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世界に愛を告げる前に、ふたりだけで
登場人物一覧
- ヤツェク・ブルーフラワーの関係者
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幻想の町並みを包み込んでいた。
黄昏に進む夕焼けの空は夏の終わりに進もうというのだろうか。
「……ヘレナ」
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は橙色に包まれた教会の内側にいた。
ステンドグラス越しの夕日が大理石の床をオレンジに包み、赤い絨毯とコントラストを形作る。
「……はい、ヤツェク様」
声を掛けられた娘は、ゆったりを微笑を刻む。
「そのなんだ……」
手を取ってみる。
細く、白い肌とシミの無い白い手がそこにはあった。
覚悟は、決めている。
言葉を選ぶ――までもない。
たおやかに笑う貴婦人へと、続けるべきは決まっていた。
「次はたくさん人を呼ぶ式をしよう。その前に、俺の手で言わせてほしいんだ」
ヤツェクの言葉にヘレナは微笑みを浮かべるままだ。
「おれはアンタを一人になんてさせない! 健やかなる時も、病める時も、ずっとだ」
詩人としてロマンチックな誓いを考えていた。
だが、実際に口に出してみれば、それはあまりにも直球に他ならない。
それはヘレナへの物であるのは当然として、今は亡き彼女の先の夫への誓いであり、今は亡き彼女の娘への誓いであり、自分自身への誓いである。
「ヤツェク様」
彼女の手を取ったその手の上から小さな白い手が包み込んだ。
「先だって、貴方はわたくしに仰いましたね。
『おれはいずれアンタを残して死んで、それでアンタを泣かせるぞ』と」
優しい声だった。
崩れ落ちそうな声で穏やかな声だった。
「わたくしはやっと、貴方のために泣けるのです。
貴方の手を取って貴方に愛を囁けるのです。けれどその前に、1つだけ」
上目遣いに穏やかに笑った女は、するりとヤツェクの手を外して、両手を頬に触れた。
「――いつか、わたくしを置いて死んでしまうのだとしても……どうか。
どうか、戦場で還らずに死ぬのだけはお辞め下さいませ。
わたくしは、貴方の返ってくる場所でありたいのです」
「……約束は、できない……が、善処はしよう」
「ふふっ、そうですか」
頬に触れる手を取ってヤツェクが言えば、エレナは小さく嫋やかに微笑んだ。
「……この後、なんだが」
声を漏らしたヤツェクは、少し深呼吸をする。
「アンタをおれの領地に――アーカーシュに招待したい」
「アーカーシュ? 鉄帝の空にあると仰られていましたね」
不思議そうに彼女が首をかしげる。
軽く説明してやれば、少しだけ驚いた様子が見えて。
「……とても素敵な景色が、見れるのでしょうね」
綻ぶように笑う彼女に頷いてやれば。
「もちろん、それ以外の場所にも色々と行こう。
加護の鳥には絶対にしない。おれはもう少しだけ素直に生きることにしたんだ」
「それは――楽しみです」
驚いて、また笑った婦人の笑顔は夕焼け色に染まっていた。
- 世界に愛を告げる前に、ふたりだけで完了
- GM名春野紅葉
- 種別SS
- 納品日2023年09月17日
- テーマ『『Orange Summer』』
・ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
・ヤツェク・ブルーフラワーの関係者