PandoraPartyProject

SS詳細

Rainbow cordial

登場人物一覧

武器商人(p3p001107)
闇之雲
斉賀・京司(p3p004491)
雪花蝶
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
アカネ(p3p010962)
ゆめのひとかけら

 ここ数十年で最も——と初物ワインのキャッチコピーじみた記録的猛暑。それが蝉の声すら忘れる程に続けば人々の避難先としても活躍するのが大型ショッピングモールだ。行楽向け特設コーナーは特に、長期休暇を満喫せんとする友人同士や家族連れで大いに賑わう。
「みんなでおでかけ! たのしいね!」
「そうだねェ」
 先頭にご機嫌な少女と性別不詳の青年、後ろに並んだ男性ふたり。もしこの内訳が『養女(実年齢不明)・パパ×2(ラブラブ)・パパ達の所有者(祖父母枠)』であると即座に見抜ける者がいたなら鋭い洞察力に拍手を送りたい。そんな少しだけ不思議な形をした家族の、最高のレジャーが始まった。

 事の発端は鵜来巣 冥夜が仕事中に耳にしたお客様の一言だ。
「夏休みだし、海で家族サービスをしなくちゃいけないのがねぇ」
 瞬間、衝撃が駆け抜けた。『なんと、世のお父さんはそんな事をしていたのか……!』と。そこからは彼のホストクラブ店長としての調整能力が遺憾無く発揮され、行き先と日程の確保まで稲妻の如し。
 実際のところ、件の発言は愚痴として吐き出されたもので必然性はなく、一番大事なのは家族愛の有無。そして、売り場に並ぶ数々の水着にも負けじと披露される仲睦まじさを見ればそれは疑いようもなかった。
「縁起もいいし、金魚柄とかどう?」
「京ちゃんプロデュースなら間違いない」
 シンプルな水着が多いメンズ。現に黒地が2着入れられた買い物カゴを手に、冥夜パパ斉賀・京司パパが試着しているのは紺色のハワイアンシャツだ。実用性で選びつつ、ほんの少しの遊び心。赤と黒の金魚達が水紋と泳ぐ涼しげな羽織ものは良いアクセントになるだろう。ペアルックとなれば恋人らしさも増し増しだ。
 それからいくつかの会話を終えたふたりは別れ、冥夜の方は鮮やかなビキニの波間を進んでいく。
「店主のお眼鏡に適う品はありましたか」
「おや、もう済んだのかい? セパード」
 目当ての青年、武器商人の銀色の陰からひょこりと赤頭巾が顔を出す。
「めーやくんだけ? せんせぇは?」
「ええ。違うコーナーを見に行くと、いったん別行動に。あかねはどんな水着にするんだい」
 呼ばれた少女は小さく唸る。「きれればなんでもいいよ?」とは言うものの種類が豊富すぎるのが仇となったか、まだ決めかねている様子に冥夜は眼鏡の奥で微笑んだ。
「悩むだけの時間はたっぷりありますし、焦らず皆で探しましょうか」
「あい!」
 彼女の素敵な夏のためなら力を惜しまない。頷き合う保護者ふたりの背後に、もうひとりのパパが立った。1着の水着と波乱の予感を携えて——

「——まさか、トキが娘の水着にまで実用性を推してくるとはねェ」
 青い景色のなか、鳴り止まないシャッター音をBGMに愉快そうに回想を締める武器商人。時折自分へも向けられるレンズには的確なポージングで応えている。
 風に舞うワンピース型の水着は淡いブルーのグラデーション。白い日傘の薔薇飾りを桜桃に見立てればクリームソーダのよう。ショートパンツから伸びた御御足は眩しいが、縁のレース使いと長手袋などのアイテムは上品だ。性別がここまで無意味になることがあろうか。
 視線の先で駆け回るアカネはベリーソーダを模した色やデザインが少し異なる水着。スリットは前面ではなく左右に。代わりに丈は膝上で、中に合わせたスパッツ型のボトムと合わせて動きやすい。ウエハースのような編み上げサンダルもヒールが無い。赤いフード付きのポンチョタオルで肌の露出は控え、苺の髪留めも含めて上半身でふわっとした可愛らしさを出し、足元はシンプルに実用性も加味された武器商人のコーディネートだった。
「……そろそろ忘れて欲しいんだけれど」
 不満であれ、羞恥であれ、透明な雨合羽では隠せない。そもそも武器商人と冥夜から向けられた( ‘ᾥ’ )顔が忘れられそうにないのは京司の方なのだ。
「なァに、準備から賑やかにやれたと思い出のひとつにするくらいが丁度イイのさ」
 『家族団欒を楽しんでおいで』と送り出すべく振った手を引かれ、同行していなければ。アカネ本人が『しょーにんさんのがいちばんかわいい! かわいいのにする!』と指差さなければ。今頃は少女らしさも飾り気も無いセパレートタイプでの出陣になっていたかもしれないのだから、思わぬところで生命線ストッパーとなった武器商人だった。

