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結び咲かすは恋蓮華

結び咲かすは恋蓮華/夏緒IL

登場人物一覧

アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
恋華
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者

●ليس كل مايلمع ذهباً
 ――9月26日。
   お会いできますか?
 そう綴った手紙への返事は、是を唱えていた。
 待ち合わせは熱砂の国ラサ。もう幾度も足を運んでいるアラーイスの店だ。
「お待たせしてしまってごめんなさい。ごきげんよう、メイメイさ――あら」
「……こんにちは、アラーイスさま」
 商談が思ったより長引いてしまってとパタパタと駆けてきたアラーイス・アル・ニール(p3n000321)は、甘いお茶とお菓子とを口にして待ってくれていたメイメイ・ルー(p3p004460)を見て動きを止めた。
(驚かせてしまった、でしょうか……)
 椅子から立ち上がったメイメイは耳を不安げに震わせ、どう説明しようかと言葉を探そうとした。
 ……のだが。
「まあ、メイメイ様!? 素敵。手も足もすらりとなされて。成長期、でしょうか? とても素敵に成長なさいましたね」
「あ、アラーイスさまっ」
 どうやらその必要は無さそうだ。素早く近寄ってきたアラーイスはメイメイの手を取り「まあ指が」と手のひらを合わせて大きさの違いを見たり、自身との身長差や伸びたメイメイの髪の長さを見たりと忙しい。
「お召し物は足りておりまして?」
 キランとアラーイスの目が光った。まるで獲物を見つけた肉食獣のようで、メイメイの耳がいつもよりも垂れた。
「め、めぇ。あ、アラーイスさま、今日はそんなことよりも」
「そんなこと!? 一大事です、メイメイ様!」
 クワッとアラーイスが牙を剥く。いつも淑やかに微笑む彼女の牙が見えることはないため、メイメイはその剣幕に少し吃驚した。それほどにアラーイスにとっては大事おおごとなのだろうと、メイメイは背中に隠していた小箱をきゅうと手で包み込んだ。
「メイメイ様は何も解っておりません! そこにお座りになって!」
「は、はい……」
 剣幕がすごく、メイメイはアラーイスに言われるがままに金色の房飾りが愛らしい椅子へ座った。ふかりと椅子に身を受け止められると、仁王立ちしたアラーイスとメイメイの視線の高さが同じくらいとなった。
「よろしいですか、メイメイ様」
 アラーイス曰く、少女の姿で似合うものと大人の女として似合うものは違うのだそうだ。少女性の愛らしさを引き立てるために作られたものは装飾にしても服飾にしても造形から違う。色にしたってそうだ。今まではこちらをと選んでいたものが、成長することによってこちらの色の方が……ともなるのだ。
「こうしてはいられませんわ。採寸をしましょう。大丈夫です、全てお任せくださいな」
「めぇ……」
 いけない、これではいつもと同じように押しの強いアラーイスに流されてしまう。
 メイメイは今日だけは絶対に流されてはいけないのだ!
「あの、アラーイスさま……っ」
 メジャーを取りに行こうとしているアラーイスを呼び止める。不思議そうな金色がメイメイに向けられると同時に、メイメイは小さな箱を差し出した。
「お誕生日、おめでとうございます」
 メイメイの手の箱と顔とを、アラーイスの視線が往復した。
「……メイメイ様。今日はわたくしのため、でしたの?」
「はい」
「そう、でしたの。わたくしはてっきり……」
「てっきり?」
「成長されたお姿を見せに来てくれたものと」
「それもありますが、アラーイスさまのお祝いがしたく、て」
「……憶えていてくださいましたのね」
 メイメイがアラーイスの誕生日を知ったのは、3ヶ月と少し前。メイメイの誕生日に『アラーイスさまの誕生日はいつでしょう、か?』『わたくしは9月の26日ですわ』と、自然な流れでの会話がなされたのだった。
