PandoraPartyProject

SS詳細

全てを救いし剣閃

登場人物一覧

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
シフォリィ・シリア・アルテロンドの関係者
→ イラスト
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
アルテミア・フィルティスの関係者
→ イラスト

●銀蒼の閃穿
 -ーキーン、キーン。
「甘い……次っ!」
 蒼天が一面に拡がる中、響きわたる剣撃の音色と、男達の声。
 王城の傍らに備えられた広場には、十人程の鎧装備に身を包みし男達が、相互に剣を重ね合わせる。
 威勢の良い声は心地よく、それでいて勇猛果敢。
 この国を守るべく研鑽を重ねる、若き王国騎士達の鍛錬風景は、国の威勢を示すと共に、棲まう人達に安心を与える。
 ……そして、そんな王国騎士の一人。
「……っ……はぁっ!」
 組みし相手の太刀筋を冷静に見極め……その太刀筋を躱すと共に、研を跳ね上げるように振るう。
 不意を突かれた相手の手からは剣が弾かれ。
「……勝負あったな」
 静かに一言を告げ、紅き剣を仕舞う。
 そして広場の傍らにある、樽から水を汲み、ザバッ、と頭から掛ける。
 水飛沫が蒼天の陽光に煌めき、髪を、顔を濡らす。
 広場の策に背を預け、光の暖かさを一身に感じながら、暫し目を閉じ精神を研ぎ澄ます彼……そこに。
「よう、アンタだろ。ロギア・フィルティスって騎士はさ!」
 己が名を呼ぶ声……目を開くと、柵の上に登った若者が、ニッ、と笑みを浮かべている。
「……ここは鍛錬場だ。子供の来るような所ではない。今すぐ去れ」
 ぶっきらぼうに言い捨て、彼に立ち去るよう告げる彼……いや、ロギア。
 しかし柵の上に登った少年は、ニヒヒと笑みを浮かべたまま、立ち去る気配は無い。
 更にロギアは。
「鍛錬場は己が技量を研鑽する場だ。お前のような子供が来る所では無い……さっさと去れ」
 少し強い口調で、もう一度帰るように促すロギアだが、少年は首を振る。
 そして柵から飛び降りて、ロギアを見上げるようにしながら。
「俺はアルヴィンって言うんだ! なぁ、アンタ、強いんだろ? 俺に剣術を教えてくれよ!」
 その視線は希望に満ちていて……眩しいくらいに純真。
 そんな彼の視線にロギアは。
「……ほう」
 その様な純真な視線に、思わず感嘆の言葉を漏らす。
「……本気で私に剣を教えてほしい、というのか?」
 彼の覚悟を伺う様に、一際厳しい口調と共に、剣を鈍く光らせる。
 だが、アルヴィンはそれにも全く物怖じする事は無い。
 むしろ、意気揚々と。
「ああ、勿論だぜ! 手加減なんて無用、厳しく教えて欲しいんだ!!」
 と、満面の笑みで、ニッ、と笑みを浮かべるのであった。

