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同じ景色を
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「そうだ。僕が行った山はとても綺麗でしたよ」
蒸した栗を半分に切りながら、ジョシュアは山の様子を思い浮かべる。夏の瑞々しい色から、鮮やかな赤や黄色に移り変わっていたこと。木の葉の隙間から青く眩しい光が散っていたこと。自分が見た風景を一つひとつ言葉にすると、リコリスは綺麗な場所ね、と微笑んでくれた。ジョシュアは胡桃を炒る彼女の手を見つめて、「本当に、素敵な場所でした」と呟く。
食べる準備をしている山の実りは、ジョシュアが山の幸を収穫する仕事をしてきたときに拾ったものだ。リコリスが好きだと良いと思って、ハロウィンパーティーの打ち合わせのお土産にした。
料理やお菓子に使ってもらうつもりでいたのだが、折角だから少し食べようというリコリスの提案で、ちょっとしたおやつを用意している。
胡桃を炒っている間に殻には割れ目ができていた。ナイフを割れ目に差し込んで開けると実が出てくるから、あとは丁寧に取り出せば食べられる。二人で笑い合いながら中身を取り出して、紅茶と共に席についた。カネルが膝に飛び乗ってくる。
胡桃は柔らかくて、栗はほくほくしていて美味しかった。こうして同じものを食べていると、同じ景色を言葉でない形で伝えられるようで、嬉しかった。
「雷避けのおまじない、出来たから渡すわね」
山の幸を食べ終わった頃、リコリスは机の下に隠していた袋を取り出した。袋は黒猫が色々なポーズをとっている様子の描かれた布で出来ていて、木の実の形に合わせて膨らんでいる。
「可愛いですね」
「カネルみたいでしょ」
リコリスが朗らかに笑い、ジョシュアは頷いた。猫柄が良いと伝えるのは恥ずかしかったけれど、カネルのことを思い浮かべたら、猫の誘惑に勝てなくなってしまったのだ。手作りの袋だと尚更温かみがあって、穏やかな気持ちになる。
「どうしても雷が苦手なので、助かります。ありがとうございます」
雷の音は不安を煽ってくる。大きい音が響くだけでも怖いのに、昔集落のあった森の木に落ちて火事になりかけたことがあるから、雷の音が聞こえると余計に不安になる。リコリスは混沌世界でも効果があるかは分からないとは言っていたけれど、彼女が作ってくれた雷避けのおまじないがあるだけで、不安は軽くなった。
パーティーの買い出しの計画を立てながら、猫柄の袋を撫でる。次に雷の夜が来ても、安心して眠れるような気がした。
- 同じ景色を完了
- NM名花籠しずく
- 種別SS
- 納品日2023年10月19日
- テーマ『『Autumn Sunday』』
・ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
※ おまけSS『おまじない』付き
おまけSS『おまじない』
雷避けのおまじないは、この袋のまま外に置くかぶら下げておくかすれば良いとのことだった。中にどんなものが入っているのかと尋ねると、リコリスは袋の口を縛っていた紐をほどいて、中を見せてくれた。
どんぐりや胡桃など、ジョシュアがよく知る木の実の他に、見たことのない木の実が入っている。様々な形のそれはこの森で採れたものらしく、改めて森の豊かさに気が付く。
「まぶしてある魔法薬なんだけれど」
暖色の明かりをリコリスが近づけると、木の実が淡く輝いた。桃色にも近い白の輝きに、思わず息が零れる。そんなジョシュアの様子にリコリスは微笑んで、窓際に来るように手招きした。
「太陽の光を当てるとね」
桃色の光が、徐々に変わっていく。最初は透明になったように見えたが、徐々に色を付けはじめ、やがて落ち着いた緑色の煌めきとなった。
「すごい」
大切にします。真っすぐに伝えた言葉に、リコリスは笑ってくれた。