PandoraPartyProject

SS詳細

温もりと鼓動

登場人物一覧

フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇

 ビーチで遊び始めた時は空はまだ青く、白い雲がふわりふわりと流れていくのを見ては、綿あめのようだねと笑い合っていた。シロタイガー・ビーチの透き通った海の水に足を浸し、時折いたずらに海水をすくい上げてはお互いにかけあった。
 散った水滴がきらきらと光り、身体にかかった海水もまた太陽の光を映して、健やかな肌を輝かせる。ひんやりとした海水は身体を覆うような暑さを忘れるのに丁度良く、何気ないことに笑い合っては、心ゆくまで海での遊びを楽しんだ。

 遊び疲れた頃には陽は傾いていて、鮮やかな橙色で空は染め上げられていた。蒼かった海にも夕焼けの色が混ざり、反射させる色を変える。その情景を見ないで帰ってしまうのには惜しく、フーガと望乃は昼間に用意したパラソルの下に座り、陽が暮れていく様子を眺めていた。

「夕方になって、少し涼しくなりましたね」
「そうだな。過ごしやすくなってきた」

 シレンツィオの真夏の海は久しぶりだった。フーガにとってこの浜辺は、望乃と初めて出会った大切な場所だ。美しい景色に対する感銘だけでなく、一年前の鮮やかな記憶もまた、フーガの胸を満たしていく。危険な仕事もするフーガたちにとって、生きてまた同じ場所に来られることはとても嬉しいことで、その分思い出が光る。
 景色を見て思い浮かべた風景は望乃も同じだ。故郷を離れて初めて訪れた夏の海は思い出の地と呼ぶのに相応しい。初めて出会ったあの時よりもフーガとの距離が近いこと、彼とたくさんの時間を過ごして、お互いの事を知って、去年よりも好きになっていること。そのことにどきどきして、何となくフーガの顔を見るのが照れくさい。

 さっきまであんなにはしゃいでいたのに。望乃は思う。
 夕暮れのビーチは人もまばらで、パラソルの下に二人きり。たったそれだけで距離がぐっと縮まったような気がして、フーガの体温を感じられるように思えた。

「夕日、綺麗ですね」

 照れ臭さを誤魔化すように夕日を指さす。向こう側に沈んでいく夕日と、周辺を彩る橙。頭上を見れば橙色は次第に藍色に染められていて、静かに色を変えていく。藍と橙は海にも落ちていて、斑な色合いは遠くまで混ざり合っていた。

 海の風景は綺麗で、目を奪うものがある。だけどやっぱりフーガのことが気になってしまって、望乃は頬を赤く染める。フーガはハーフスパッツタイプの水着にラッシュガードという爽やかな格好で、朗らかに笑う彼によく似合っていた。

「どうしたんだ?」
「あ、いえ。フーガの水着姿が素敵だなと思って」

 つい見惚れてしまいました、なんて言葉は恥ずかしくて言えなかったけれど、フーガには伝わってしまったようだ。フーガは照れ臭そうに項を掻き、ふにゃりと表情を崩した。

「望乃こそ、すごく綺麗だ」

 去年の望乃の水着は緑色のフリルの水着で、それも可愛らしくて素敵だった。今年の水着も勿論可愛らしくて素敵だけど、薔薇色のドレスを思わせるデザインや胸や腰にあしらわれたリボンはただ愛らしいだけでなくて、大人らしい艶やかさを引き出している。傍らにふわふわとした花弁の薔薇が咲いたようで、見つめる度にフーガの心臓はとくりと音を立てる。

 水着のデザインが違うだけでこんなに雰囲気が変わるなんて。そんな驚きの気持ちはあるけれど、望乃が大人の歳になったからではないかという気もする。二人の過ごした時間もそこに含まれているようで、何だか嬉しい。

 褒められた薔薇の花弁は、フーガを見つめてふわりと微笑んだ。
 年をかさねて、少しだけ大人になって、少しだけ背伸びをして選んだ水着だ。ちょっぴり大人な雰囲気はフーガをドキドキさせられたようで、胸のうちで鮮やかな色が弾ける。

 暑いけれど、もう少し近づきたい。この胸で輝く感情を伝えたい。そう思って望乃がフーガを見ると、フーガも同じことを考えていたらしい。フーガの優しい目がじっと望乃を見つめていた。

 フーガにとって望乃の温もりは優しくて特別なものだ。くっつくと暑苦しく感じる季節ではあるが、触れたいと願う気持ちに季節なんて関係ない。ラッシュガードを脱いで望乃に向かって手を広げると、フーガより小さな身体が静かに倒れこんでくる。細い腕が背中に回されて、満たされるような思いがした。

 特別な温もりを独り占めして、望乃はそっと目を閉じる。
 顔が熱くなっているのが分かる。きっと耳まで真っ赤になっているだろうけれど、それは夕焼けの色に染められているせい。

 とくとくと伝わる鼓動。響く波の音。触れた温もり。それらは時折重なって、フーガと望乃の身体にだんだん溶けていく。このまま静かに抱きしめ合っていればひとつになれるような気がして、このままでいたいと願った。



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