PandoraPartyProject

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太陽が沈む瞬間

登場人物一覧

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと



 ──ラサ。
 それは無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオス大陸中央部の砂漠地帯を占める国。
 
 これは嘗ての『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)のお話。



 彼女が幻想レガド・イルシオンはローレットを経由して訪れたのは傭兵ラサ傭兵商会連合。ローレットでの国の資料では混沌大陸中央部の砂漠地帯を根城にしてるだ。傭兵と商人が結び付く事で共同体を形成した連合国家だと書かれていて、フラーゴラとしてはラサの大名物である闇市が収集家コレクターとしての血を騒がせたのだろう、今日はそれを楽しみにこんな砂漠の都まで足を踏み入れたのだった。
「わ、ぁ……」
 人が行き交う様子、商人達の活気ある声、自由を謳歌する街人の喧騒……フラーゴラにとってどの国とも違う色を見出していた。
(……なんだかみんな、意外と……長袖の人が多い……?)
 これは後ほど解る事だが。
 湿気のないカラッとした暑さが目立つ砂漠では、何でもかんでも薄着で居るよりもダボっとした薄手の長袖の方が推奨される。何故なら日光を避ける場所が少ない砂漠で最大の敵となるのは直射日光。肌が焼けるかのような感覚に襲われ火傷のような酷い状態にまで日焼けする可能性の方なのだ。それ故にアラビアンな物語に出てくる姫君や勇者が何故か露出が少ないのもその辺りから来ているらしい。
「お嬢ちゃん、珍しいものが揃っているよ」
「え? わぁ……綺麗……」
 気のいい商人に声をかけられ引き寄せられると、そこにはパドゥミラと言う土地の特産物であるアズライトを加工した装飾品の数々。
「いいだろう? 一番人気は手頃なブレスレットでね……あ、あとはコイツ! アズライトの大粒を贅沢に使ったピアスもお勧めってね!」
 商人は上手い具合にフラーゴラへ語りかけるものだから彼女もうーんと悩んでしまう。
「嬢ちゃん嬢ちゃん! アズライトも勿論勧めるが俺んとこの砂国産物も見てってくれよ、あの大商人パレストんとこが監修してる詰合せなんだ、ラサ土産には持って来いだろう?!」
「わぁ……パンや肉……あ、香辛料まで入ってるんだ……!」
 パレストとはラサを代表する大商人。様々なコネクションを活用しながらこの砂漠の市場の大半の権力を締めていると言っても決して大げさではないだろう。
 結局フラーゴラは商人達の圧に負けて沢山買い物をしてしまったが、勧められて買ったはもののどれも良いものには変わらないだろうと、帰った時に開ける楽しみが出来て彼女は笑顔を綻ばせた。商人達は良いものをどう売るか日々考えている……それなりに知識も要する大変な事だろうなと、後に自分も商人になる等この時は思っても見なかっただろう。

 今日は泊りがけでラサに来たフラーゴラは、夢の都と称されるほど美しい砂都ネフェルストにあるパレスト印のホテルを取っていた。

 夜のラサは少女が出歩くには危険が多い。
 傭兵達が酔いながら酒屋をハシゴしてるところに出くわせば酷く絡まれるかもしれないし、遊び人がカジノやら遊戯事で負けた帰りに出くわせばとばっちりを受ける可能性も含めつつ、この砂都に暗躍する人身売買組織に目をつけられる可能性も高い。危険な大人が多い中で少女の一人歩きはあまりにも無防備と言う事をローレットで少し聞いていた彼女はホテルへと足早に向かう。
「景色が凄い部屋……って言ってた、かな」
 それなら夜のラサを楽しめなくても。そう思いながら歩いていると
「キュイー!!」
「え、え、わ、わぁっ?!」
 何かの気配を感じた頃には視界の低いところから突然生き物が横切り、驚いて尻餅をつかなかったのは獣種ブルーブラッドである彼女が故だろう。
「おおすまんね嬢ちゃん。ちぃとうちンとこのカピブタが走り出しちまってよぉ」
「い、いえ……カピブタ?」
「ん? 知らねぇかい? カピブタってのはこのラサに生息する愛玩動物として人気のヤツでな〜」
 異世界で言うところのカピバラとブタが混ざったような……と言う表現は後に知る。
「元気で可愛いヤツなんだが、個体差でやんちゃ過ぎるヤツも少なくなくてな……驚かせて悪かった」
「いえ……」
 そう言いながらカピブタが横切った先へ視線を向けると

「わ、わぁ……」

 そこに広がるのは見事なオレンジ。ネフェルストを夕焼けが照らしていた。
「……ラサの夕焼けを見んのは初めてかい?」
「うん……」
「なら良いもんを見たな! 俺達は毎日見っけどやっぱ他んとこよりここの夕焼けが俺も気に入ってるのさ! きっとさっきの可愛いヤツカピブタもこれ見たさだったのかねぇ」
 ガハハと笑う男の傍らでフラーゴラは思う。

 ──きっとここがワタシの居場所になる。
 嘗てローレットの書物で知った自分の名前が異世界のとある国の言葉で夕焼けトラモントだと知ったその日から彼女は自分の夕焼けを探していたのかもしれない。

 それが彼女が大好きなラサに住む事にした一番の理由だった。


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