「祝われるのはいつぶりでしょうか」
 小箱を受け取ってポツリと零された言葉に、メイメイは瞳を丸くした。
 華やかさを好むアラーイスのことだから毎年盛大に祝い、祝われて居るのかと勝手な印象を抱いていた。そうでないのなら『祝わないでほしい』と言っているのではと、メイメイは小さく息を飲んだ。
「アラーイスさまは……お祝いされるのはお嫌いですか?」
「……いいえ、メイメイ様に祝っていただけて、わたくしはとても嬉しいです」
 気を遣わせてしまいました、ね。見目に似合わぬ少し大人びた声音で、アラーイスが小さく笑った。
「幼い頃は祝って頂いておりました」
「お父様とお母様、でしょうか?」
「ええ。もう居りませんが」
 開けても良いですかと問うてから、アラーイスは小箱を開けた。中には愛らしい薄紅色の総レースのリボンが淑やかに座していて「可愛らしい。わたくしを想ってくださったのですね」とアラーイスが微笑んだ。
「あの、今日はわたしがアラーイスさまを飾り立てたくて」
「まあ」
 パチリと瞬いた金色に浮かんだ驚きは、すぐにとろりと蜜のように溶けた。
「メイメイ様に可愛くしていただけるだなんて嬉しいです」
 今しがた受け取ったリボンをメイメイの手に預けると、アラーイスはメイメイの手を引いて鏡台の前へと誘った。
「……小さな頃は、わたしも村の皆にお祝いしてもらっていました」
「ふふ、メイメイ様は食べ物がお好きですし、ご馳走に目をキラキラさせていたのでしょう?」
「あ、アラーイスさま……!」
 そんなに食いしん坊ではありませんと抗議したい気持ちはあるものの、でも美味しいものに惹かれてしまうのも事実。
「アラーイスさまが小さい頃は、どうお祝いされていたのでしょう?」
「わたくしは……」
 アラーイスは、鏡に映る自分と視線を合わせた。
「今日のメイメイ様のように母がわたくしにおめかしをしてくださいました。『今日は貴女をデザートプリンセスにしてあげる』と言って……わたくし、まだ、憶えていたのですね、母のこと……」
 鏡台の前に座る自分と――母の姿を思い出す。とっくに忘れてしまったと思っていたのに、不思議だ。
「……小さい頃のアラーイスさまは、お気に入りの髪型はありましたか?」
「わたくしは……三つ編みがお姉さんのようで好きでしたわ」
「わかります。わたしもねえさまたちみたいにって思ったりもして」
「ごきょうだいが?」
「はい。兄も姉も、大勢」
「大家族ですのね。わたくしはひとりでしたので、きょうだいと言うものに憧れておりました」
 柔らかな髪に触れながら、溢れ落ちる家族の話。「多すぎても良いものでもありませんよ」「おかずが減ってしまうから?」なんて軽口も弾ませる。
「アラーイスさま」
「はい、メイメイ様」
「来年も、再来年も、お祝いをしても良い、でしょうか?」
 アラーイスの髪を優しく梳って、リボンを編み込んでいく。
「…………はい。メイメイ様がお祝いしてくれるのでしたら、来年の誕生日が今からもう待ち遠しいですわ」
 僅かに応えは遅れたけど、アラーイスは本心からそう返した。
「アラーイスさまの一年が実りあるものでありますように」
 あなたが幸福でありますように。
 この柔らかな花綵の結ぶ縁がずっと続きますように。
 そうしてまた来年も、穏やかな誕生日を迎えられますように。
 祈りを籠め、メイメイがリボンを結ぶ。
 来年も再来年もこの日にお祝いしようと、心に決めて。











 来年は、来るのだろうか。
 光は、祝福は、選ばれた人にしか降り注がれはしない。
 この汚れた身で祝いを受けて良いのか、わからない。
 この身に『来年』があるとも思っていない。

 それでもあなたは、わたくしの幸せを望んでくださるのでしょうか。
 ――ね、メイメイ様。


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