にいた『4人』――。
「ちっ」
 と、アルヴァは舌打ち一つ、狙撃銃をさらに強く押し出した。シールドバッシュならぬ、ライフルバッシュとでもいうべきか。力という点に関してみれば、アルヴァはチェレンチィのそれを上回っていただろう。ゆえに、チェレンチィは抗することなく、引いた。それでも、一足。再び踏み込めば、また喉元を狙える距離。
 まるで棒術のように、アルヴァはライフルをふるった。銃撃はできない。銃声が鳴れば賊どもが気付く。それは避けなければならない。となれば、近接格闘だけしか、手は残されていなかった。とはいえ、それはそれで、望むところである。近接距離、大いに結構。こちらの距離だ。
「す――」
 呼気である。静寂に響く、鋭い、呼気。アルヴァはそれともに、一足、踏み込んだ。棒術のようにライフルをふるう。狭い場所でも、長物を振り回すための武技。
 振り下ろす、銃床。弾を吐き出せずとも、銃はその身のみで凶器となりえるのだ。上段から振るわれたそれは、充分な距離を伴う素振りを必要とせずとも鋭く、直撃しただけで相手の意識を刈り取るに充分である。
 チェレンチィは、上体をそらすことでそれを回避した。相手が距離を詰めた。この距離を放してやる理由はない。ばね仕掛けのように上体を戻すと、その勢いのまま、ナイフをふるった。刃は返してある。峰うちの形。そのまま、首筋を狙う。
 ここにきて、賊の関係者でないならば殺すつもりはなかった。それは、アルヴァも同様である。が、殺すつもりでなければ、相手に一撃を与えられないことも事実であった。わずかに速度の鈍ったナイフは、アルヴァの狙撃銃の銃身で受け止められた。再び、甲高い金属音。
 今度はアルヴァが、再び銃をふるう番だった。そのまま、後方へと跳躍する。チェレンチィもまた、後方へと飛んだ。双方の意図が一致した。ひとまず、距離を取り一息。
 そのわずかの呼吸で、脳裏にいくつかの考えがまとまっていた。
 例えば、『相手は、こちらと同じタイプである』。これは、回避、そして速度を重視する二人の戦い方が、その獲物は別としても同一に近いという意味合いであり、数合の打ち合いにて、二人が察した事実であった。
 となると、厄介である。同じ戦い方をするということは、すなわち『同じ思考もする』ということである。例えば、先ほどの打ち合いは、見て、考えて、反応、というプロセスを経たものであったか? 否、見て、反応したのである。なぜならそれは、『自分なら、こう動く』という、完成された戦術に組み込まれたものと同一であったがゆえに、考える、という行動を挟むよちなく反応できたのだ!
 つまり、相手がやろうとしていることは自分もわかり、自分がやろうとしていることは相手もわかるということである。決め手に欠ける。まったくの偶然か、不意の撃でもなければ、この千日手ともいえる状況を打破できまい! もしもこれが、仕事中でないのならば、お互い付き合ってやってもよかっただろう。千日手であろうとも、必ずどこかでどちらかが息切れをする。その根性勝負ともいえる泥臭い打ち合いに興じるのも、それはそれでよかったといえるだろう。
 だが、これは仕事であり、私事の最中である。つまり、この相手と打ち合うことは、目的ではないのである。大いなる目的が、ほかにあり、加えて面倒なことには、この相手を倒すことは、その目的に何ら寄与しないというところであった。
 まるで、まったく本当に、道を歩いていたら虎が出たようなものである。不運であった。さらに厄介なことに、目的の達成に何ら寄与しない倒すべき相手は、倒さなければ目的を達するための道に戻ることもできず、加えて同じものを見ながら相反する目的を達成しようとしているのだ。
 厄介で、かかわりたくはないが、倒さなければならない相手であった。双方、胸中には盛大にため息をつきたいところだった。相手が弱ければ、よかった。が、相手は達人級の怪物であった。
 す、とお互い、息を吸った。この次の合で、何らかの決着をもたらさなければならなかった。殺す、のは避けたい。相手は悪人ではないし、おそらくはイレギュラーズである。ローレットに属しているかどうかはわからないが、同じ可能性を持つものを無意味に消すのは避けたい。
 となれば、最善で気絶を狙う。そうでなくても、例えば相手の腕でも切り付けてやって、戦闘の続行を困難にさせるしかなかった。とにかく、相手をあきらめさせて、この場から撤退させるほかに道はないのだ。
 は、と息を吐き出す。同時に、踏み出す――その、刹那の前に!
