PandoraPartyProject

SS詳細

咲き誇る夏の夜の花に魅せられて

登場人物一覧

フラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)
夜闇の聖騎士
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣


「まさか、夏祭りがあったなんて」
 驚いたように呟くフラヴィア・ペレグリーノ (p3n000318)の隣、セシル・アーネット (p3p010940)はほっと胸を撫でおろす。
(……実は知ってて今日を選んだのは秘密にしておこう)
 お昼、2人は命一杯に夏の浜辺を楽しんでいた。
 ほんの少しだけしんみりした時間もあったけれど、あの後も楽しく遊んだのだ。
 沢山遊んで、少しだけ疲れてお昼寝して、ホテルに戻って――夏祭りがあるらしいという話でここに来た。
「……セシル君?」
 こてん、と隣のフラヴィアが首をかしげる。
 普段ならさらりと流れるはずの綺麗な黒髪はくるんとまとめられている。
 その髪型は着付けて貰った華やかな赤い花柄の浴衣と合っていた。
 不思議そうに瞬く瞳はいつもの綺麗な色があった。
(なんだかいつもより大人っぽくて、それでいて可愛くなってる……)
 それは浴衣を纏う雰囲気だけではないだろう。
 浴衣に合わせて少しだけお化粧も施されている気がした。
 どきどきと胸が高鳴り、少しばかり頬が火照ってくる。
「えっと……その、すごく似合ってる」
「本当? えへへ……ありがとう」
 少しだけ照れたようにフラヴィアは微笑んだ。
 また、どきりと胸が大きく高鳴って、セシルは内心で首を傾げた。
「セシル君も碧色の浴衣、似合ってるよ」
「あ、ありがとう」
 セシルはてほんのりと頬を赤らめ、ゆらりと尻尾が揺らしちりんと音を立てる。
「そ、そろそろ行こっか」
「うん! 夏祭りかぁ……久しぶりだなぁ」
「そう、なんだ? じゃあ今日は沢山楽しまないとね!」
 セシルが歩き出そうとすれば、その隣に歩み寄ったフラヴィアが嬉しそうに笑った。


「ふふ、セシル君、ここ、綿あめついてるよ?」
「えっ、どこ?」
 入り口辺りにあった屋台から綿あめを購入した2人は食べながら歩みを進めている。
 小さくくすくすと笑ったフラヴィアはセシルの頬に触れ、くっついた綿あめを取ると、そのままパクリと食べてしまう。
「わぁ……あれ? フラヴィアちゃんも綿あめついてるよ?」
 セシルもフラヴィアの顔を見て、頬に着いた物を見た。
 それを拭ったセシルは少し逡巡した後、ぱくりと食べて。
「えへへ……なんだかこれ、恥ずかしいね」
 そんなことを言われて、セシルは逆に恥ずかしくなってしまった。
「……フラヴィアちゃん、人も多いから、その……手」
「そうだね、ありがとう」
 少しだけ驚いた後、フラヴィアが微笑んで手を伸ばし、そっと手を繋ぐ。
「じゃあ、行こう!」
「うん!」
 頷きあい、歩き始めてから少し、見えてきた屋台にフラヴィアが不思議そうに首をかしげる。
「どうかしたの?」
 セシルは聞きながら顔をフラヴィアの視線の先を見た。
「あれは……射的?」
「射的っていうんだ……玩具の銃で景品を落とすってこと?」
「そうだね。やってみる?」
「うん!」
 2人で歩みを進めて屋台の前に立てば。
「おうおう、青春だねぇ」
 屋台の親父は2人を見て笑う。
 少しだけ気恥ずかしくなりながら、セシルは銃を取った。
「フラヴィアちゃん、欲しいものはあるかな?」
「うぅん……あ、あのぬいぐるみ、可愛いかも」
 そう言ったフラヴィアの指し示したところにはイルカか何かのぬいぐるみが見える。
「任せて!」
 セシルはゆっくりとそちらに銃口を向けて引き金を弾いた。
 コルク性の弾丸が放たれ、ぬいぐるみを掠めていく。
 玩具である分の使いにくさがあった。
 2発目も逸れた3発目――パンと放たれたいるかの頭部がぐらりと揺れて倒れこむ。
「すごい! すごいよ、セシル君!」
 目を輝かせるフラヴィアが貰ったぬいぐるみを手に嬉しそうに笑って。
 セシルはそれに思わず笑みをこぼした。


 2人の夏祭りは夕暮れを経て、夜に向けて進んでいく。
 夕焼けのオレンジが夜の闇に移り変わっていく。
 提灯やランプの灯りが灯り、しっとりとした夜に進んでいく。
 セシルは手を繋いで隣に座る少女を見る。
 夕焼けに映えていた黒髪はしっとりとした闇にとけるように見える。
 夕方から夜に変わって、より大人びたように見えるのはどうしてだろうと、セシルはそう思った。
 大きなりんご飴をちろちろとなめていたフラヴィアがその視線に気づいたように首をかしげた。
「セシル君?」
「なんでもないよ! フラヴィアちゃんは愉しい?」
「もちろん! えへへ、連れて来てくれてありがとう」
 照れたように笑ったフラヴィアに、セシルも逆に照れ臭くなって微笑んだ。
「セシル君、この後はどこに行こう?」
 フラヴィアが首を傾げて問いかけてくる。
「どうしよう……」
 うーんと首を傾げたその時だった。
 不意にアナウンスの声が聞こえてくる。
「花火……?」
 フラヴィアがアナウンスの内容に首をかしげる。
「あ、もうそんな時間なんだね」
 よく考えてみれば、夜に入ったのだからおかしくはない話だ。
「フラヴィアちゃん、見に行こうよ」
「うん!」
 セシルは先に立ち上がり、闇色の少女に手を差し伸べる。
 そっと取られた小さな手はセシルの手を確かに握り返してくれた。


「あれ? 花火ってこっちで良いの?」
「うん、こっちに穴場があるんだって」
 手を繋いだままに歩みを進めて、小さなベンチの並ぶ場所に着いた。
 会場からそれほど離れているわけでもないが、ベンチに座っている人物はそれほど多くない。
「座って待ってようか」
 セシルが言ってベンチに腰を掛けた所で、ひゅぅと音が鳴った。
 天へと伸びる音の後、炸裂音が響いて闇夜に花が開く。
 鮮やかに咲く天の華は色彩豊かに輝いて魅せる。
「すごい……」
 隣でフラヴィアの声が小さく呟くのが聞こえた。
 それはきっと、綺麗な花火であったと思う。
 だがセシルにはそれは目に入っていなかった。
 声に吊られて横を見た時から、セシルの目はフラヴィアの横顔にくぎ付けだった。
 花火に照らされるフラヴィアの顔はとても綺麗だった。
 横からでも印象に映るのはフラヴィアの瞳。
 星を抱くような印象的な目が花火に照らされて、どきりと胸が高鳴った。
(すごい綺麗だけど……なんだろう)
 どくん、どくんとその横顔に胸の高鳴りが止まらない。
 セシルはそのまま、ぽぅ、とその様子を見続けていた。
 それは花火が終わった後も、暫くの間落ち着かなかった。


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