 ビーチで弾ける。跳ねる。奔る——
「行きました! それが最後の大玉です!」
 無数の金色と舞い、赤い飛沫の中で叫ぶ冥夜の横を球体が転がり抜けていく。緑に黒の縞々——紛れもなくスイカである。異様に巨大であること以外は。
アタシを素通りできるとでも?」
 炭酸水の甘い声。パンッと打ち鳴らされた拍子は目隠し鬼を誘い、大型トラック級のそれは砂を巻き上げて急カーブした。人を轢き殺さんばかりの勢いで迫るがその動きはあまりにも直線的に過ぎた。京司の指から延びた緑の魔力が茨となり、狙い過たずその進撃を止めたならもうまな板の上のスイカでしかない。
「あかね、トドメをお願い」
「まかせて! スイカのお化けさん、つぎはおいしくたべてもらえたらいいね!」
 華奢な腕が番えた矢を放てば、巨体は見事な破裂音と共に真っ二つに割れた。泡と消える人魚姫のように霞んでいくスイカの顔(?)が、アカネにはどことなく満足げに見えた。大玉が引き連れていた大量の小玉群も全て跡形なく消滅したのを確認し、通話を終えた冥夜がaphoneを仕舞う。
「お疲れ様でした。冷やしておいたスイカがありますから休憩しましょう」
「最後は食べて供養ってワケだねェ」
 割るだけ割って捨てられ続けたスイカの怨念が凝り固まった魔物達に占拠された、海洋のとあるプライベートビーチ。バカンス先を探す冥夜が地主と交渉し、討伐完了後の貸切を取り付けた、というのが今回の依頼の全容だった。アカネが先日見せた奮闘ぶりにいたく感動したため、あえて選んだ。そんな親馬鹿な理由も含めて、実に特異運命座標らしいプランである。
「みてた? アカネ、がんばったよ! えらい?」
「見てたよ。一矢で仕留める腕は流石だ」
「これで依頼主も安心してビーチを利用出来るでしょうね」
 地主の知人農家から差し入れられたスイカを頬張り、パパ達から褒められたアカネはご満悦だ。それも依頼の報告書に使うからとニコニコな集合写真を撮った辺りからうずうずと落ち着きがなくなる。
「折角の海ですし、BBQの火起こしが済むまで遊んで来てください」
 今度は魔物を誘き出すためではなく、海を満喫するために。冥夜が言うやいなや、アカネの手が京司と武器商人を連れ出した。

「仕込みは終わりましたよ。あかねは」
「向こう。商人がついてる」
 砂浜のデッキチェアに落ちた影へ京司は波打ち際を指し示してみせる。トラウマのせいで海には入れない自分の代わりに、あの人がいるなら万が一も起こり得ないけれど。
「ちゃんと目の届くところにいてくれる、いい子だ」
 砂の城を築く時も、貝殻を拾い歩く時も、こうして先にひと休みと引き上げて来てからもそうだ。視線の先を冥夜も追い、鮮やかな夕暮れのカクテルカリフォルニア・サンセット色へと染まる宝物を眺める。楽しければ楽しい程に、日の長い季節でもあっという間の時間だった。

「まだまだ、夏のレジャーはここからですよ!」

 今が盛りと躍る炎を照り返す、杯に満たされた黄金シャンパン。よく冷えたそれが喉を潤し、体の奥に残った熱を奪い去る。代わりに与えられる刺激と高揚感はノンアルコールだろうと構わないと思わせた。そうしてギフトにより出現したドリンクに合わせた前菜を振る舞う、まさに冥夜の独壇場父親フィールド全開
「アカネも、」
「肉が焼けたよ。おあがり」
 張り切る姿につられて立ち上がりかけた娘は焼き物担当の武器商人が大皿を置いてブロックだ。こんがり芳ばしい湯気にぐぅと欲求を訴えるお腹とお手伝いしたい気持ちで、アカネの天秤はぐらぐらと。もうひと押しだ、と目配せが送られた京司は片付け担当だからとすっかり任せっきりの姿勢で串焼きを摘んだ。
「……座って食べないと行儀が悪いんじゃないかな」
「さァ、冷めてしまわないうちに。野菜も一緒だとなお良いねェ」
 大好きな人達の言葉は少女を席に着かせるには十分過ぎた。「あい! いただきます!」と元気な返事を聞き、大人達はにっこり笑って何度目かの乾杯を告げた。
 
 炭は灰へ。賑やかな声は寄せて返す波音へ。こっくりこっくり舟を漕ぐアカネから握り締めたカトラリーを預かり、武器商人は彼女をそっと抱き上げた。
「そろそろお開きにしようか」
 むにゃむにゃと睡魔に抗う寝言に、みんなで笑いを噛み殺して立ち上がる。冥夜の段取りのおかげで、後半から片付けも並行していたから帰りの準備はスムーズだった。
「京ちゃん」
 ショッピングモールに倣うように武器商人とアカネの後に続く京司を呼び止める声は、数分前とは異なる響き。何か不手際でもあったかと振り返れば、真っ直ぐな瞳とぶつかって——
「……今日は楽しかったか?」
 ——ちゅ、と残った余韻。一瞬、質問の意図を掴みかねた間が冥夜の顔を僅かに翳らせる。そこから不安を的確に察するからこその恋人だろうか。
 父親としての、家族としての在り方。接し方。知らずに生きてきた自分が、あまりにも楽しく過ごした1日が正解か否か。終わりを前にして揺らぐ自信への返答は、同じだけの想いを込めたキス。
「楽しかったから夜は意地悪なしでご褒美あげる」
 引き寄せた耳元で囁けば、とてもイジメ甲斐のある反応が掌の上に。はやくも前言撤回しそうになるのを堪えて京司は歩き出す。追ってくる砂上の足音もまた、心を擽った。
 そんな恋人達の睦言は、銀の星と月だけが知っている。優しい揺籠の中、微睡む赤頭巾には子守唄にでも聴こえているのだろうから——


PAGETOPPAGEBOTTOM