●銀の交わり
「コン、コン」
 ドアを叩く、軽い音。
「……ようこそ、いらっしゃいました、シフォリィ様」
「いえ……お久しぶりです」
 『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は、迎え入れたメイドに頭を下げる。
「本日はご足労頂きまして申し訳ありません。ご主人様より話は伺っております。どうぞこちらへ……」
 導きしメイドに連れられて、フィルティス邸の主人の応接間へと通されると共に。
「ご主人様が来られるまで、暫くこちらでお待ちくださいませ」
 深々と頭を下げ、部屋を出て行くメイド……応接間にはシフォリィ一人。
 壁に掛けられた、時を刻む音が静寂の中に響く。
 その刻の音を聞きながら、シフォリィは。
「……引き取りに来て欲しい、というのは……果たして何なのでしょうか……」
 シフォリィがここに来た理由は、ロギアから直々に、彼女の父であるアルヴィンからの預かり物を取りに来て欲しい……という言伝。
 その預かり物が何なのか、というのは聞かされていないし、どういった物なのか、も想像が付かない。
 ……そして暫しすると……扉を叩く音。
「失礼致します。ご主人様が参りました」
 メイドがドアを開けると共に、ロギアが部屋へと入る。
「申し訳無い。待たせてしまったようで」
「いえ。ロギア殿……いつもアルテミアさんにはお世話になっております」
 頭を下げるシフォリィに、ロギアは軽く笑い。
「いや、こちらこそだ。アルテミアは、シフォリィ殿に迷惑を掛けたりはしてないかな?」
「いえ……そんな事ありません」
 ロギアの笑みに、幾分アルテミアの緊張も解けたようで……そして机を挟み、向かい合わせにソファに腰掛け。
「最近はどうかね? 色々と世界も争乱が起きているようだが、シフォリィ殿も忙しく飛び回っているようだな……その英雄譚は、アルテミアから良く聞いているよ」
「そうですか……英雄だなんて言われると、少し気恥ずかしい部分もありますが……ええ。理不尽な力に虐げられる方々を救わずにはいられませんから」
 真っ直ぐに、ロギアを見上げてくる瞳。
 その瞳の輝きに、ロギアは……懐かしさを感じる。
 その後も暫し会話を交わし……その話は自然と。
「それにしても……強くなったものだな。昔のアルヴィン殿の様だな」
 ふと零れたロギアの言葉に、はっ、と思い出したようにシフォリィは。
「……そういえば、本日私をお招き頂いたのは、父上からの預かり物を渡したいから……と伺っております。それは、何なのでしょうか」
 と言うシフォリィにロギアは。
「ああ……そうだな。全く……時が来るまで預けておくと言いつつ、先に逝きおって……」
 目を細め回顧するロギア……シフォリィは。
「……申し訳ありません、ロギア殿……私の父親は、どのような人だったのでしょう……」
「ん……? 父親の事を、私に尋ねるのかな?」
 問い掛けるロギアに、シフォリィは顔を少し伏せて。
「ええ……私が父親から聞いているのは、ロギア殿の弟子であり、そこから両家の交流が始まった……と言うのは聞いております。しかし……その他のことは、殆ど口にしなかったものですから……」
「ふむ……そうだったのだな。全く、あいつは……まぁ、そういう所もアルヴィンらしい、と言えばアルヴィンらしいがな」
 思い出すように目を細める……そして、シフォリィにロギアは視線を向けると共に。
「シフォリィ殿の言う通り、アルヴィンは私が王国騎士であった時に弟子入りしてきたのだ。それも直談判でな……それも今から50年も前の事だ」
 と、シフォリィに語り始める。

●鏡映しの
「……今日も来たのか?」
 アルヴィンが「剣を教えてほしい」と、突如言い出してから一月ほどが経過した頃。
 ロギアは「子供が来る場所ではない」、とずっと断り続けていた。
 だが……彼の同僚の王国騎士達に、いつの間にやら熱烈にロギアに鍛錬を付けて欲しいと訴え続けていたようで。
「なぁ、ロギア。あそこまで熱意を持って来てるんだ。稽古を付けてやってもいいんじゃないか?」
「ああ。ちょっと俺達も相手をしてみたが、子供なりにもしっかりとした太刀筋だったぜ。訓練を付ければ、かなり強力な騎士になるかもしれないぞ?」
 少し手合わせした同僚騎士達からも、稽古を付けてやれないか……と声が上がり始める。
 勿論、ロギアもその話を聞いて、何もしていなかった訳ではない。
 アルヴィンが文化系の名家であるアルテロンド家の坊ちゃんである、と知るにはさほど時間は掛からなかった。
 そして当然のことながら、文化系の名家の坊ちゃんが、剣の稽古を付けて欲しいだなど……水と油の如く真逆のことであり、本気だなんて考えもしていなかった。
 だが……同僚達からの話を聞く限り、生半可な思いで剣の稽古を付けて欲しいという事では無いらしい、と。
 ……そんな仲間達からの話を聞いたロギア。
「なぁ、頼むぜ。稽古を付けてくれって!!」
 諦める様子もなく、熱烈に稽古を付けて欲しいと熱望するアルヴィンに、ロギアは。
「全く……君は目上を敬う事も出来ないのか?」
 と告げる。
 アルヴィンは。
「目上……? ああ、そうだった。でも、俺様……いや、俺、剣を教えてほしいのは本気なんだ! だから、宜しく頼む……いや、頼みますっ!」
 勢いよく、取り繕う様に礼儀正しい言葉と共に、深く頭をさげるアルヴィン。
 それにロギアは、やれやれ……と軽く肩を竦めて。
「良し……では早速始めるとしようか。その剣を取れ……まずは私に一太刀を浴びせて見せよ。こちらも手加減は無く迎え撃たせて貰うがな」
 木を削り出した剣をアルヴィンの足元に置き、そして自分も木製の剣を手にする。
 まずは、その力量を計り知るが為……それにアルヴィンは。
「やった!! 良し、それじゃあ行くぜ!!」
 と、木製の剣を握りしめて、真っ正面から飛び込んでいく。
「甘い……!」
 当然、百戦錬磨のロギアからすれば、その太刀筋は容易に想定出来るもの。
 アルヴィンの剣の勢いを真っ正面から受け止めると共に、勢いを殺して……そのまま左へ薙ぎ払う。
「うわぁっ!?」
 鍛錬場の砂が舞踊り、その口に舞い込む。
 ゲホッ、と吐き出しながらも再び立ち上がり、また真っ正面からの剣撃。
「その様な太刀筋では、誰一人倒す事は出来ぬぞ!」
 またも容易にその攻撃を受け流し、再び地面に叩きつけられるアルヴィン。
 膝を擦りむき、血が滲み始める……でも、全然諦める気配もない。
「ただただ真っ正面から来るだけではダメだ。時には相手の裏を掻く動きをしてみろ!」
 厳しい口調で言い放つロギアに、アルヴィンは。
「ああ、わかったぜっ!」
 と頷き……次の太刀筋は、真っ正面から向かうと思わせ、ロギアの直前で左へジャンプ。
「何……っ……!?」
 彼の指摘をすぐさまに実戦に移すのには、素直にロギアに驚きを抱かせる。
 そして。
「てぇぇっ!!」
 そのまま、不意を突いて浴びせようと渾身の一太刀を振り落とすアルヴィン……だが、ロギアは。
「まだまだ、甘いぞっ!」
 一直線に振り落とされるアルヴィンの一太刀に対し、切り返しての一閃を放つロギア……アルヴィンの体は、その衝撃に高く、宙を舞うのであった。

