PandoraPartyProject

SS詳細

青い空に透き通るような夏の思い出を

登場人物一覧

フラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)
夜闇の聖騎士
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣


 寄せては返す穏やかな波がざざぁと音を立ている。
 夏の陽射しは砂浜を熱し、からりとした空気が潮風を連れて去っていく。
「よいしょ……っと」
 パラソルを砂浜に突き立てたセシル・アーネット (p3p010940)の足元ではフラヴィア・ペレグリーノ (p3n000318)が倒れないように固定する作業に入っている。
「パラソルを組み立てるの手伝ってもらってごめんなさい……ごめんね。
 えへへ、まだ少し敬語抜きになれてないや」
「ううん、私の方こそ、荷物を持ってもらってありがとう……」
 少し照れた様子ではにかむセシルにフラヴィアもそう言って曖昧に微笑んだ。
 もくもくと小さめの椅子をセッティングする間、2人の間にほんのりとした沈黙が入る。
「……そ、そうだ」
 椅子のセッティングを終わらせた後、顔を上げたセシルは、首をかしげるフラヴィアを見る。
「そろそろ水着に着替えてこようか! 僕は荷物を見てるから、フラヴィアちゃんは着替えてきて」
「う、うん。直ぐに戻ってくるから」
 こくりと頷いたフラヴィアが水着の入っているであろうバッグを手に走り去る。
 セシルはその様子を見ながらほっと一息を吐いた。

「……ただいま」
 上着を脱いで下に着ていた水着に着替えたセシルが荷物番をしながら待っていると、そんな声と共に影が差した。
「おかえり……!」
 声のした方を振り向いて、息を呑む。
 そこには可愛らしい青色の水着に身を包んだフラヴィアが立っていた。
 照れたように少しだけ頬を赤らめる少女がすとんと隣の椅子に座り込む。
「フラヴィアちゃんの水着、可愛い……よく似合ってるよ」
「……えへへ、ありがとう……セシル君は着替えて来てたんだね。セシル君も似合ってると思うよ?」
 嬉しそうに笑った少女はそう言った後、顔を上げて驚いたように言う。
「うん、僕のは上を脱げばいいだけだから……ありがとう。
 それじゃあ、さっそく海で遊ぼう!」
「うん! ええと……まずはビーチボールからやろうよ!」
「うん、いいよ!」
 セシルは隣にあるボールを取って言えば、フラヴィアが立ち上がる。
 気恥ずかしさを逸らすように2人は笑いあう。


「それじゃあ、フラヴィアちゃん! 行くよ~、それ!」
 セシルは持ってきたビーチボールを軽く投擲する。
「はぁい!」
 緩やかに走り出したフラヴィアはそれを追う。
 ビーチボールは青い空を透いてくるりと空を舞う。
 落下するビーチボールをフラヴィアが軽くトスの要領で返せば、今度はセシルがそれを打ち返す。
 あくまでお遊びの、準備運動の1つとでも言える穏やかなボール遊びから、ひと夏の思い出は始まった。


「わぁ!」
 波に誘われて砂が指の間を抜けていく独特の感触にフラヴィアが声をあげた。
「もう少し先まで行ってみよう!」
 セシルはもう一歩前へ、腰ほどの高さまで海の中へ。
「セシル君!」
「どうしたの?」
「えい!」
 不意に声をかけられて首を傾げた瞬間、顔に向けて海水が伸びた。
「わぁ! やったなぁ!」
 ぷるぷると顔を振って、セシルは逆にえいっと水を吹っかける。
「きゃぁ!」
 愉しそうな悲鳴と一緒にフラヴィアが笑った。
「フラヴィアちゃん、浮き輪どうぞ!」
「ありがとう」
 頭の上からかぶせて上げれば、そのままぷかぷかと浮かぶ。
 セシルはフラヴィアの乗った浮き輪を押しながらのんびりと泳ぎ始めた。
「そういえば、フラヴィアちゃんは旅をするのが好きなんだよね」
 セシルは何となく泳ぐままに声をかけてみる。
「どんなところを旅したの?」
「どんなところ……うぅん」
 フラヴィアは浮き輪の上で少しばかり首をかしげる。
「いろいろ行ったよ? 初めに行ったのは……ええと」
 少しだけ、考える様子で少女は言う。
 それは思い出すような雰囲気というよりも、言葉を選んでいるような感じだった。
「天義を除くとラサだったかな?」
「あの傭兵さんたちや商人がいる?」
「うん、綺麗な遺跡を見たんだ。
 綺麗なオアシスや宝石がたくさんあったよ。
 その後は、幻想に行って……」
 そこまで言うと、彼女は少しばかり言いよどむ。
「色々あって、天義に戻ってきたんだ」
 何かを言い淀んで、省略してからそう言ってフラヴィアはぎこちなく笑った。
 ローレットの古い資料で、見た覚えがあった。
 彼女の語る旅行先はそれぞれオンネリネンの子供達が活動した場所だ。
 だとするならば――幻想で言い淀んだのはきっと、言いたくないことがあるからだろうか。
 楽しいことを沢山して、美しい物を沢山見て、それらは大切な思い出で――
 でも、同時に、言い淀むぐらいに昏いものもあるのだろう。
 そう理解するには十分すぎる要素だった。
「そっか……」
 聞いてみた内容にセシルは思う。
 オンネリネンの子供達、アドラステイアの傭兵部隊。
 その部隊長の語る旅行先はイコールで任務で訪れた先でもあるのだから、楽しい事ばかりではないだろう。
「ねえフラヴィアちゃん」
 ――だからこそ、セシルは思う。
「……どうかしたの?」
 少しだけ申し訳なさそうにそう言ったフラヴィアに、セシルは精一杯の笑顔で笑いかける。
「もし、今天義で起きてる事件が落ち着いたら一緒に行きたいな。
 フラヴィアちゃんにとっては、楽しい思い出の場所ばかりじゃないかもしれないけど……僕も見てみたいんだ!」
 フラヴィアが目を瞠る。
 気を使ったわけじゃないのだと、真っすぐに見据えた瞳が合わさって。
「……そうだね」
 そう言って、フラヴィアが微笑を零す。
「私もね、今の事件が終わったら、行きたい場所があるんだ」
「行きたい場所? どこ? そこにも行こう!」
「うん――アドラステイアに行ってみたい。先生のお墓を移したいんだ」
 そう言って微笑んだ少女の表情に今度はセシルが驚く番だった。
「セシル君、一緒に着いてきてくれる?」
「もちろんだよ!」
「……ありがとう」
 零すように微笑んだフラヴィアは不意に浮き輪を抜け出して海に潜った。
 セシルが驚く前で顔を出したフラヴィアは気持ちを入れ替えるように笑みを浮かべ。
「折角遊びに来たんだから、難しいことは考えないようにしようよ!」
「フラヴィアちゃん……そうだね、目いっぱい遊ぼう!」
 頷いて、2人は砂浜へと戻っていく。


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