PandoraPartyProject

SS詳細

約束だから

登場人物一覧

セス・サーム(p3p010326)
星読み



 あれは夏の日の入り頃、わたくしが学園の廊下を歩いていた時でした。夕焼けの陽射しが射す廊下に誰かがポツンと1人だけいたのです。

 タン、タン……

 妙に静まり返った廊下で彼女は教室の扉に嵌め込まれていた磨りガラスを、小さな掌で叩いていました。わたくしは彼女の顔に見覚えがありました。わたくしが司書を務める図書館へ良く通っていた少女の1人でした。名前は、筑紫さんといいましたね。

「筑紫さん。もうすぐ日が暮れます、帰らないと危険ですよ」

 仕事柄、わたくしはそう彼女に声をかけました。その学校では『ヨル』の危険性は常識でしたし、用事が無いなら早く家に帰るべきと思ったからです。すると彼女は私の方を向いて無表情に見つめてきました。図書館では快活な印象を受ける方でしたので、不思議に思って内心で少し首を傾げていると彼女はこう言ったのです。

「セスさん。ここ、開けて」

 ここ、と彼女は教室に繋がる扉を指さしました。見たところその扉は良く見る引き戸で変わったところはありません。

「……立て付けが悪いのですか?」

 わたくしは尋ねました。立て付けが悪いのであれば後ほど用務員さんに報告する必要があると思ったからです。

「……中に入らなくちゃいけないの。約束したから」
「約束、ですか」
「うん。ずっと一緒に居るって」

 なるほど、約束とあればきっと大切なものなのでしょう。彼女の手伝いをしようと思い、わたくしはその教室の扉に手をかけました。立て付けが悪いのかと思った扉の戸はスッと開いたものですからわたくしもよかったと思いながら彼女を促したのです。

「どうぞ」

 彼女はそこで図書館でよく見る様に嬉しそうに笑いました。ありがと、とわたくしにお礼を言うとそのまま教室の中に入っていったのです。

「ぎゃあああああああああああああああっ!!」

 直後、教室の中から誰かの悲鳴が聞こえました。それは筑紫さんの声ではなく男の声でした。わたくしはその声を聞いてすぐに教室の中に入ったのですが……そこには男はおろか、教室に入っていった筈の筑紫さんもいなかったのです。わたくしは何も見つけることができず、結局そのまま立ち去ることしかできませんでした。

 ……その後、筑紫さんがわたくしとあの日の廊下で会う少し前に亡くなっていたことを知りました。不思議なことに、その日から彼女と親しかった教師も1人行方不明となっていて……今も、行方がわかっていないそうです。


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