「……良し。一旦休憩するとしよう」
 息が上がったアルヴィンを見て、武器を降ろすロギア。
「はぁ、はぁ……いや、やっぱり強いよなぁロギアは!」
 疲れを見せては居るものの、嬉しそうなアルヴィン……それに。
「敬いを忘れて居るぞ」
 と、軽く窘めながら、その横に腰掛け、ひしゃく一つの水を差し出す。
 受け取ると共に、ゴクゴクと一気に飲み干すアルヴィン。
「……プハァ! いやぁ、美味しいよな!!」
 と、満面の笑みを浮かべる彼の屈託無い笑顔。
 その笑顔に……ロギアは。
「しかし……何故武家の生まれではないお前が、騎士を目指しているのだ?」
 と、問い掛ける。
 対しアルヴィンは、屈託の無い笑顔で。
「んー……。ま、俺、実は別に騎士を目指している訳じゃないんだぜ?」
「……何?」
 騎士を目指している訳では無いのに、王国騎士である自分に訓練を付けて欲しい……?
 そんな不可思議な理由に、軽く首を傾げるロギアだが、アルヴィンは更に言葉を続ける。
「去年さ、王都で騎士の皆が一堂に会して武闘会が催されただろ? その時に俺が一番カッコイイって思ったのがロギアだったんだ! それに、並み居る強豪を次々と薙ぎ倒していくその強さもすげーって思ってさ!」
 目を輝かせ、夢を語るが如く憧れの相手を前に、饒舌に語るアルヴィン。
「あ、後領土が隣だから、通いやすいって思ったんだ!」
 憚る事無くもう一つの理由を口にするアルヴィンに。
「領土が隣……か。そんな理由でか……」
 と溜息を吐くロギア。
 だが、先に語られた言葉に疑問を抱き、更に一つ。
「しかし騎士を目指している訳ではない、というのはどういうことだ?」
 とアルヴィンに敢えて問い掛ける。
「んー……これは俺の考えだけど、騎士って国と自分の下に居る民を守るのが仕事だろ?」
 とアルヴィンは逆に問い掛けながら、ロギアの前に立つ。
 座ったロギアより、ほんの僅か上から視線を向ける彼が。
「俺は貴族の家に生まれた。苦労なく生きてく奴も、日々の暮らしに苦しんでいる者も、家族や大事な何かを失った人間も……一杯見る機会があったんだ。俺は、そういう「人」を、国家とか所属関係無く救いたいんだ!」
 ぐっと己が拳を握りしめるアルヴィン……そしてロギアを真っ直ぐに見据えて。
「俺が勇者アイオンのように……とは言わないけどよ。でもいろんな国の、いろんな奴を助けに行きたい。なら「騎士」ではなく「戦士」になりたい……それがオレの目標なんだ! その為にも、一番カッコイイって思ったロギアに稽古を付けて貰おうって思ったんだ!」
 拳を握りしめ、「騎士」ではなく「戦士」になる事で、皆を助けたいんだ、と強く、強く力説するアルヴィン。
 そんなアルヴィンの言葉に、目を閉じ暫し考えるロギア。
「……あ、何か気に障ったか?」
 黙るロギアに、ちょっと焦るアルヴィン……。
「大丈夫だ……君の思いは、良く分かった。ならば……そうなる為には暇をも惜しまねばなるまい。さぁ、立て。次のレベルの訓練を始めるとしよう」
 不敵に笑みを浮かべたロギアは剣を構え……猶予無く剣を振るう。
 鋭い太刀筋はアルヴィンを吹き飛ばし、彼の生傷を増やす……だが、彼に休憩する暇を与える事無く、更に二閃、三閃……と。
「っ……容赦ねぇな!? でもよ、その方がこっちも楽しいんだ。てやぁあああ!!」
 最初は驚くも、直ぐに嬉しそうな表情を浮かべて、剣を取って抗戦するロギア。
 剣閃の打ち合う音が響き……それを周りの同僚騎士達が歓声を上げて囃し立てる。
 ……そんなうち重なる剣閃の心地よい音に、ロギアは。
(「……国のための騎士ではなく、人の為の戦士……か。確かに、その在り方があってもいいだろう。この少年が成長した先に、何を為すか……見て見たいものだな……」)
 と……一生懸命に対抗する若き少年戦士の戦い方に、今迄に感じた事の無い嬉しさを感じるのであった。

