PandoraPartyProject

SS詳細

二人だけの、おもいで

登場人物一覧

ソア(p3p007025)
無尽虎爪
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活

 夕暮れ時、生温い風が風鈴を揺らす。そう、此処は幻想の寺院──回廊に吊るされた色とりどりの風鈴が揺れ、人々を楽しませる。

 ──綺麗だねぇ。
 ──うん、風鈴も音も。
 
 立ち止まり、また、歩き出す。

「エスト、見て。スイカの風鈴がある!」
 回廊に華やかな声が響いた。ソア(p3p007025)だ。ほっそりとした指先で風鈴を熱心に指差す。爪には海色のジェルネイルがぴかぴかと涼しげな色を放ち、サマーフェスティバル夏のイベントで用意した浴衣と帽子を身に纏っている。
「本当だ、よく見つけたね」
 その音は短く、軽快な音だった。ガラス製の風鈴を見つめるのはエストレーリャ=セルバ (p3p007114)だ。白地に幾何学模様が描かれた浴衣にピンクの帯と足元には黒色のビーチサンダル。
「でしょー?」
 ソアは言った。大きな瞳が細められ、八重歯が見えた。エストレーリャが好きだから──可愛いも綺麗も何だって教えてあげたい。そんなソアの気持ちが伝わってきた。
「美味しそうだねぇ」
「ソアみたい」
 三角形のスイカの風鈴はソアの言う通り、とても綺麗で美味しそうだった。
「どーいうこと?」
「ソアもスイカも美味しいってことかな」
 エストレーリャは笑った。スイカの風鈴は真っ赤な果肉に黒い種が散らばり、今にも甘い果汁が滴り落ちそうだ。きっと、スイカも
「え? あっ」
 その瞬間、意味を理解したであろうソアの顔がスイカのように赤くなった。エストレーリャは目を細め、ソアを見つめる。君はどうしてこんなにも可愛いのだろう。ソアが甘えたようにエストレーリャの腕に触れ、「大好き」と呟く。嬉しかった。嬉しくて嬉しくて、頬が緩んでしまう。
「エスト、にやけてる?」
 ソアは笑った。
「うん、ソアのせいだよ」
 エストレーリャも笑った。
「そっか」
 ソアは言った。
「うん」
 頷く。愛されていることが心地よかった。
「ソア。あとで、スイカのかき氷を食べに行こうね」
「え、スイカ!」
 ソアは目を見開く。変わっていく感情にエストレーリャは目を細めるのだ。愛おしく、とても眩しい。
「うん、スイカ」
「あるの?」
 ソアは小首を傾げた。
「あるよ、スイカのかき氷」
「この近く?」
「うん、近くに見つけたんだ」
「そっか。あれ? それってもしかして、こーりの巨人?」
 ソアは言った。エストレーリャは目をぱちくりし、「懐かしいね」と微笑む。
 そう、一緒に高山に登ってかき氷の材料を集めた。覚えていたことが、何だか嬉しかった。
「あの時のかき氷も美味しかったね。でも、今度はお店なんだ」
「うん、美味しかった。そっかぁ、かき氷たのしみ! スイカ〜! スイカのかき氷!」
 全力で喜ぶソアが愛おしい。
「ふふ。急いで食べて頭がキーンってなるソアも可愛いね」
 エストレーリャがくすくすと笑う。
「え~? エストもキーンってなるよ、ぜったい! だって、甘くてつめたくて、おいーしもん! あっ、二人でゴロゴロしちゃう?」
 ソアがエストレーリャを見つめる。そう、脳裏には冷たいかき氷によって、地面を転がった仲間の姿が浮かんでいる。
「ふふ、それもお揃いでいいね」
「おそろい! しゅき……同じだとうれしいの」
「僕もだよ、ソア」
 エストレーリャはソアと笑い合う。穏やかで幸福な時間だ。エストレーリャは息を吐き、思った。