「だめ、ね」
 と、声が上がった。
 女の声であった。
 そのまま、ごろり、と何かが二人の眼前に転がった。

 男の頭である。
 
 それが標的であった盗賊団の狩猟の生首だと察した瞬間、アルヴァとチェレンチィは、同時に、身構えた。
「魔」
「種」
 つぶやく――頭を殴りつけられるの様な、堕落への誘惑。それは間違いなく、原罪の呼び声に間違いない!
「だめよ。もうっと、思い切りよくなきゃ。ほら、あなたたちが遊んでいる間に、私、代わりにお使い済ませてあげたわ?」
「大したたくわえもないようだな」
 女――そしてもう一人、男。貴金属などを、面倒くさそうに放り投げた。アルヴァの、目的。
「この程度の小銭を相手に喧嘩をしていたというのならば――なんとも、児戯めいたものだ」
「ボス」
 チェレンチィが、男の顔をみて、唸った。
「行方不明だったはずの。なぜ、ここに」
「なぜと言われれば」
 ゆっくりと、笑った。
「迎えに来た。チェレンチィ」
「迎えに?」
 チェレンチィが言う。アルヴァが視線を向けた。「知り合いか?」と。「そうです」と、視線でうなづいて返す。
「そっちの女は」
 アルヴァが言うのへ、女――ルナリアが笑う。
「ふふ、反抗期かしら――いい目よ。ぞくぞくしちゃう」
「くそ、頭がいかれてるってことはわかった」
 わずかに――感じた、なにか懐かしい気持ち。それをかき消すように、アルヴァは言った。
「名前は」
 アルヴァがチェレンチィに尋ねる。
「俺は、アルヴァだ。アルヴァ=ラドスラフ」
「チェレンチィです」
 そう、チェレンチィが言う。
「くそ、ローレットのチェレンチィか! 最初に名前を聞いておくんだった」
「ボクもです。ローレットのアルヴァ……まぁ、こんなところで遭遇するとは思わないですよね……」
 こほんと、咳払い一つ。
「お前なら、考えてることも一緒のはずだ。もう俺たちの要は済んだ。成功して、失敗した。
 ここからは――もうこの場所に用はねぇ」
「わかっています」
 チェレンチィがうなづいた。目の前の魔種、この二人は間違いなく、強かった。そうでなくても、魔種二人を相手に、さらに一対一での戦闘を望むのは困難だ。となれば、ここは一時手を組む、というのがお互いの一致した考えだった。
「とはいえ、二対二、で勝てるとも思えない」
 アルヴァの言葉に、チェレンチィがうなづく。魔種とは、ローレット・イレギュラーズがパーティを組んでようやく相対できるほどの実力者だ。それが、二体。加えてこちらは二名なのだから、戦力が足りないにもほどがある。
 同時に――チェレンチィは、ボス、と呼んだ男を知っている。そして、その戦闘能力をいやというほど知っていもいた。
「男はガルボイ・ルイバローフ。暗殺一座のボスです。
 とても……強かった」
「こっちの女は知らんが」
 アルヴァが言う。右手のやけど跡を見ると、胸が締め付けられるような思いと、ひどい頭痛がした。
「嫌な予感がする……まっとうじゃない」
「いやね、そんなこと言うなんて」
 女――ルナリアが言う。
「それで……答えは?」
 ルナリアがそういうのへ、アルヴァは吐き捨てるように言った。
「迎えに来たってやつか? 空っぽのお手手を抱いて帰りな」
「ボス。ボクは」
 チェレンチィが、苦しげに言った。
「ボクは……今のあなたの元に戻るつもりはありません……」
「そうか」
 ガルボイが、わずかに目を細めた。
「残念だが……なに、これからも話す時間はある」
 ゆっくりと、剣を引き抜く。
 冷たい緊張感が、あたりを支配した。
「殺すなよ」
「ええ、もちろん」
 ガルボイの言葉に、ルナリアが答えた。ゆっくりと、ルナリアがナイフを引き出す。
 たたん、と大地を踏み出す。音。それを超えて、迫る。二つの、魔。
 ひゅう、と、鋭いナイフが、回転するように、アルヴァを狙った。ルナリアの、それだ。ナイフが、アルヴァの腕を斬りつける。激痛。おそらくは、魔呪の込められた暗殺刃。
「ちっ……!」
 舌打ち一つ。アルヴァは殺すつもりでルナリアを蹴りつけた。ルナリアは、しかしその細腕一つで、アルヴァの斬撃の様な蹴撃を受け止めて見せた。
「だろうな……!」
 アルヴァが叫ぶ。同時、ガルボイの剣を、チェレンチィはナイフで受け流していた。そのまま。一撃を加える――わずかに、遅い。