●騎士の本懐
「……という訳だ。最初はどういうことか、とは思った物だが……今、こうしてシフォリィ殿の活躍を聞くと、アルヴィンの考えは間違いなく、引き継がれているようだな」
 過去を語りしロギアは、シフォリィに小さく微笑む。
 父親が口にしなかった、「騎士」ではなく「戦士」となりて、人々を守りたかったという願い。
 その思いは今のシフォリィにも確実に引き継がれており……彼女のおかげで命を掬われた、力を持たない人々も多く居るのは間違い無い。
 そしてロギアは。
「……昔話で長くなってしまったな……改めて、シフォリィ殿をよびだてた本来の用件に入るとしよう」
 と言うと共に、応接間の一角にある書庫に歩き、そして……数十冊の古びた本を手にし、二人の間の机に置く。
「コレが、アルヴィンから私が預かっていたものだ……見て見なさい」
 とその中の一冊をシフォリィの前に差し出す。
 表紙には日付と共に、アルヴィンの名が記されただけの、簡易的なもの。
「失礼します……」
 とシフォリィはその一冊を手にし、表紙を開く。
 ページの頭に記されたのは日付……そして、つらづらと記されたのは、アルヴィンの何気ない日常。
 一枚、更に一枚と捲って行くと……所々に記されていたのは、アルヴィンの人を分け隔て無く救いたいという、強い願い。
 ……数十頁を捲り、顔を上げたシフォリィにロギアは。
「……アルヴィンがこれを私に託したのは……そうだな、15年程前のことだ。その時も「頼むわジジイ、家に置いといて、間違って子供達に読まれたら、俺様困るからよ」……と、な」
 苦笑しながら、アルヴィンの語りを真似するロギア。
 だがすぐに、真摯な口調で。
「アルヴィンは、これから平和に向かう世の中にこれは必要無い、と押しつけてきた。だが……自分の子供達が戦いに向かわなければならなくなった時に、こいつを引き取りに来る。だからそれまで預かってくれ、と。そしてこれを預けられるのは、自分より強い「師匠」しか居ない、とな」
 そう言いつつ、シフォリィに。
「アルヴィンは、去り際に「俺達も頑張ったんだから、子供もやれない訳がないしな!」と言って居た。そして……今こそその時だろう、と思い、シフォリィ殿に返す時だ、と。あの頃のアルヴィンの様に、国、種族に関係無く誰かを護る為に戦う……それが出来るのは、アルテミアとその共である君だ。だからこそ、これはきっとこの先必要になる事だろう」
 と、言い聞かせるかの様に告げる……そして。
「……迷ったときに、きっとアルヴィンの言葉が、君を導く道しるべになる事だろう。勿論……記されていない事もあるだろうが、その時はまた私を訪ねてくると良い」
 優しくその肩を叩くロギア。
「……分かりました、ありがとうございます」
 深く頭を下げるシフォリィ……そしてアルヴィンの日記を手にしたシフォリィ。
 その帰り道で。
「私達の親は、こんな事を考えていたのね……」
 日記の言葉を思い浮かべながら、空を見上げる。
 夕暮れに差し掛かりし空は、幻想的な茜色に染まり……美しい光景を描く。
 そして……。
「……折角ここまで来たのですから、ちょっとアルテミアの家に寄っていきましょうか。この日記を……共に読み進めれば、何かが分かるかもしれませんしね……」
 と言うと共に……シフォリィはアルテミアの家へと向かうのであった。

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