PandoraPartyProject

SS詳細

あの時思い出した宇治金時の味をまた味わいたくて

登場人物一覧

すずな(p3p005307)
信ず刄
一条 夢心地(p3p008344)
殿
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う

 ミーンミンミンミンミンミンミン。
 夏の風物詩とも言える蝉の鳴き声。
 耳にするだけで身体が暑さを訴えてくる。照り付ける太陽、肌を撫でるそよ風さえ生温く感じるのは気のせいではない。その上でこの蝉達の大合唱である。この音が鳴っている時は暑いのだと脳が記憶してしまっているかのように、体感の気温は上昇していくばかりだ。
「あちー」
 殿の中の殿である一条 夢心地も、この熱気の中では流石にポテンシャルの三割も出せずにへばっていた。
「夢心地様、言葉遣いが崩れておりますよ」
 縁側の角から此方へ向かい声かける女人の声。音さえ歪んでしまいそうなこの空間の中においても涼やかに耳朶に響く。
「澄恋か。崩れて悪い事があろう。暑さへ文句を述べて蝉の声を感じ入り、こうして縁側で何も無い時間を此奴と過ごす事こそが夏の風物詩であろうよ」
「そ、それは……!」
 ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミンwww。
 隣に腰かけた澄恋が夢心地の手元を覗き見ると。
「そうじゃ、夏の供。あずきアイスである」
 カッチカチに凍った棒付きの氷菓。おしるこをそのまま凍らせたのではないかというぐらいシンプルなあずきの甘さと、時には凶器ともなりうる暴力的な硬度。中々溶けない、だからこそ良い。
「安心せい、そなたの分もある」
 どこから持ち出したかクーラーボックスの中から一本取り出して澄恋に手渡す。空気を含んだ袋を手で一気に圧して。
 ぱぁん!
 破裂する袋からあずきバーを取って舐め始める澄恋。突っ込もうと思ったけれど、同じ目には遭いたくないのでそのまま流す夢心地。
「……流石はあずきアイスじゃ、なんともないの」
「そうですねぇ」
 ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミンwww。
「ほほほ、蝉も同意しとるのう」
「蝉はわたしが剛力過ぎて竜をも屠りそうだと御思いなの、だということ……?」
 ミーンミンミ……ッ! ジジ……ジ……。コトリ……。
 気迫を喰らって木から落ちてFINALしてしまう蝉。余計な同意をするからだ、澄恋様に向かって。ね、そうですよね!
「あちー」
「あちー」
 なんやかんやあって再度のんびりアイスをシャクシャクし始める二人。たまにはこんな何もない一時を過ごすのも悪いことでは無い。無為な時間こそが我らにとって何よりも大事な時間なのだと夏は教えてくれていたのだ。
 完。

●いぬ、来襲。
「あちー」
「あちー」
 しかし平和というものは直ぐに終わってしまう。
 うごうごうご。
 うごうごうご。
 何時の間にやら茶色っぽいなにかが二人の足元を蠢いている。気づいてしまってはそっぽを向くにも難しい。
「なんでしょうか」
 つんつんと突いてみれば小さくうめき声をあげてその場で揺れるだけ。かろうじて人型だった気配はすのだがと、観察を続けていると夢心地が気づく。
「この特有の湿っぽさ……まさか、すずなかえ!?」
「すずな様!?」
 そう、この溶けているいぬこそすずななのである。その証左として溶けてなお、澄恋の角を磨こうと清潔なハンケチーフを持っている。
「いかん、この暑さで溶けかけておる。澄恋、これを!」
「はい!」
 夢心地がボックスから新しいアイスを二本取り出して澄恋に渡し、彼女がそれを両手に力を込めて圧すれば一瞬で袋が破裂して開封される。
「すずなーーーー! 大丈夫じゃ、今助けるぞ!!」
 返されたあずきアイスをすずなの頬に押し当てると、みるみるうちに吸い込まれていく。どういう仕組みなのか。
「すずな様! 生きてくださいませ!!」
 悲痛な声で澄恋が逆側の頬らしき部分にあずきアイスを押し当てる。
 炎天下、すずなを救おうとアイスを押し付ける構図。一夏のドラマである。練達で映画化決定。
「しっかりせい、すずなーーこれでもかーー!」
 中々回復しないすずなに夢心地が秘奥の技、めりこみ螺旋あずきを放つ。円を描くように連続したあずきアイスの押し付けを柔らかそうな頬に押し付ける。澄恋も見様見真似で螺旋させる。
 ここに来て漸く、漸くすずなが反応を見せた!
 しゃりしゃりとめりこんで消えていくアイス。確実にすずなに浸透しているだろう。溶けかけていた彼女が人の形を形成し始め、やがていつもの姿に戻って。
「すずな様! 無事だったのですね!」
  感動、これがヒューマン物の最高峰。長編で語られてもおかしくないお涙頂戴という展開だ。

「無事じゃねーーーですけど!!!!」

 よく視なくても、頬の辺りがあずきアイスでべちょべちょである。
「すずな、よくぞ生き残ってくれた」
「何をやってやった感だしてるんですかね」
 震えて怒りを抑えるすずな。既に夢心地と澄恋は距離を取り始めて逃走準備に入っている。
「助けようとしてくれたことは感謝します、でも捩じり押し付けは絶対――許さない」
 ここだけ抜き取れば真面目に見えなくもないという程のオーラ。
 捕まった終わり。これは人情劇でもなんでもない、只のデスゲーム。
「逃げるのじゃ!」
「はい!」
 夢心地の声を合図に駆ける二人。しかしこの炎天下に加え、澄恋は元来速度を捨てて力に振り分けた配分をしている。このままでは直ぐに追いつかれてしまうだろうと、理解している。
「(ならば……!)」

「澄恋は上手くやったみたいじゃな。後は麿が逃げるだけ」
「まぁちなさぁぁぁぁい!! 罰を、私と一緒にかき氷屋を開くのです!!」
 此方に狙いを定めたか、徐々に縮まっている距離。夢心地といえどもこのままでは捕まってかき氷の奴隷にされてしまう。如何にすべきか、悩める時間は余りにも少ない。ならば、決断するしかないのだ。
「あっち! あっちに澄恋が饅頭を装っておるえ!!」
「饅頭ぅ?」
 すずなが夢心地の指さす方を見てみれば、澄恋が道の脇で蹲って饅頭に擬態していた。
「どうして饅頭?」
「白いから……いけるかな、と」
 いやぁぁぁぁぁ!!
 ゼノポルタの慟哭と布で磨かれる音が周囲に響き渡る。
「澄恋が堕ちたか、そなたの分も麿は」
 売っといて何を。しかし、この世は戦国。生き残るには友をも犠牲にしなくてはならない。鴉も鳴き始める夕焼け空。夜まで逃げられれば安心だと、おあつらえ向きな裏路地から出ようとしたその時。
「手伝ってくれますよね。かき氷屋」
 澄恋を脇に抱え、にっこりとほほ笑むいぬの姿がそこに。

 To Be Continued……。


PAGETOPPAGEBOTTOM