PandoraPartyProject

SS詳細

紅葉と微睡み

ふも夫婦のツーショット~ハイキング~

登場人物一覧

フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇

 夏の山は瑞々しい緑でいっぱいだったが、秋が深くなるにつれて赤や黄色といった鮮やかな色に変えられていく。見上げれば紅葉の隙間から青い空が覗き、視線を下げれば木の葉の絨毯が広がっている。一歩踏み出す度にふかふかと靴を迎え入れるそれの上を、スキップするようにして望乃は進んでいく。

「綺麗ですね、フーガ」

 くるくると回りながら振り返る望乃に、フーガはにこりと笑って頷いた。鮮やかな色の山に、望乃の赤薔薇がよく映えている。紅葉も綺麗だけど、望乃のほうがずっと綺麗だと思う。
 フーガは混沌の世界で秋を過ごすのは二度目だ。望乃と秋の森でデートできるのが嬉しくて、足取りが軽くなる。

 他愛ない話をしていると、少し開けた場所に着いた。辺りが紅葉で覆われたそこは、赤色の宝石が木々に飾られているような煌めきがあった。望乃は改めて周囲をよく見て、それからほうと息を吐いた。大事に持っていたお弁当入りのバッグを抱えなおす。
 子どもの頃はお弁当を作っても、望乃は留守番ばかりだった。だからこうしてフーガと紅葉狩りデートが出来るくらいに身体が丈夫になれてよかったと、心の底から思う。

「望乃」

 望乃が考えていたことが伝わったのか、フーガがほんの少し目を伏せた。それに望乃はふわりと笑い返す。今が幸せだから、それで良いのだと伝わるように。

「そういえばフーガ、何かとっておきを持ってきているみたいでしたけれど」
「ああ、これのことかな」

 フーガが鞄から取り出したのはトイカメラ。秋の世界を思い切り楽しみたくて持ってきたものだ。二人が映るようにカメラを構えるフーガに、望乃はちょっぴり顔を赤くする。

「ツーショット、ですか」
「ほら望乃、笑顔笑顔」

 一つの画面に収まろうと悪戦苦闘している間に、自然と距離が近くなる。気が付いたらフーガとぴったりくっついていて、望乃の頬は尚更熱くなってしまった。もしかしたら紅葉と同じ色に染まっているかもしれないけれど、好きな人の側にいられることは、嬉しい。

 シャッターを何回か切って、あとは現像してからのお楽しみ。楽しみを鞄に仕舞いこむフーガを見ていると、望乃の頭の中で明るいものが弾けた。

「ふふ、折角ですから、少しだけ遊びませんか?」

 外で出来る遊びだと、かくれんぼになるだろうか。そうフーガに伝えると、フーガも楽しそうに笑った。
 最初に鬼になったのはフーガだった。望乃はどこに隠れようか迷って、大きな木の影に隠れる。見つけにくい場所を選んだはずなのに、案外見つかるのは早かった。

「つかまえた」

 後ろからそっと抱きしめられて、小さな悲鳴が零れた。フーガは驚かせてごめんと笑っていて、望乃は頬を膨らませながら彼に寄り掛かった。こうなったら望乃が鬼の時に、後ろから捕獲するのだ。むぎゅっと。

「あ、こんなところにリスが」

 意気込んだはいいものの、捕まえるよりも早くフーガに気が付かれてしまう。望乃がリスの姿を探している間にフーガの腕が伸びていて、再び彼の腕の中にすっぽり収まってしまったのだった。


「綺麗な場所ですし、この辺りでお昼にしませんか?」
「そうだな。じゃあ、ここにしようか」

 たくさん歩いて遊び疲れた頃に、レジャーシートを広げる。用意してきたお弁当を開けると、秋の景色を閉じ込めた箱庭が現れた。肉おにぎりに柿のサラダ、肉のパイナップル漬け、さつま芋と鶏肉のグラタン。爽やかな香りと香ばしい匂いが鼻に届いて、フーガのお腹がくぅと鳴る。目を輝かせてお弁当を見るフーガを愛おしく思いながら、望乃は手を合わせた。

「ふふ、それじゃあ、いただきます」
「いただきます」

 フーガの握ったおにぎりは、望乃が握るものより大きい。愛情を籠めて握ってくれているのを望乃は知っているから、食べ応えがあって、気持ちも満たされる。

「望乃の手料理はやっぱり美味しいな」

 肉のパイナップル漬けを頬張りながら、フーガが呟く。肉は柔らかく、パイナップルの酸味と甘みが染みこんでいて、美味しい。
 料理は愛情というけれど、その通りだと思う。愛情が籠っているから、これほど美味しいに違いないのだから。


 大事に食べていたはずのお弁当はすぐになくなってしまった。シートの上でのんびりとお喋りをしていると、落ち葉の山がフーガの目に入る。思い立って紅葉のベッドに飛び込んで、望乃も一緒に転がろうと誘った。

「ここでシエスタしてみようぜ」

 横に並んだ望乃に、フーガは腕を差し出す。一瞬きょとんとした望乃だったが、腕枕の意味だと気が付いて、頬を真っ赤にしながらフーガに寄り添った。その様子が可愛らしくて、フーガは小さな身体をぎゅっと抱きしめた。

 木漏れ日が差し込む場所。紅葉のベッドはふかふかしているだけじゃなくて、温かい。秋色の優しさと愛おしいひとの温もりに包まれて、二人の瞼は重くなる。

 世界で明るくて穏やかな秋の日曜日。これからもまた、訪れますように。

おまけSS『写真』

 紅葉狩りに行ったときの写真が出来上がった。あの時持っていたカメラは自分たちの姿を確認しながら写真を撮ることができないものだったから、どんな風に自分たちが映っているのかは、封筒を開けるまでは分からない。

「では、開けますよ」

 ちゃんと映っているだろうか。映っていたとしても、自分の顔は真っ赤になっているはずだから、見せられるものか分からない。そう望乃はどきどきしながら封を切る。好きな人に見せる自分の姿は、いつでも綺麗でありたい乙女心である。

 封を開けると、たくさんの写真が溢れてくる。フーガは緊張しながらそのうち一枚を手に取った。シャッターを切ったのはフーガだ。うまく撮れていて欲しい。

「あ、ほとんど空だ」

 一応二人の姿は収まっているが、空を映すような写真ができあがっていた。苦笑しながらフーガは二枚目三枚目と見ていくも、なかなか綺麗に映っているのは見つけられない。

「フーガ、これ、綺麗に撮れていますよ」

 望乃が手に取った一枚を、フーガも覗き込む。そこには顔を真っ赤にした望乃が、フーガにそっと寄り添うような恰好で映っている一枚があった。フーガもよく笑えている。これは、よく撮れている一枚だ。

「部屋に飾ろうか」

 フーガの一言に、望乃は頷く。他の写真も思い出にして、綺麗な一枚を写真立ての中へ。
 幸せを切り取った瞬間を何度でも確かめられるこれは、二人にとっての宝物になった。


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