PandoraPartyProject

SS詳細

私の中、新しい景色

登場人物一覧

イーレ C セント(p3p008791)
Orange Summer

「嬢ちゃん、買ってくかい!」
 まだまだ蝉も元気な炎天下。頬を滴る汗を拭いもせず、まだまだ壮年と言えるだろう男性が気勢良く声を出す。
「……此処では何を売っているの?」
 数瞬のタイムラグ。
 私に話しかけていると理解出来ずに反応が遅れてしまった。
「あぁん? 嬢ちゃん、たこ焼きも知らねぇのか?」
 たこ焼きってのはだなぁ、食いでがあって、可愛くて、愛嬌があって……。
「いや、そういう意味ではなく」
 どうやら質問するには言葉選びを間違っていたらしい。たこ焼きという食べ物があるのは知っている。どうしてそれを此処で、神社の中で売っているのだろうと疑問を抱いていただけなのだ。
「どうでぃ、わかってくれたか? んで、どうする」
 次に掛ける言葉を考えている内に、彼のたこ焼きへの愛は語り終えたらしい。どうしようか、と思いつつも私は懐からお金を取り出して男に渡す。
 まいど! とにっかり顔で渡してきた袋を覗き込めば、透明な使い捨て容器の中にソースと散りばめられた鰹節が広がっている。
「焼きたてだから火傷に気ぃつけてな。人もわんさか歩いてて危ねぇんで、食うならこの屋台並びの先に座って食える場所あっから、そこに行きな」
「うん、ありがとう」
 指を差した先、建ち並ぶのはたこ焼き屋と同じ様な屋台。
 今更ながら気付いたのは、自分にそこまでの馴染みが無かったからか。
「お祭りだったのね」
 進む者、戻る者。人の濁流に身を任せながら歩いていく。
 人混みの中を歩く疲労はある。それでも「まぁいいか」と思わされるのは非日常への特別感だろうか。
 そんな得体も無い事を考えながら、私は奥へと奥へと足を運ぶのだ。

 混んではいたが、一人なこともあって直ぐに席に着けた。
 道中で買った戦利品をテーブルに置き、最初はやはりたこ焼きだろうと袋から取り出してパックの蓋を開ける。
 少し冷めてしまったたこ焼きの柔らかな生地、塗りたくられたソースとふんだんにまぶされた青海苔は店主のサービス精神か、単に大雑把なのか。
「しょっぱい」
 思わず口に出してしまうぐらいにソースの塩辛さが目立つ。青海苔が多くてなんとか誤魔化せてる程に。
 それでも食べる手は止まらない。
 良い所が出てこないのに、私はこのたこ焼きに満足を得ている。
「これが、祭りの魔力」
 遠くから響く太鼓の音。
 イーレ C セントの中には無かった橙色の夕焼け空を。
 夏の風物詩を。
 確かに経験していた。

おまけSS『屋台』

「これ……後はこれもください」
 飲食スペースに向かう道中、たこ焼きだけでは寂しいかなと思って幾らか追加で買い足していた。
「まいど、お客さん……」
「ん」
 次は何を買おうかと見渡していたので油断していた。声を掛けられなんだろうとチョコバナナ屋の店主に視線を向ければ。
「持てるか? 袋あるから、これに纏めておきな」
 気づけば両手、両腕が袋で沢山。
 たこ焼きから始まり、ヨーヨー釣り、射的で大きなぬいぐるみを落とし、焼きそば、綿あめ、りんご飴。
「ありがとう」
 好意を有難く受け取り、大きな袋に纏める。
 果たして食べ切れるだろうか。

 不安に思っていた数分前、ちゃんと美味しく食べ切りました。
 これも祭りの力。


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