 触れたくて触れられたくて
 抱きしめたくて抱きしめられたくて
 好きだと伝えたかった。

 だから──エストレーリャは人目を憚ることなく、ソアの頰に口づけたのだ。回廊をともに巡る見知らぬ人々の視線に触れ、エストレーリャの身体は燃え上がった。でも、それで良かった。だって、今、キスがしたかったのだから。
「エ、エスト!?」
 ひゃんと驚き、ソアは頬に触れながらあっという間に真っ赤になった。
「ひ、人がいるよぉ」
 ちらちらとソアは周囲を見つめ、声をひそめる。
「人がいたらだめ?」
 エストレーリャは素知らぬ顔をする。
「え? ううん、だめじゃないけど……」
「びっくりした?」
「うん、びっくりした」
「ソア、可愛い」
 エストレーリャは微笑む。ソアはエストレーリャを見つめている。
「じゃあ、エスト……今度は口にして」
 ソアは誘うように唇を指さし、エストレーリャに抱きつく。
「今だったら、人がいないから……」
 大きな瞳がエストレーリャを誘う。どきりとした。その身体は熱く、汗の匂いソアの香りがした。息が漏れる。心が揺れ、欲望の影が黄昏のように伸びていく。好きな人に求められることは、どうしてこんなにも嬉しいのだろう。幸福で、胸が苦しくなる。
「好きだよ、ソア」
 抱きしめ、キスをした。ぴくりと身体を震わせたソアが可愛くて、エストレーリャはチョコレートのようなキスを何度も繰り返した。舌が、唇が、身体が、心が震える。満たされていく。でも、もっと。夢中だった。風鈴の音が聞こえる。
「エスト、ボクも……いっぱい好き」
 掠れた声、濡れた舌先が見えた。ソアは瞳を潤ませ、真っ赤な顔のまま、笑った。エストレーリャは頷く。夕暮れの、オレンジ色に染まった回廊はとても静かで人の声さえも聞こえない。ソアとエストレーリャだけが風鈴の音色を聞いている。
「ありがとう」
 エストレーリャは言い、手を繋ぐ。熱い手だった。
「うん!」
 ソアは嬉しそうにまた、風鈴を見上げる。ふと、夏の匂いがした。金色の髪が揺れている。生温い風を感じながら、「きれいだねぇ」とソアが笑った。心が揺れる。ソアが見ているのは、水風船の模様が描かれた風鈴だった。それは真横に並び、楽しそうに揺れている。陶器の柔らかな音が心地よい。
「うん、綺麗で凄く楽しい」
 エストレーリャは強く頷く。

 人のいない回廊は、まるで違う世界を歩いているようだった。風鈴の音がやけに響いている。それになんだろう、とても涼しい。冷蔵庫の中に迷い込んだような、不思議な感覚がした。
「涼しいね」
 ソアは言い、わっと笑う。
「エスト、寒かったのはこのとびらのせい?」
 目の前には薄い氷の扉があった。
「そうだと思う。でも、どうしてここにあるのかな?」
 エストレーリャは驚きながら言った。パンフレットには書かれていなかった。
「不思議! ね、開くのかな? エスト、あけちゃう?」
 ソアは目を輝かせた。エストレーリャは扉を見つめる。ドアノブに触れても大丈夫だろうか。一瞬、そう思ったけど危険な感じはしなかった。エストレーリャはそっとドアノブに触れ、驚く。それはグミのように柔らかく僅かに温かい。
「温かいよ。ソアも触ってみる?」
 エストレーリャの言葉にソアはドアノブに触れ、目を見開いている。
「わ、ほんとだ。びっくり!」
「ね、不思議だね」
 そんなやり取りをしている間に扉は開いた。覗き込むとそこには氷の階段が三つあった。赤・青・黄色の階段だった。

『お好きな場所へ』

 足元が光り、文字を刻んでいく。

『真っ赤な階段──氷の水族館へ *氷漬けのいきものがおります。とても寒いので良ければこちらの媚薬をお飲みください。

 青の階段──氷のレストランへ *苦手なものがありましたらスタッフにお伝えください。へんてこな食べ物と飲み物がございます。

 黄色の階段──ピンク色の砂漠へ *ご安心ください。住人達は優しく、ひからびることはございません』

 ソアとエストレーリャは見つめ、笑い合う。さて──どれを選ぼう。


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