PandoraPartyProject

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友達

登場人物一覧

ムラデン(p3n000334)
レグルス
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

 夕焼けに世界が沈んで。
 世界が穏やかな日常を取り戻す。
 壊れてしまったものはあれど。
 それでも救えたものは、山ほどにあり。
 崩れてしまった光景の中に、穏やかな夕焼けが、差し込む。
 その夕焼けの赤の中に、赤髪の少年がたたずんでいた。
 ムラデン。レグルス竜である彼は、傷ついた体を抑えながら、どこかぼんやりと、ヘスペリデスを見ていた。
「……その」
 と、声がかかる。
 水天宮 妙見子が、いささかばつが悪そうに、そう言ったのだ。
「……つらい、ですよね。この光景は」
 ヘスペリデスは甚大な被害を受けている。ムラデンが滞在していた『別荘』のような場所も、もう跡形もないのだろう。
「……いや」
 ムラデンが声を上げた。
「別に……と言ったらうそになるけど。一番大切なものは、二つとも無事だったからね」
 ふ、と、いつものように生意気に笑った。
「壊れたら直せばいい……ってのは、ニンゲンの前向きな奴だろ?
 それとも、キミはそういうのはあんまり?」
「いえ」
 妙見子は頭を振った。いや、どうなのだろう。思い返してみれば、元の世界において神であった妙見子に、『破壊』はあっても、『再生』はなかったのかもしれない。
 でも、今は違う。
 永久に失われるものでないのならば、きっと取り戻せる。
「最近は、わかるようになりました」
「そっか」
 そういって、ムラデンは胡坐をかくように座り込んだ。その隣に、妙見子がちょこん、と座ってみる。
「ムラデン様」
「呼び捨てでいいよ」
 つっけんどんにそういった。
「キミ、戦いの時もさんざんに呼び捨てだっただろうに。だから、いいよ。僕も――たみこでいいか。たみこって呼ぶから」
 そういうのへ、妙見子はなんだか、とても驚いた顔をしたから、ムラデンも不思議そうな顔をした。
「……名前間違えてたか? ごめん、そこはニンゲンからみたら、竜の傲慢なところだ」
「いえ、あってるのですけど」
 表情は変えずに、妙見子が続ける。
「ちゃんと覚えてもらっているとは思っていなくて」
「キミ、僕の事どんだけ……まぁ、いいや。許してあげる」
 ふ、とムラデンが笑った。
「なんか妙な感じだな……っていうかキミ、割と気安いよね。子供っぽくない?」
「それは」
 そうなのかもしれない、と、ふと思う。
 永い時を生きてきた。元の世界では、神として。そうなれば、自分より上位か、対等の存在というものに、であったことがないのだ。
 上位存在に求められるのは、峻厳さであろうか。少なくとも、同年代の気安さなどは求められまい。そうであったから、妙見子もその様にふるまっていたのかもしれない。
「そうかもしれませんね。私は――その。『対等』な存在……っていうと、割と傲慢なんですけど。神とか、上位存在とか、そう言う人たちとは、深く付き合ったことがなかったので」
「え、キミ僕のこと対等だと思ってんの?」
 ムラデンがからかうように言った。
「キミも大概傲慢だな……ま、別にいいけど。竜に認められる奴なんてのは、そういう奴らなのかもしれないからね」
「認めてるんですか?」
「そう言うのきき返すの、デリカシーないって言われたことあるでしょ」
 ふん、とムラデンは鼻を鳴らして、それから、え、と声を上げた。
「もしかしてキミ、僕の事友達だと思ってんの? マジで?」
「友達?」
 妙見子が、小首をかしげた。
 友達、と、口に出してみる。あ、ああ。そうか。そういうものか。なんだか、ふと、そんな気持ちがしてきた。
 友達になれると思ったから、話そうと思ったのかもしれない。友達になれると思ったから、心から助けたいと思ったのかもしれない。
 出会いは最悪だったけど。なにか、通じるものがある、と。
「あ。そうなのかも」
「マジで? キミ、割と無自覚でそういうこと言うんだ……。
 え、じゃあ、決戦の時の――『手をつないでくれますか?』って、あれも、なんか無自覚?」
「無自覚っていうと……?」
「いや、僕ってば空気の読める竜だからさ、さすがに黙ってたんだけど。
 あれ、マジでプロポーズみたいじゃん。たみこって無自覚でそういうこと言うんだ?」
「え」
 そう気づいた瞬間、妙見子の顔が夕焼けのように真っ赤に染まった。
「ええええええええええっ!? いや、そう言うのじゃなくて! いえ、ほんとそういうのではなくて!!」
「え? うわー、傾国だ。そうやっていろんなニンゲンをたぶらかしてきたんだろ、上位存在(笑)」
「ちょ、ちょっとまって!? ほんとに!? ええっ!?」
 夕焼けの空の下で、慌てる妙見子の様子に、ムラデンは笑った。


 ……その姿はたぶん、仲の良い友達のように、見えたに違いない。
 竜と人間は違う存在だ。竜は圧倒的な力を持ち、人間などは歯牙にもかけない。
 ……それでも、どこかで、歩み寄ることができたのならば。
 きっとその結果は、こういう光景なのだろうと。
 夏の夕暮れの中に、人はそれを見るのかもしれない。


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