「遅いな。躊躇したか?」
 ガルボイが、目を細めて笑った。うれしい、とでもいうように。
「それでは、受け止めてくれと言っているようなものだ」
 そういって、ガルボイは剣をふるい、そのナイフを振り払った。チェレンチィの腕が浮く。痛みをこらえながら、チェレンチィはそのままの勢いで体をひねった。
「そう、ですが……!」
 今度は躊躇しなかった。チェレンチィは使い捨ての投げナイフをガルボイの眼前に投げつけた。当然ながら、ガルボイはそれを受け止める。生まれた一瞬の隙。
「走るぞ!」
 アルヴァが叫んだ。同時に、狙撃銃のトリガを引いた。地面に向けて。一発だけ込められていたその銃弾は、激しい閃光を放つ、特殊弾だ。一瞬の閃光は魔術の光であり、たとえ魔のものであっても、わずかの隙を作る。その一瞬の隙でよい。アルヴァ、チェレンチィは、その作り上げた一瞬の隙を、すべて闘争に割いた。今は、倒せない。ならば、ひとまず、退くしかあるまい。アルヴァとチェレンチィは、まったく同じことを考えて、同じ目的を取った。そうして、その一瞬の隙を使って、二人は瞬く間に姿を消していた。
「あら」
 空っぽの空間を見ながら、ルナリアは笑う。
「何点あげる?」
「70点だな」
 ガルボイが、うっそりとうなづいた。
「そうね。私たちが、本気だったら――きっと逃げられなかったわ、あの子」
 そういって、ルナリアは、うっとりとした様子で、右手のやけど跡にほほを当てた。
「でも、よくやったわ。愛しい子」
 濁った泥のような瞳でそう告げる吐き気を催す慈母。その言葉と、やけど跡に、ガルボイは目を細めた。
 自分は、娘に何もしてやれなかった。今は、どうだろうか。これからは……。
 未来を閉ざす魔の存在でありながら、未来を見るのは、すなわち彼が狂っているからか。二人の狂気は、しかし今は夜闇に沈みゆくままに、アルヴァとチェレンチィの前から消えていた。

「とにかく」
 と、アルヴァが叫ぶ。
「安全地帯まで走る。後ろは振り向くな。何も考えるな。とにかく、走れ」
「ええ」
 チェレンチィがうなづく。長距離を走って、いまだ息切れを起こしていないのはさすがというべきか。深夜に始まった戦いは、まるで長い間のことのようだったが、月がさほど動いていないのを見るに、短時間のことだったようだった。
 それにしても、濃密に過ぎる時間だった。同士討ちから、不意を突いた魔の強襲。
「逃げるあてはあるか?」
 アルヴァが言うのへ、チェレンチィがかぶりを振った。
「いいえ、このあたりにセーフハウスは」
「なら、俺たちのホームがある。航空猟兵の、だ。
 ひとまずそこに逃げ込もう」
「いいのですか?」
「ローレット・イレギュラーズだろう。だったら問題ない」
 まったく、先ほどまでいかに除くかを考えていた相手と、今は必死に逃げる算段を付けているのである。奇妙な時間だ。
「彼らは」
 チェレンチィが言った。
「ボクたちを狙っていました。二人を……」
「お互い妙な奴らに手を組まれたらしいな……」
 アルヴァがそういって、うなづいた。
「協力しないか」
「協力?」
「ああ、そうだ。航空猟兵のチーム……在籍しろとは言わないが、手を貸してほしい。
 いずれ、あいつらとぶつかる可能性はある。お前も、一人であれと相手をするのはしんどいはずだ。
 俺たちも……お前のところのボスまで相手にするのはしんどい」
「なるほど」
 と、チェレンチィがうなづく。
「……そうですね。考えておきます。前向きに。
 でも、今は」
「そうだったな、考えるな、って言ったのは俺だったか……とにかく、今は生存を考えよう。
 走れ走れ、だ」
 その言葉に、チェレンチィはうなづいた。
 月光は輝いていても、彼らの道行きを照らすほどの光はなかった。
 夜闇の中は真っ暗で、すぐに後ろから、先ほどの魔種が迫ってくるような錯覚も覚えた。
 これからも、この暗闇を走り抜けないといけないのだろう。
 とはいえ、今は一人ではない。今は二人で、生き残れば、ホームには多くの仲間がいる。
 彼らとならば、魔とも対等以上に渡り合えるはずだ。
 今は希望を抱きつつ、闇を駆け抜ける。
 いずれの再開に備えての、今は生き延びるべきだった。

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